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「アリバイ型直売所」からの卒業!【直売所プロフェッショナル#13】

「アリバイ型直売所」からの卒業!【直売所プロフェッショナル#13】

直売所を複数展開する民間ベンチャーの創業者たちが、直売所運営のイロハについて事例をまじえて紹介していく連載。今回は「儲からなくてもいい」直売所を脱して、儲かる直売所を目指すためのヒントを提示します。これは直売所に勤める店長やスタッフへのエールです。

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直売所は儲からなくてもいい?!

この連載は「直売所プロフェッショナル」、つまり、直売所の運営のプロに対して書いています。
日本各地には、よりよい直売所を作りたい、そう強く願うスタッフがきっとたくさんいるはずだ、そういう前提というか願望を持って本稿を書いています。

しかしながら、直売所業界が向き合わなくてはいけない「真実」もまたあります。

それは、「べつに儲からなくてもいい」という点です。
すべての直売所がそうだというわけではありません。ただ、設置母体が何がなんでも収益をあげようと意図していないことは多いです。

その事情のひとつは、自治体などの公的な団体は、農業振興のための施策を「何か」しなくてはならないということです。
そして、「何か」をするときに、直売所は分かりやすく、外部から見えやすい施策なのです。つまりは、地域農業に貢献しているという象徴、というかポーズとして直売所は作られます。
そのような「大人の事情」でできた直売所を「アリバイ型直売所」、と私は呼んでいます。

「わが町の農業のために、何をしたというんだ?」「見てください、私たちはこんなに立派な直売所を作りましたよ」ということですね。

直売所がアリバイに適している理由の一つは、直売所は「ハコ」である、ということです。
ハコ、つまり建物は市民から目に見えます。往々にして、物理的に目に見える貢献が求められることは、利害関係者の多い団体だとどうしても生じてきます。
もうひとつの理由は、直売所という施策が他の街でも採用されているため、前例をもとに関係者を説得しやすいということです。裏を返せば、その地域の農業形態に直売所が適しているかどうかはさておいて、とにもかくにも「地域にひとつはないと恥ずかしい」という事情です。

アリバイ型直売所は竣工(しゅんこう)した時点である意味目的は達成されています。その後の活動はオマケに過ぎないため、詳細な販売戦略が練られていません。
また、アリバイ型直売所は、家賃が無料ないし格安だったり、建物や設備が補助金に頼っていて減価償却がなかったりと、そのコスト構造が経営の前提になっている場合もあります。
胸を張って儲かっていると言える直売所は少ないのが、私たちの業界の実際なのです。

もっとも補助金による地域農業の活性化がすなわち悪いというわけではありません。
ここで指摘したいのは、直売所の開業はゴールではないということ。それはスタートです。開業した後に、いかにその空間を使って地域農業を盛り上げていくのか。その戦略を地域のみんなで考え、実践していくことが重要です。
そして、その際に主役となるべきなのは、生産者でも自治体でもなく、毎日売り場で市民と接している店長やスタッフだということもあらためて指摘したいと思います(再三書いていることですが)。

アリバイ型直売所の「不都合な真実」

直売所の設置母体が「儲からなくてもいい」と考えてしまうと、たいへん多くの悪影響があります。
アリバイ型直売所は、本来負担すべきコストが少なく、ある意味、持続可能ではあります。
しかしながら、そのような直売所の存在が継続することは、地域に悪影響が継続するという「不都合な真実」も把握しておくべきでしょう。

悪影響その1 スタッフのモチベーションが上がらない

当然のことですが、直売所の設置母体が「儲からなくてもいい」と思っていたら、現場のスタッフは頑張りません。明言していなかったとしても、その雰囲気は伝わるものです。
そして、この連載で再三指摘しているように、現場スタッフの主体性が直売所の売り上げ向上には大事です。
そして、売り上げが向上しないということは、地域農業への貢献が限定的だということです。

