福岡県久留米市に軟弱葉物を生産するすごい若手農業者がいると聞いて、やってきました。
コマツナやホウレンソウ、ミズナ、シュンギクなどの葉物野菜のことを、業界用語で「軟弱」と呼びます。これは流通、販売時に傷みやすいことから発生した言葉ですが、おおよそ同じ設備で生産できるため、生産者も一まとめに「軟弱農家」と称します。
その特徴から、都市近郊、消費地の近くで生産されることが多く、ここ福岡県も大産地の一つです。
そんな中でも一際異彩を放つ新進気鋭の若手農業経営者である、エイチアイ株式会社の稲吉久徳(いなよし・ひさのり)さんを訪ねました。
スピード勝負! コマツナ・ミズナの栽培について
つるちゃん
稲吉さん
年中種まきと収穫を繰り返すハウス栽培での軟弱葉物。単価が高いものではないので、生育のスピードを生かした高速回転が経営の肝になります。
コマツナ・ミズナの収穫
ベトナム人研修生の収穫作業は、とても素早く丁寧です。1時間あたり140袋が仕上がっていくということで、熱心に働いてくれているようです。
経営を潤滑に回転させる雇用形態
それから農福連携で、障害者の方にも仕事を回せるようにしています。収穫自体は難しいでしょうが、私たちが雑に畑から切り出したものをコンテナに詰めて施設に送り、そこで調整作業(出荷できる状態にすること)をしてもらっています。
今度彼女たちが帰国するときには現地に仕事を作ってやれるような形にできたら最高ですね。
軟弱葉物は、冒頭に書いたように流通に不向きであるため現地生産が原則の作物です。
もしかすると彼女たちが将来、エイチアイ株式会社ベトナム支社の農場長になっているかもしれませんね。
農家レストラン「CROSS~農家の食卓~」として6次産業化
エイチアイ株式会社の経営は、農業だけにとどまりません。
6次産業化にももちろん着手しており、これがすばらしいクオリティーです。まず立地から伝わる本気度が違います。久留米市市街地の中心地にあるアーケードに農家レストラン「CROSS(クロス)~農家の食卓~」はあります。
まずこのサラダバーです。自社農園で取れた新鮮な野菜と、近隣農家と連携して産地直送で仕入れた食材をふんだんに使用しており、サラダバーで満足してしまうくらい盛りだくさんです。
近場にあればサラダバーを食べ尽くすためだけにでも通いつめたいレベル!
とにかく野菜がおいしい!
今後は全国各地で知り合った農家の人たちと提携しながら、店舗数を増やしていきたいと考えているそうです。
料理長は和食の修行を積んできた本格派で、野菜との相性がよく考えられたとても満足度の高いつくりになっていました。
筆者は久留米を訪れる際にはまた必ず寄ることになるでしょう。
やらない後悔よりもやってみて後悔したい
稲吉さんは、農業を中心に飲食店の経営をするだけでなく、学生時代から続けてきた柔道家として(あの強豪・国士舘大学の柔道部出身です)、柔道選手の育成、彼らが柔道に打ち込める環境をつくるための事業も手掛けています。
このガッチリとした体形は柔道から来ているのですね。
スポーツ団体に属する選手が競技だけで稼ぐことはなかなか難しく、選手自身がアルバイトで生計をたてながらの活動になってしまうのが現状です。しかし、農業事業も手掛ける稲吉さんならば、チームを優先する農場での雇用を用意することができます。
大学卒業と同時に先代の父が亡くなって、すぐに継がなければなりませんでしたが、研修先も周りの先輩農家も大規模に事業展開されていて、迷うことなく初年度から飛ばしていきましたね。
ただ、飲食店を立ち上げたときなんかは、朝起きたときに“俺、相当やっちゃってんなぁ”とふと怖くなったこともあります(笑)
人間なので、気分の上下は当然ありますよね。でも気分が上がっているときにどれだけ前に進められるかじゃないですか?
取材中、稲吉さんは何度も「やらないで後悔することがないように」と言っていました。思いついた楽しそうなことをスピード感を持って実行できるかどうかがすべての分かれ道なのかもしれません。