害獣も苦手な野菜は食べない?
ある春の朝のこと、昨晩までは収穫間近で青々としていたはずのジャガイモとニンジンの畑が、一夜にして荒地と化していました。キツネに化かされたような気分でしばらく呆然(ぼうぜん)自失。もちろん犯人はキツネではなく、イノシシとシカでした。そして、目の前の光景は現実でした。
長年耕作放棄地だったところを開拓中の私の畑には、そこら中に獣道があります。周囲を防獣ネットで囲むものの、一度味をしめたケモノの執念はスゴい。ネットを破り、アルミ柵をねじ切り、どうにか侵入して、毎晩のように畑のものを食い荒らされました。
イモ類の中では食べられにくいと聞いたサトイモをはじめ、「ほとんど食べられない」と聞いた作物ばかりを植えたつもりでしたが、ナスやズッキーニ、ホウレンソウや空心菜などの葉物、さらにはパクチーまで食べられてしまいました。今思えば、あれは「食べる優先順位が低い」にとどまる話だったのでしょう。
何度タネをまいても、いくら苗を植え直しても、収穫が近づくと食べられてしまう「賽(さい)の河原」のような状況に、いつしか「イノシシに畑を荒らされる夢」まで見るようになりました。ほとんどノイローゼです。
無償でケモノたちに食べ物を提供し続ける「ケモノ食堂」と化した私の畑。それを救ってくれたのは電気柵でした。
結論からいうと、7月上旬に設置してからは、毎晩のようにあった獣害がひとつもなくなり、ようやくまともに農業ができるようになりました。
ここまで読んで、「うちも同じ!」という方のお役に少しでも立てるよう、私の体験を書いていきます。
電気柵設置にかかる経費と労力
上が私の畑の図です。三方を山に囲まれており、右のブロックは防獣ネットと柵(アルミとワイヤーメッシュ)で囲んでいます(図の緑線)が、左のブロックはまだ開拓が進んでいないこともあり、無防備でした。問題となるケモノは、足跡から判断するに、イノシシがほとんどで、時々、シカとアライグマ。
今回は、左のブロックを中心に、外周約200メートルを電気柵で囲いました(赤線)。
200メートル分にかかる経費
電気柵はパワーユニット本体(ソーラー発電機付き)とワイヤー、支柱(木製支柱・樹脂製ポール)などの一式で10万円ほどでした(ワイヤーは200メートル・4段分)。いずれもサージミヤワキ株式会社から通販で購入。
ホームセンターで売っている防獣ネットとイボ竹などの材料で囲い、ワイヤーメッシュで補強した場合でおよそ7万円かかることを考えると、そんなに高いとは思いませんでした。
また、電気柵の場合、経費の半分ほどが支柱の代金なので、木材を自給できる人はずっと安くつくることができるでしょう。自治体によっては設置費用の補助制度も設けられており、要件を満たせばさらに負担を減らすことができそうです。
意外と簡単! 設置にかかる労力
「電気柵って設置が面倒くさそうだな」と思っていましたが、設置するのはとても簡単でした。支柱は基本は樹脂製のポールですが、要所には、より丈夫だということで、木製の支柱(防腐加工済み)を使いました。木製の支柱を深く打ち込むのが大変なくらいで、私1人で半日ほどで設置が完了。すべてに樹脂製のポールを使用したり、作業に慣れてきたりすると、数時間もかからないと思います。
押さえておきたい設置のポイント
なんせ初めてのことなので、設置の際にはサージミヤワキに勤める友人・宮脇健太朗(みやわき・けんたろう)さんにポイントを聞きながら施工しました。細かいことは電気柵のマニュアルに書いてあるので、基本のポイントを数点ご紹介します。
獣種に適した高さにする
私の畑で大被害を受けやすいイノシシとシカを念頭に置いて、写真のような高さにしました。
大事なのは、ケモノが毛皮で守られていない鼻などに触れさせられるような高さにすること。また、ワイヤーを視認させることで、触れると痛いワイヤーがあることをケモノに示すことだそうです。
これでいまのところ、侵入は皆無。他の獣種に対応する高さも図にしておきますので、参考にしてください。
傾斜地や凸凹部分での張り方には注意
ワイヤーは地面と平行に張るのが基本です。ただ水平に張っていくだけだと棚田などの傾斜地では地面との間が広がってしまい、そこから侵入されてしまいます。傾斜地や畑に凸凹がある部分は、支柱を増やして、隙間を開けすぎないようにします。
「夜間のみ放電」は危険
ちょっと意外だったのは「夜間のみ通電」は危険だということでした。
電気柵のパワーユニットには、節電のため、ケモノの少ない日中は通電しない「デイオフ」という機能があります。ところが、人に慣れて警戒心の減ったケモノは昼間も平気で人里に降りてくるようになるため、被害を受けるケースもあるそうです。
わが家のパワーユニットは常にスイッチオン状態ですが、心配なのはソーラーの充電切れ。しかし、大雨が続いてもソーラーの充電が切れることは実際にはありませんでした。
メーカーによると、朝から夕方まで、まんべんなく日が当たる場所に設置することが大事だそうです。
設置後1週間の見回りを怠らない
設置後1週間が勝負、と宮脇さんは言います。最初の段階で、電気柵の効果を適切に発揮させ「ここは危険なところだ」とケモノたちの心理に働きかけることが大事だそうです。
新たに電気柵を設置するとケモノたちが様子をうかがいにやってきます。この時に設置方法に手落ちがあると、杭を倒す、穴を掘る、抜け道を探すなどして、侵入を試みてくるケモノたちに入られてしまいます。そのまま放置しておくと怖がらなくなってしまうため、毎日の見回りと、侵入を許した場合は小まめに修繕をするのが大事なようです。
ケモノの足跡が柵と平行についていたら「きちんと怖がっている証拠」だそうです。
合わせ技で効果テキメン!
わが家のパワーユニットの能力はワイヤー800メートル分となっています。左のブロック(18アール)を囲っても少し余ったので、右の防獣ネットを張っているところにも、ネットの外に1〜2段の小さな電気柵を配線して囲ってみました。
これが、卓効。ネットを破られることも、柵を破壊されることもピタリとやみ、すべての作物がちゃんと収穫できるようになりました。
中山間地で農業をすることはケモノと常に知恵比べをするようなものです。この電気柵も何かの拍子に、いつ侵入されてしまうかわかりません。この夏は、トレイルカメラ(遠隔監視カメラ)を設置して観察するとともに、狩猟免許も取得することにしました。その話もまた、どこかでご紹介できればと思います。
協力・マニュアル提供:サージミヤワキ株式会社