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直売所は「加点式」。スーパーマーケットにならないで!【直売所プロフェッショナル#08】

直売所は「加点式」。スーパーマーケットにならないで!【直売所プロフェッショナル#08】

直売所を複数展開する民間ベンチャーの創業者たちが、直売所運営のイロハについて事例をまじえて紹介していく連載。スーパーマーケットの強みは規格という便利な“共通言語”。直売所がスーパーに負けない戦略とは。

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直売所にはいろいろな商品が持ち込まれてくる

直売所を経営していると、じつにさまざまな商品が持ち込まれてきます。
当社の店でも、具体的に書くのははばかられますが、どうやって売るの?というびっくりするほど大きなサイズの作物が来たり、ほとんど日本で知られていないアジア原産の作物が来たり……。
もちろん、キズが付いてしまったり、サイズが規格と異なってしまった、いわゆるB品C品と呼ばれるものはたくさん入ってきます。
直売所は委託式なので売れなくても直売所自身の責任ではないのですが、そうはいっても、売れないものを並べておくのもイヤなものですし、お客様への説明も面倒に感じられますよね(もっとも筆者が運営している直売所は買い取り式なのですが)。

しかし、直売所プロフェッショナルとしては一度落ち着いて考えなくてはいけません。直売所が競合している相手はどこなのか、ということを。仕入れでは市場と競合していて、販売面ではスーパーマーケットと競合しています。いうまでもなく、市場とスーパーマーケットは流通でつながっています。

スーパーマーケットに品ぞろえや利便性で勝とうというのは土台無理な話なので、何をもってお客様に来てもらうのか。安さと鮮度はひとつの武器ですが、それだけだとキツイ。
特徴を打ち出していかなくてはなりません。

ところで、直売所は地域の農業を発信するメディアのような役割を果たしています。直売所の商品、接客、雰囲気といったものが地元の農業を表現しているのです。
どんなメディアが面白いかといえば、たとえば雑誌であれば、生真面目な記事ばかりではなくて、ちょっとキワどいコラムや奇麗な写真が入っていた方が面白いですよね。

すなわち、直売所はノーマルな商品だけでなく、とんがった商品とかワケあり商品も置いていることが大事で、それがお店の楽しさになります。買い物が楽しいと、買い物はただの家事ではなく、「体験」や「趣味」に押し上げられます。そうなれば、消費者はまた来店してくれるでしょう。

逆に、既存の規格や常識に捉われすぎると、どんどんスーパーと同じような売り場になってしまうので注意しなくてはなりません。

青果市場は「減点式」

スーパーマーケットと戦ううえでとんがった商品が大事だと書いたのは、市場経由ではそういう商品がなかなか手に入らないからです。直売所の明確な差別化ポイントになります。

市場は農作物をいわば「減点式」で評価しています。ある一定の品質であり見た目であることが重視され、小さくともなにか瑕疵(かし)があると大きく値段が下がります。
なぜ、そうなるのでしょうか?

細かく理由を書いていくと紙幅がなくなるので、ここでは2点だけ触れます。

市場では買い手は「買い手」ではない

市場の買い手は最終的な買い手、消費者ではありません。しかし、どんな品物でも、価値を持つのは最終消費者に売れる物です。市場からは仲卸などを経由しながら、スーパーや加工メーカーや飲食店に行きますが、それらのプレーヤーは、消費者ではありません。消費者に評価されるかは、仕入れた時点では想像の域を出ません。つまり、リスキーなのです。一方で規格にさえ沿っていれば、誰かしら買ってくれるだろうという想定が成り立ちます。
また、市場では、現品を見ながらのセリは減少傾向にあり、品物そのものを見ずに発注することが増えていることも減点式の考え方を助長しています。

情報伝達はコストが高い

何か際立った特徴のある品物があったとして、流通過程ではその特徴を川下に伝えていかなくては意味がありません。市場経由では、生産者→市場→仲卸→小売→消費者と少なくとも4回の「情報伝達」が行われます。
「このキュウリは規格どおりで味も問題ありません(減点すべき点はありません)」ということだけなら特段に伝える必要はありませんが、定性的な特徴となると(たとえば「このキュウリは伝統的な品種で、昔は将軍様に献上されていた。香りがよいかわりに曲がりやすい」など)、きちんと伝えていくのはかなり骨が折れます。子どものときに伝言ゲームをやってまったく正確に伝わらずに驚いた経験は誰しもあるでしょう。

ちなみに、規格は「共通言語」だと言えるでしょう。
共通言語があるから、生産から小売までの長いサプライチェーンでのコミュニケーションがコストをかけずに可能になるのです。
それはとても便利なものですが、逆に、共通言語にない概念は表現しようがないのです。

地域にやりがいを生む加点式

現在では、スーパーマーケットも楽しい売り場を作るためにさまざまな工夫を凝らしています。市場経由でない商流を取り入れたりもしています。

しかし、その分野は直売所の真骨頂です。
個性ある農家さんを出荷者として持ち、それぞれに特徴ある品物を作っているのですから(あるいは作ってもらうこともできるはずです)。

たとえば、自家採種している野菜。切干大根や漬物など農家のおばあちゃんの自家製加工品。キズは入っているけど味はよい果物。間引きのダイコンやニンジン。棚田で作ったコメ。

その多くは、市場ではきちんと評価されないものではないでしょうか。でも、直売所のスタッフなら、それらを最終消費者に直接説明して売ることができます。
スーパーの減点方式ではなく、加点式で品物を評価しましょう。そして、消費者に伝えましょう。
売り場にスーパーにはない楽しさが生まれます。せっかくの情報伝達コストの低さを生かすことが大事です。

その点、多くの直売所において、情報伝達機能が弱いのはもったいないことです。
市場に出荷している農家さんからすれば、消費者に伝えたいことがあっても伝えることはできないのですから。

そして、加点式の考え方は、地域の農家さんにやりがいを感じてもらうという意味でも大事です。人間の能力や性格は十人十色です。畑も場所によって土壌などの特徴が異なります。にもかかわらず、同じ規格を目指して作るというのは、どこかに無理があるように思います。

農家さんが自分や自分の畑に合った作物を作ることができる。それが直売所というシステムの素晴らしいところです。地域の農業に新しいやりがいを生み出します。
そのためにも、直売所は加点式を意識しながら品ぞろえし、また、情報伝達機能をしっかりと持たなくてはならないのです。

そしてこの連載でしつこいほど強調していますが、情報を伝達するには、直売所スタッフ自身の主体性が大事です。つまり、直売所プロフェッショナルが必要になるのです。

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