特殊な気象下で農業を行うメリットとは
──西又の気候がどのように茶栽培に良いのか、教えてください。
西又は静岡市にありますが、静岡市中心部の天気予報は当てはまりません。山あいで風と風がぶつかる事からよく雲が出るので、午後3~5時には雨が降り気温が下がる土地柄です。その事から作物がゆっくり生育します。作物が徒長(葉や枝が内容の充実を伴わない成長をする事)せず、栄養成分を茎や葉にどんどん蓄えていくので良い農作物ができる、というメリットがあります。
──この地域には静岡市中心部の天気予報が当てはまらないとのことですが、どのように天気を予測しているのですか?
私は若い頃に農業試験場で「農業気象」という分野を学びました。その際に「天気は、風と雲と水のかかわり合いで決まる」と知り、自分で天気を予測するようになったのです。今では雲の流れや、湿気、風の重さなどから高気圧や低気圧の位置を推測できます。
──その天気読みを、茶栽培に生かしているのですね。
農家にとって、収穫や農作業のスケジュールを調整する為に天気を予測するのは当たり前の事なんです。ただ、それと天気読みを茶づくりに生かすのとは全く異なります。
斉藤さん流・気象記録を有機栽培に生かす手法
──では、天気と農業にはどのような関わりがあるのでしょうか。ぜひ、斉藤さんの有機栽培に対する考えと絡めて教えてください。
私は植物が持つ力を最大限発揮できる環境を作りたいと考えた事から、自力で畑を開墾し、有機栽培を始めました。良い茶葉を作る為には、茶の木の生態について知らなければなりません。その上で適切な土壌管理や施肥設計、毎年異なる気象にも対応していく必要があります。その為にも日々「降水量、気象、土壌の含水率、湿度、気温、地温」といった情報と、茶の木の状態を記録し続ける事が大切と考えています。
──そのような気象記録をつける事で、どんな事を実現できましたか?
長年の気象記録により、その年に合わせた栽培管理ができるようになりました。例えば、今年と同じような気象の年が過去にある。その年の記録を見ると、過去に自分がどんな思いで肥培管理をしたのか、なぜそのような肥培管理をしたのかの記録が残っています。その記録を参考に、茶栽培を考えられるようになりました。
また、過去の記録をひもとくことで今なすべき作業が見えてくるので、間違いや無駄な作業が減りました。また、良い茶葉を栽培する為の、試行錯誤のレベルも上がります。これが、「天気を読んで農業に生かす」という事です。
自然とお茶栽培の関わりについて
──それでは農業に影響する気象の中で、雨(水)の重要性について教えてください。
私は過去に、農業気象に加えて「植物の成長には何が一番大事か?」という研究をしていました。例えば茶栽培で言うと、お茶本来の栄養を持った葉にする為には、水と養分(肥料)が不可欠です。適切な施肥管理をした上で、根に肥料を効率よく吸収させる事で良い茶葉ができるよう、水をコントロールする必要があります。
──雨の時期や雨量も茶栽培に関係してくると思うのですが、斉藤さんはどのように水の管理をされているのでしょうか?
茶の木の為にいつも理想的な状態で雨が降るわけではないので、自然まかせでは良いものは作れないと考えています。でも、自然相手にいかに良い品質の作物を作れるかが農家の腕の見せ所。そこで私は気象記録をつけるだけではなく、茶畑にかん水設備を設置して水を管理しています。
──斉藤さんが考える、自然と農業の関わり方について教えてください。
農作物の栽培にとって必要なものは、大事な順番に「水土日温空風人(すいどにちおんくうふうじん)」となります。私たち人間が農作物の特徴を理解した上で、雨(水)や日照量(日)、気温(温)といった自然環境に合わせた栽培管理をする必要があります。そうする事で良い農作物ができるのです。
また、地域ごとの気候や気象条件の違いだけではなく、土性(土壌の性質)があるのも忘れてはなりません。土質は化学肥料で変えられるけれども、その土地がもつ土性までは変えられない。だからこそ、自分が農業を行う地域の自然環境や、土性にあった栽培管理を考える事が大事だと思います。
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「人が茶の木について知り、創意工夫をこらした栽培管理で、おいしさと栄養価を高めたお茶を作るのが私の有機栽培です。そこに人生をかけて取り組むだけの価値がある。」と言う斉藤さん。斉藤さんの茶栽培への思いや、気象などの自然環境もフルに考慮して農業を行う姿勢から、学ぶべきところがたくさんありそうです。
<斉藤さんのお茶に関する問い合わせは、こちらから>
駿河天狗 静岡有機茶農家の会