製法は国内唯一、製造拠点は国内最大規模
低カロリーであること、植物性の乳酸菌や酵素、ポリフェノールなどが含まれ、整腸作用やデトックス効果が期待できることから、コンブチャは海外では健康意識の高い消費者を中心に広く親しまれている。アメリカでは、スーパーマーケットやコンビニエンスストアの棚に定番飲料として並ぶ存在で、国内コンブチャ市場は年間790億円あるとされている(※)。
※出典:Kombucha Brewers international/2019年2月24日現在
鋳物製造業、不動産管理業に続く事業の柱を模索していた4代目社長の大泉寛太郎(おおいずみ・かんたろう)さんは、2011年の渡米時にコンブチャを飲み、「頭が冴え、身体軽くなる」(大泉社長)健康効果に可能性を感じ、日本で国内最大級の製造拠点を構えた。
「習慣的に飲んでもらうには、おいしくなくては」(大泉社長)と考え、国内外の有名クラフトビールメーカーで製造経験を積んだ島田祐二(しまだ・ゆうじ)さんを、ヘッドブルワー(醸造責任者)に迎えた。島田さんはビールの作り方を応用し、試作を重ねて日本人好みの甘さ控えめなレシピを生み出した。
主原料の茶葉は、京都・宇治の契約農家などから仕入れた有機栽培のもの。副原料もオーガニック素材にこだわる。桜やハイビスカスなど季節を象徴する花や旬のフルーツを使ったものなど、フレーバーは限定品を含めて50種類を超える。加熱せずに低圧でゆっくりと食材を絞り出す製法により、素材そのままの味と香りを保てることが特長だ。また、60度以上に加熱すると死滅してしまう乳酸菌や酢酸菌、アミノ酸も活かせる。非加熱製法での製造免許を取得しているコンブチャメーカーは、国内で同社のみだ。
ブームで終わらないために。地道な普及活動
大半の消費者にとっては未知の飲み物であるため、「コンブチャとは何か」から説明しなくてはならない。島田さんは、「すでに昆布茶がある影響で、日本人に説明するのが一番難しいです」と話す。
「韓国経由でアメリカに渡ったため、菌を意味する「コン」という韓国語が起源という説もありますが、名前の由来は誰も分かりません。日本人は、40年前にブームが起きた「紅茶きのこ」と全く同じものだと考えれば分かり易いです。きのこのように見える発酵した膜は、産膜酵母と呼ばれるもの。身近なものだと、ナタデココも産膜酵母による食品です」(島田さん)。
広報担当の林健志(はやし・たけし)さんは、「日本では市場がまだ形成されていないため、海外の市場を見ながら、日本でも当てはまるか否かの仮説を立てていくことが大変な部分だと思います。結局のところは積極的な情報発信や、Face to Face(フェイス・トゥ・フェイス)の営業を積み重ねていくことで、徐々に市場が拡大していくと考えています」と話す。
林さんの言葉通り、地元生産者の農産物やコンブチャを販売するファーマーズマーケットを、近隣の住民向けに本社で定期開催したり、こだわりの野菜を使うレストランを訪ね歩いたりと、広報・営業活動の大半は地道なもの。だが人が集まる場を創出することや、製品の長所を理解した店員がコンセプトや楽しみ方を客へ直接伝えてくれる、飲食店の“営業拠点化”による効果は軽視できない。2019年9月現在、導入店舗は全国60カ所を超えた。
今年8月には「ヒルトン福岡シーホーク」(福岡県)が全国のホテルで初めて、同社のコンブチャを提供し始めた。国内外から観光客が頻繁に訪れる場所で、和食やフレンチ、デザートなど幅広い料理との相性の良さをアピールできる。現地で行われたお披露目会では、スーパーフードといわれるカカオニブを使ったチョコレートフレーバーを特別に提供。参加者からは繊細な味に驚きの声が上がった。
スポーツとの親和性の高さを謳うPR活動も積極的に行っている。地元埼玉のプロ野球チーム、西武ライオンズとスポンサーシップ契約を締結。新設された寮にコンブチャ用サーバーを取り付けたところ、選手らに好評を得たという。アメリカのプロバスケットボールリーグNBAや、プロアメリカンフットボールリーグNFLの所属チームがコンブチャを導入していることをヒントにした。
「意識しているのはスピード感です。日本人はブームに対して飽きやすい傾向があります。飽きられないうちに浸透・定着させるよう、活動することは考えています。訪日外国人が増加する2020年の東京オリンピックなど、コンブチャや発酵というキーワードが生きる瞬間がくるまでに動いて、市場のトップでいることが重要です」(林さん)と、一過性のブームで終わらせるつもりはない。
消費者向け商材販売で、認知加速へ
現在は運営店舗での販売と飲食店への卸売のみの販売だが、今後は消費者向けのボトル商材の販売を始める予定だ。国内市場の急速な広がりを予測しながらも、「まずは既存の商材の販路を一つでも多く開拓し、商品を理解してもらうことに注力しながらしっかりと事業化していきたい」(大泉社長)。
飲食店だけでなくシェアオフィス、フィットネスクラブなど取引先を年内に80カ所以上に増やし、日常飲料としての浸透を狙う。一方で、食味と機能性の高い「日本産コンブチャ」を世界へ輸出することも視野に入れている。
異なる文化を取り入れ、独自のエッセンスを加えて磨き上げる――。コンブチャを国民的飲料に成長させるべく奮闘する大泉工場から、私たちが学べる点は大いにありそうだ。