お店のスタッフの主体性には、収益性を大切にする設置母体の姿勢が必要

悪影響その2 出荷者の栽培技術が向上しない

直売所が儲ける責任を負っている場合には、直売所のスタッフも農産物の品質を気にするので、農家に必要なフィードバックをすることになります。本来、直売所のスタッフは農家のお尻をたたく役割も担っています。
一方で、直売所が儲からなくてもいい状況の場合、農産物の品質について農家さんのお尻をたたいてくれる人がいません。地域の栽培技術の向上スピードは落ちてしまいます。このことは直売所の売り上げだけでなく、地域農業全体にも悪影響を及ぼします。

悪影響その3 他に経営資源が向かない

直売所の設置母体は、通常、他にもいろいろな事業や催しをやっています。もし直売所の収支がせめてトントンになったとしたら、これまで赤字を補てんしていた分の現金を別の事業やイベントに振り向け、より地域に貢献することができます。
赤字補てんが継続するようなら、直売所事業を継続すべきか、他の農業活性化のための事業をすべきか、見直しが必要でしょう(もっとも、ハコを一度作ってしまうと後戻りできない場合が多いので難しいところです)。

悪影響その4 ダンピング

もし補助金を使っていたり家賃負担がなかったりする直売所が安い価格で農産物を販売しているならば、それはダンピング(不当廉売)といえます。直売所の存在が農業にはプラスだとしても、地域経済にはマイナスの影響を与えることがあります。
分かりやすい例でいえば、一般的には、直売所ができれば商店街の八百屋さんやスーパーの売り上げは下がります。
もっとも、直売所は地域に循環するお金を増やすので、八百屋やスーパーがつぶれたとしても直売所を増やすべきだという主張もあるでしょう。
しかし、日本全体で見れば、八百屋やスーパーの売り上げ減少は、結局のところ農業セクターの売り上げ減少としてはねかえってきますので、公正な価格でない直売所は日本の農業にとって決してプラスにはなりません。

以下の記事も参考にしてください。

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アリバイ型直売所を卒業しよう!

さて、日本各地にあるアリバイ型直売所ですが、できてしまったものは仕方ありません。
現場の店長やスタッフが中心となり、農家や自治体を巻き込みながら、一歩一歩、盛り上げていきましょう!
ということで、本稿の最後に、アリバイ型直売所を卒業するためのヒントを3つほど記載したいと思います。
(なお、紙幅に限りがあるので、詳細な話に関心のある直売所関係者の方は、ぜひ当社までお問い合わせください。)

スタッフの給与設計を工夫しよう

直売所のスタッフの給与が業績に連動している場合は多くないと思います。しかし、プロフェッショナルであるからには、収益のなかからその取り分が出ると考えてしかるべきです。裏を返せば、業績が上がればその分の昇給を要求して構わないはずです。給与設計を見直してみましょう。

予算をつくろう

給与設計と表裏になる仕組みが予算です。いいかえれば目標となる数値を決めることです。
業績に連動する給与には適切な予算立てが不可欠です。
そのように指摘すると、うちの直売所には予算はある、と考える人もいるでしょう。しかし、予算には「生きた予算」と「死んだ予算」があります。
予算に対して、どうして達成できなかったのか、次はどうしたらよいのか、真剣に考える材料になっている場合のみ、その予算は「生きている」と言うことができます。

月次決算で話し合おう

直売所の方向性は月次決算をベースに話し合いましょう(週次ならさらにベターですが。半年、ましてや年1回では話になりません)。
その際、もちろん作成しておいた予算と比較することも大事です。
大事にすべきポイントは、「毎月やる」、「数字をもとにやる」、「広く共有する」の3点です。
なるべく広くという点では、直売所の幹部だけでなく、出荷している農家やアルバイトさんとも可能なかぎり業績を共有することで、方向性や危機感を擦り合わせていくことができます。

話し合いは、「毎月やる」、「数字をもとにやる」、「広く共有する」が大事

このように数字をもとにみんなで議論する雰囲気ができたなら、次は具体論です。
直売所の収益性を高めていくための施策とはなんでしょうか?
次回、「直売所の収益アップ術の定石」をお届けします。

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