従来よりも40%も軽い水稲軽量育苗培土とは
「『軽易土(かるいど)』は宣伝するよりも先に、農家さんの間でクチコミで広がっているんですよ」と教えてくれたのは、新潟県新発田市で農業資材を販売している「せいだ」の阿部建二(あべ・けんじ)さん。
「せいだ」は農家向けのコンサルティングを行っている企業で、『軽易土』をはじめ、さまざまな資材販売を手がけるほか、自社で米作りも行っている企業です。

阿部建二さん
農家の皆さんがその使いやすさをクチコミで広げている『軽易土』は、従来品の40%も重量をカットした水稲育苗用の培土。土地の気候に合わせて「暖地用」「寒地用」「High(より寒い土地用)」の3タイプがあり、現在年間約2500tが販売されています。

通常のパッケージ(写真右)のほか、「せいだ」オリジナルのパッケージ(写真左)でも展開
実際に現場の生産管理を担当している同社の星野祐紀(ほしの・ゆうき)さんも「ムラなくバランスが良くて、根張りに優れていますね」と太鼓判を押します。
一方で「軽いと従来品よりも何かが足りないんじゃないの?」という心配も頭をかすめてしまいそうですが、天然のケイ酸資材と活性炭が含まれているので、育苗のための養分はたっぷり! 水の通りも良く、育苗箱の裏にびっしりと根が生える “根張り” の良さも抜群です。

左が『軽易土』で生育した水稲苗。右の従来品と比較すると根張りの良さは一目瞭然です
「せいだ」では、34haの圃場でコシヒカリ、こしいぶき、ゆきん子舞、わたぼうし(もち米)の4品種を栽培しています。そのために作る育苗箱は6000枚。さらに周りの農家からの委託分として2000枚作っているため、作業量は膨大です。
「それをさらに育苗のビニールハウスに入れたり、田植え機に積んだりするので、土の重さが40%も軽減することによる作業効率向上の効果は画期的ですね」と、星野さんは話します。まさに『軽易土』は農家の作業を「軽く容易にしてくれる土」なのです。

星野祐紀さん
軽すぎてもダメ。既存の機械との最適化も
一方で『軽易土』の開発は容易とはいかなかったようです。
既に野菜用の軽い培土は開発済みだった住友林業緑化ですが、野菜の場合は培土を手作業で箱に詰めることが主流。それに対して水稲は育苗箱の数が多く、作業が機械化されているため、野菜の培土と同じ考え方で作ったところ不具合が多発しました。
「正直、軽くすることはいくらでもできるんです。しかし軽すぎると培土がホッパー(培土を箱に入れる機械)から落ちないとか、風に舞ったりとか…。サラサラに作っても袋の中でダマになることもありました」と、住友林業緑化株式会社の三宅二郎(みやけ・じろう)さんは振り返ります。他にも『軽易土』を使った苗が苗焼けを起こすなど、開発当初は苦労が続きました。

サラサラとして軽い『軽易土』だが、この重量や質感にたどり着くまでには困難も多かった
農家の間には「米作りの半分を苗が占める」という意味を指す「苗半作」という言葉があるほど、育苗は米作りの重要なパートです。「農家に受け入れられるような製品を作るためには、現場のリアルな声が必要だ」と考えた同社にとって、改良を進める上で力になったのが、野菜の培土販売でつながりがあった『せいだ』でした。
約10年前から構想し、同社から上がってくる現場目線の意見を聞きながらの試行錯誤が続き、本格的に商品の成分が固まったのが5年前。途中、pHが高いとカビが発生しやすくなるという課題も発生しましたが、一般的な培土よりもpHを下げて酸性に近づけたところ、カビも病気も出づらくなったそうです。
長年開発に携わってきた三宅さんも「従来培土よりも生育も良く、作業性も良い製品になっています」と自信をのぞかせます。

三宅二郎さん
また、農業特区である新潟市を中心に新潟県は農業の先進的な技術が集積している場所であり、そういった土地で開発し、実績をあげていくことにも意味があったとのこと。新潟の土地に合わせた成分をベースに、全国の土地・気候に合わせてバリエーションが展開されていきました。
農業の発展を後押しする、費用対効果と将来性の高さ
現在も「せいだ」では『軽易土』が足りなくなった場合に従来品を使用する場合があるそうですが、「明らかに違いが分かります」と、同社の清田達也(せいだ・たつや)専務もその利便性の高さを実感しているとのこと。

清田達也専務
しかし1袋600円前後の価格帯が中心の水稲培土の世界において、1袋約1800円の『軽易土』。「高い!」という印象は否めません。
そこは軽量だからこそのカラクリがあります。『軽易土』は1袋から14箱前後の育苗箱を作ることができるので1箱あたりの費用は約100円強。これならば1袋約600円で5~6箱作る従来品と遜色はありません。「一度使い始めた農家さんはみんな『軽くていいね、やめられない』と言いますね」(阿部さん)

『軽易土』で作られた苗。生育も従来の培土に比べて優れています
軽易土の魅力はただ「軽い」だけではなく、「現在の農業」と「これからの農業」に最適化されていることも挙げられます。
農業資材の業界では培土の軽量化は広まっており、既存の機械とのチューニングが一つの課題となっています。機械との相性や成分など、軽いからこその課題を長い歳月をかけてクリアしてきた『軽易土』は現在年間2500t流通していますが、近い将来は倍になることが期待されています。

奥の袋の中に『軽易土』が入っている。土が入った育苗箱がコンベアに乗って次々と流れてくる
さらに現在米作りで注目されている栽培方法の一つで、通常よりも高密度に苗を作る方法があります。1反を15枚の育苗箱で作るところを10枚で作るこの方法では、従来の苗づくりとは概念が変わり、求められる苗の密度や生育状態も異なりますが、そんな新しい農法にも『軽易土』は対応できると三宅さんは話します。
後継者問題や新しい農法など今後どんどん変化が起こるであろう農業の世界において、生産面積が大きい農業法人の作業の効率化から、個人の農家でも、特に苗を機械に入れる役割を担いやすい若者や女性の負荷を軽くする『軽易土』は、現場の即戦力となることでしょう。
「『せいだ』は農業におけるトータルソリューションをミッションに掲げており、新潟県全域の農家の信頼を得ていきたいと思っています。弊社では社名を入れた『軽易土』を取り扱っていますが、この土の活躍がミッション実現の一歩になっていくことを期待しています」(清田専務)
負担が軽減して生まれる農家さんの笑顔が、おいしいお米の元となり、消費者の笑顔にもつながる。そんな幸せな循環の根っこになるであろう『軽易土』は、今後ますます注目を集めていくはずです。

「せいだ」の皆さん。後ろの建物はコメの生産を担う新発田ファームライスセンター
【取材協力】
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