無機物を原料とした「化学肥料」
化学肥料とは、生物に由来しないリン鉱石やカリ鉱石などの無機物を原料とした肥料のこと。化学肥料が水に溶けて根が吸収することによって効果が表れるため、一般的に有機質肥料と比べて速効性はありますが、持続性は低くなります。また、鉱物から生成されているので、悪臭を発することがないという点において優れています。
化学肥料は、窒素・リン酸・カリウムという作物の成長に必要不可欠な「肥料の三要素」のうち、1つの無機成分のみ含まれる「単肥」と、2つ以上の成分を含む「複合肥料」に分けられます。それぞれの特徴を見ていきましょう。
三要素の1つだけを含む「単肥」
単肥とは、窒素・リン酸・カリウムのうち、1つの無機成分だけを含む肥料です。そのため、その時々に足りないものをピンポイントに補うことができ、異なる単肥を組み合わせて使うこともできます。
ここでは、硫安、尿素、硫酸カリウムなど、代表的な単肥の特徴についてご紹介します。
・硫安
硫安(硫酸アンモニウム)は、水に溶けやすい性質を持つ窒素肥料です。速効性があり、価格が比較的安くなっています。効果は約1カ月持続しますが、気温が高い時期や雨期には持続期間が短くなります。
・尿素
尿素は、水に溶けやすく速効性があるという点では硫安と同様の窒素肥料ですが、硫安よりも窒素含有量が多くなっています。湿気を吸うと固まる性質があるため、保管時には密閉する必要があります。水で薄めて液体肥料として使われることも多く、葉からも吸収されやすいため、葉面散布にも使われる肥料です。
・硫酸カリウム
硫酸カリウムは、カリウムのみを含む肥料で、速効性があります。カリウムが作物に吸収された後は土に硫酸が残り、土壌を酸性にするため、pHのバランスに気を付ける必要があります。効果に持続性がないため、元肥と追肥に分けて施しましょう。
・過リン酸石灰
過リン酸石灰は、リン酸のみを含む速効性の肥料です。リン酸は土の中を移動しにくい性質があり、根に届くまでに時間がかかりますが、即効性の高い水溶性リン酸を多く含む過リン酸石灰は他のリン酸単肥と比べて効果が早く得られるため、元肥だけでなく追肥にも使われます。
・熔成リン肥(ようりん)
熔成リン肥は、水に溶けにくい性質を持ち、植物の根や土壌微生物の働きによってゆっくりと効果を表すリン酸肥料です。アルカリ分が50%と多いため、土壌のpHを調整する効果もあります。
三要素を2つ以上含む「複合肥料」
窒素・リン酸・カリウムの三要素のうち、2つ以上の成分を含んだ肥料が複合肥料です。三要素のうち2種類以上の成分を物理的に混ぜ合わせた「配合肥料」や、三要素のうち2種類以上の成分を原料にして化学的に製造した「化成肥料」などがあります。複合肥料の成分比によって、含まれる三要素のバランスが異なるため、適した複合肥料を選ぶことで、使用する肥料の種類を減らすことができます。
有機物を原料とした「有機質肥料」
有機質肥料は、植物の油かすや動物の排泄物、魚粉などの有機物を原料とした肥料のこと。土の中で微生物に分解されてから、植物の根を通して栄養素が吸収されるため、化学肥料よりも効果が表れるまでに時間がかかります。
その一方で、効果の持続性が高いのが特徴です。窒素・リン酸・カリウムの三要素が含まれており、種類によって三要素の含有量や比率は異なります。
有機質肥料は、「植物質肥料」と「動物質肥料」の2つに分けることができます。牛ふんや鶏ふんなどを使用した「堆肥」も有機物を原料としているため有機質肥料といえますが、法律上では有機質肥料ではなく「特殊肥料」に分類されています。
ここでは、植物質肥料と動物質肥料、それぞれの特徴を見ていきましょう。
ゆっくりと効果が表れる「植物質肥料」
植物質肥料は、植物由来の原料で作られた肥料です。三要素すべてを含みますが、それぞれの成分が含まれる量は少ないという特徴があります。化学肥料とは異なり、窒素の効果が表れるまでに時間がかかるため、元肥として利用されるケースが多いです。主な植物質肥料としては、油かすや草木灰(そうもくばい)などがあります。
・油かす
油かすとは、菜種や大豆、ゴマなどから油を搾った後に残ったかすを利用した肥料で、窒素肥料として用いられます。土壌の微生物を増やす働きがあり、土壌改良材としても使われます。
・草木灰
草木灰は、草木を焼いた灰を使った肥料で、カリウムを多く含みます。
比較的速効性のある「動物質肥料」
動物質肥料は、魚や獣など、動物に由来した原料で作られた肥料です。三要素のうち窒素とリン酸が多く含まれ、カリウムはほとんど含まれていません。有機肥料の中では速効性があるのが特徴です。動物質肥料として使用される物には、主に魚粉や骨粉などがあります。
・魚粉
魚粉は、魚から水分や脂肪分を抜き、乾燥させて粉砕した肥料です。植物質肥料よりも速効性があります。窒素とリン酸を豊富に含み、元肥としても追肥としても使用可能です。
・骨粉
骨粉は、動物の骨を高熱で処理した後、乾燥、粉砕した肥料です。主にリン酸を多く含み、ゆっくりと効果を発揮します。
主な肥料と相性のいい野菜
窒素やリン酸、カリウムの三要素は植物全体の成長に影響していますが、その中でも特に、窒素は葉、リン酸は果実、カリウムは根の成長を促す性質が強いといわれています。
それぞれの肥料と相性の良い野菜をいくつかご紹介します。
硫安×ホウレンソウ
窒素肥料の硫安は、小松菜やホウレンソウ、パセリ、チンゲンサイなど、収穫までの期間が短い葉物野菜に適しています。元肥として使われるほか、速効性があり水に溶けやすい性質を持つため、追肥としても使用します。
熔成リン肥×トマト
熔成リン肥は、花や果実の成長を促し、ゆっくりと効く性質があるため、トマトやナス、ピーマンなど、果実をつける野菜や果物と相性が良い肥料です。使用する際は種まきや植え付けの前に培養土に混ぜておきます。
硫酸カリウム×じゃがいも
硫酸カリウムは、茎や根の成長を助ける性質があるため、じゃがいもやさつまいもなどと相性の良い肥料です。元肥・追肥として使用できます。
農法や作物に適した肥料を選ぼう
肥料の種類別の特徴をしっかりと把握し、適切な使い方をすることで、作物の栽培の失敗を防ぐだけでなく、品質を高めたり、立派な作物へと成長させたりすることができます。
肥料の種類が多い上、与えすぎや不足のサインを見極めることは初心者には難しいかもしれませんが、正しい知識を身に付けることが大切です。農法や作物にぴったりの肥料を見つけて、栽培と収穫をもっと楽しみましょう。
監修:農研機構 野菜花き研究部門 菊地 直