今回も前回と同様に、多くの出荷者がいる共同直売所を前提として書いています。
共同直売所の店長さんや出荷者のみなさんの中には、直売所の値付けが安すぎる、と思っている人も多いでしょう。もちろん安さは小売業にとって何よりの武器です。しかし、持続可能な価格でないと、地域の農業は成り立ちません。
前回の当コラムでは、直売所が安値傾向になってしまうのには多くの理由があると説明しました。
今回は対策を見ていきましょう。
安値傾向を止める仕組み
いくつかの直売所では下記の取り組みをして、安値防止策を取っています。こうした安値防止策の全部、もしくはいずれかを持っている直売所を、ウェブ技術やその活用方法の進化を表した「Web2.0」になぞらえて、「直売所2.0」と私は呼んでいます。
- 規格と最低価格のルールが守られている
- 追加納入の仕組みがある
- 生産者を明確に区別する表示がある
- むやみに生産者(出荷者)を増やさない
1. 規格と最低価格のルールが守られている
規格と最低価格のルールというのは、たとえば「トマトM玉3個で300円以上」などと、出荷に際しての最低価格を決めるということです。
出荷に際して規格と最低価格のルールがある、というのは当たり前だと思うかもしれません。しかし、ここでは「守られている」と書きました。規格をすべての品目で完璧に決めるのは難しいですし、ルールを決めたとして厳格に守れるかどうかは、直売所のスタッフが頑張らないとすぐに緩くなります。
たとえば、農家は、キュウリが曲がっているという理由でその分本数を増やした「大袋」で出したりします。ルールどおり1袋あたりの最低価格を守って。これは1本あたり、あるいはグラムあたりで安売りしていることに変わりはありません。このB品大袋ばかりが売れてしまうと、結果として地域の農業の収益性は下がってしまうかもしれません。
もちろんB品を自由に出せることは直売所の美点なので難しいところではあります。
また、規格と最低価格のルールがあったとしても、大半の商品がその最低価格で売られていたら黄色信号です。最低価格はあくまで最低なので、品物によってはより高く売ってもいいはずです。本来はもう少し高く売るべき商品(それだけ手間のかかっていて付加価値のある商品)も最低価格で販売されているかもしれません。
※直売所側が価格を決定する「買い取り式」ではなく、「委託式」の直売所で最低価格のルールを決めると独占禁止法に抵触する可能性があります。(補足:マイナビ農業編集部)
2. 追加納入の仕組みがある
追加納入の仕組みは、安売りを防止するひとつの方策です。
安売りになる大きな理由のひとつは供給が多すぎるからです。また、売れ残りを取りに行く手間を嫌って思わず安値を付けてしまうからです。
大型の直売所ではPOSレジと連動した売上情報が出荷者に届くようになっていて、在庫が少なくなれば追加納入できるような仕組みになっているところもあります。これで朝の時点での供給過多を防ぐことができます。
ただ、追加の納品に行くこと自体がコストですし、毎日必ず追加に行けるような農家(いつも日中のスケジュールの自由がきく農家)は少ないと思われるので、完璧な仕組みとは言えません。
3. 生産者を明確に区別する表示がある
前回記事で指摘したように、生産者を明確に区別できるようになっていることは大事なことです。
たとえば、顔写真付きのPOPが商品に隣接して置かれていたり、パッケージに「●●農園」と生産者名を印字することを促していたりといった工夫です。
直売所では壁に生産者の顔写真が一覧で貼ってあるのをよく見かけます。これは、直売所全体としての価値向上には役立っていますが、個別の商品の生産者を区別するには当然ながら役立ちません。名前は、商品それぞれに付属している必要があります。
JAや行政が関わっている直売所では、公平性の観点から一部の生産者だけPOPを作るのは難しいといった事情もあると思います。しかし、それは供給側の都合であって消費者の利便性と関係がありません。
商店街の商店には目立つ看板がありますね。また、お菓子や飲料などの食料品には大きくメーカー名が書いてあります。同じように、農産物も消費者から見て明らかに他と違うものだと認識してもらう必要があります。無味乾燥で名前の印字が小さいシールだけでは、いわば看板のないお店を建てているようなものです。
ちなみに、当社が運営する直売所では、すべての商品において、生産者別、品目別に手書きPOPが付いていて、売り場のスタッフが心を込めて書いています。
4. むやみに生産者(出荷者)を増やさない
新しい出荷者を加えることは、供給を増やすことです。もちろん、これまで直売所になかった品目が増えたり、品質が周囲よりも高い出荷者が増えることは、直売所の経営にとってプラスに働きます。
しかし、繰り返しになりますが、供給を増やすと価格は安くなるのは経済の基本原理です。
いかに直売所の店長や出荷者チームのリーダーが目を光らせようと、供給が需要を上回ればいつの間にか価格は安くなります。いたずらに出荷者を増やすべきではないのです。(しかし、実際には、その地域で農業を営んでさえいれば、出荷者となるのにハードルが低い直売所は多いです。)
もし直売所で不足している品目があるとすれば、新しい出荷者を加えるのではなく、適法のやり方で既存の出荷者にそれを栽培してもらうように依頼するなどの方法を考えることが、直売所プロフェッショナルの王道と心得ましょう。
ちなみに、これらの対策について、私たちが経営する「しゅんかしゅんか」では下記の表のようになっています。
「しゅんかしゅんか」の販売価格は、一般的なスーパーマーケットと同じかやや高いくらいです。
規格と最低価格のルール | 直売所自身が価格を決める(買取式) |
---|---|
追加納入の仕組み | なし。ただし売れ残っても取りに行かなくてよい |
生産者を明確に区別する仕組み | 品目別かつ生産者別にもれなくPOPが付く |
むやみに生産者(出荷者)を増やさない | 本当に必要なときだけ増やす |
安値を止めるのは売り場スタッフの主体性
さて、もう少し俯瞰(ふかん)して直売所の仕組みを見てみましょう。
直売所の商流は、生産者⇒直売所⇒消費者ですが、価格決定という観点では、生産者と消費者だけがカギを握っています。委託式の直売所では価格は生産者が決めるものであり、それを買うか買わないかを消費者が決めるからです。
しかし、です。その商品の適正な価格を知っているのは誰でしょうか?
農家の供給可能量を知り、そして日々消費者と対話している、直売所の売り場のスタッフではないでしょうか。
安値になってしまうという問題を突き詰めていくと、直売所の「お店としての主体性」が問われてくるのです。
私たちがこの連載に「直売所プロフェッショナル」というタイトルを付けた思いもここにあります。
前回記事で、直売所が安値傾向になる理由の最後にあげたのが、「直売所デフレスパイラル」と呼んでいる現象です。以下に図を再掲します。
この悪循環をどこで止めるのか?
直売所を支えてあげようという強いモチベーションが農家にあれば、品質の高い商品は減らないかもしれません。しかし、それを期待できる直売所は少ないと思います。
したがって、このスパイラルを止めるには、「品質が高いものが売れにくくなる」という部分を食い止める必要があります。
それには直売所の売り場スタッフが、直売所に安さ以外の特長をもたらし、品質に見合った価格で販売する努力をすることです。そしてその覚悟を農家に示すことです。
すなわち、安値傾向の問題を突き詰めていくと、これを止めることができるのは、売り場にいない農家ではなく、日々売り場に立っているスタッフ、つまり直売所のプロフェッショナルなのです。