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直売所の最重要キーワード。「委託式」をきちんと理解する!【直売所プロフェッショナル#18】

直売所の最重要キーワード。「委託式」をきちんと理解する!【直売所プロフェッショナル#18】

直売所を複数展開する民間ベンチャーの創業者たちが、直売所運営のイロハについて事例をまじえて紹介していく連載。大半の農産物直売所は「委託式」を取っていますが、これは小売業では特殊な形態。委託式のメリットとデメリットをしっかり認識することが、直売所を変えていく第一歩です!

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ご存じのとおり、世の中の多くの共同直売所は「委託式」です。
つまり、出荷者は好きな品目を好きな量だけ持ち込むことができます。そのかわり、売れ残った場合には店舗側はコストを負いません(法的にいえば、店側に商品の所有権が移転しません)。それが「委託式」です。

一方で、スーパーや八百屋さんは買い取り式です。ふつう、小売業というのは買い取り式がほとんどです。後で述べるように、書店の再販制度などの例外はありますが。
もし店長さんや出荷者さんが自分の直売所をよりよいものにしたいと考えているならば、小売業界では比較的特異な形態である「委託式」の特徴について理解することが重要になります。

まずは委託式のメリットをおさえる

最近は買い取り式の直売所も出てきています。農産物をお店がいちど買い取ってから、消費者に販売するスタイルです(いちど店に所有権が移るので、厳密には「直」売とは呼べないのですが)。
当社が運営する「しゅんかしゅんか」は、創業以来、買い取り式です。その理由はいくつかありますが、そもそもの事情は、店舗が東京都内の駅前だったので家賃が高く、委託式のマージン(手数料)では商売が成り立たなかったからです。
ちなみに、委託式の直売所では、10~25%の手数料が相場だと言われています。買い取り式の場合は、一般的に30%くらいです。

買い取り式は、出荷する農家さんが売れ残りを気にしなくてよいというメリットがあり、JAが運営する直売所でも取り入れる例が出てきています。
しかし、運営の難度はかなり高いです。
ビジネスの大原則として、リスクとリターンは比例します。
委託式はローリスクでローリターンですが、買い取り式の場合は売れ残りも店舗のコストになりますので、うまくいけばリターンも大きいですがリスクも同じだけ大きいのです。

どんなビジネスモデルにも良い点と悪い点があります。どちらが優れているということではなく、それぞれの特徴を把握したうえで、地域の実情に合った方法を選ぶことが大事です。
リスクとリターンは比例する、という経済の原則も確認しておきましょう。

では、まず「委託式」のメリットから確認していきます。

委託式の店舗運営者にとってのメリット

(1)競争原理:売り場での出荷者どうしの競争原理が、買い取り式よりも働きやすく、品質の低い品物の自然淘汰機能がある。ただし、その競争が安さに向かわないように注意が必要。
(2)ローリスク:店舗が在庫の売れ残りリスクを負わない。
(3)ローコスト:買い取り式では必要になる作業(出荷者への発注作業や価格交渉)が委託式なら必要がなく、人件費が安くてすむ。
※ 出荷者にとってのメリットはここでは省きますが、出荷者のメリットも数多くあります。

これら委託式の利点は、裏を返せば、買い取り式におけるデメリットとなります。買い取り式については、この連載の別の回で触れる予定です。

なお、委託式という商売形態の理解を深めるために、いくつか他の業界における委託式ビジネスについてもコメントしておきましょう(以下表)。ここは読み飛ばしても大丈夫です。

現場から見た委託式とは「縛り」である

繰り返しになりますが、小売業界において、委託式はむしろ少数派です。しかし、直売所のほとんどが委託式で運営されています。
この業界では「みんな大好き委託式」ということなのですが、では委託式の本質とは、いったい何なのでしょうか?

ずばり、委託式の本質とは、「手足を縛ること」です。
誰の手足かといえば、現場の店長やスタッフの手足です。

これは八百屋さんの仕事と比べてみれば分かります。八百屋さんのスタッフは、いろいろな選択肢のなかから、お客様にとってよりよい方法、より売り上げの上がる方法を選択しています。
しかし、直売所のスタッフは、いかにお客様のことを考えていても、はなからできることが限られています。詳しく見ていきましょう。

委託式とは……価格を決められないということ!

価格決定はビジネスにとって大事なことです。端的には、八百屋さんは「多く仕入れすぎたな」と思えばセールを行ったりしますが、そういうことは直売所のスタッフには許されていません。
まして勝手に値上げすることはできません。値上げしておいて売れ残っても、委託式直売所のスタッフは責任を取れません。本当は値上げした方が収益が最大化されるケースは当然ながらあります。

直売所の価格傾向については、こちらの回も参考にしてください。

直売所の価格傾向について
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委託式とは……陳列レイアウトを変えられないということ!

委託式直売所の原則は、陳列を大きく変更しないことです。
小売ビジネスにおいて、店のなかのどこに置くかほど品物の売れ行きが変わることはありません。元気な八百屋さんを見に行ってみてください。毎日のように陳列レイアウトが変わっているはずです。そういう工夫をするのが普通の小売業です。
しかし、委託式の直売所は売れ残っても責任を取れませんので、陳列レイアウトの変更頻度はかなり低くなります。

委託式とは……作付計画にアプローチしにくいということ!

他の回で書きましたが、「直売所プロフェッショナル」は、積極的に農家さんの作付計画の相談に乗るべきだと私たちは思っています。しかし、委託式の場合、作付け(品種や収穫時期)を変更してもらったところで、絶対に売れるということを約束することができません。ゆえに、農家さんに対してできることはアドバイスすることまでです。
その点、買い取り式の場合は、あらかじめ買い取ることを約束することもできます。もちろんお店側はリスキーですが。

委託式とは……出荷数量を調整できないということ!

これが最も大きなデメリットでしょう。
価格も陳列も小売業にとって大事な要素ですが、なにはともあれ、「消費者が必要としている量をそろえること」以上に大事なことはありません。しかし、委託式ではそれがなかなか行いにくくなってしまいます。
この点は重要なので、第20回の記事で詳しく論じたいと思います。

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このように委託式の直売所では、現場の店長やスタッフは手足が縛られています。
一般の小売業からすれば、できることの選択肢がかなり少ないのです。
八百屋さんやスーパーは、直売所の直接の競合です。そうした競合は、自由に価格やレイアウトや数量を変更することで、お客様に支持されているのだということを認識しておかなくてはなりません。

陳列棚のちょっとした場所替えでも売れ行きは変化する。委託式では勝手にレイアウトを変えると売れ行きが下がった出荷者からクレームが来ることもある

手足が縛られているのは楽ちんではある

もっとも、現場のスタッフからすれば、やりがいは低いかもしれませんが、その代わり、ある意味気楽な方法だと言えます。
手足が縛られているということは、考えなくてよいということです。

だからこそ、JAの金融部門の担当者が急に直売所の店長に異動になっても、なんとか経営できたりするわけです。
(三菱UFJ銀行の支店長に、急にイトーヨーカ堂の店長をやらせるようなものですから、このような異動はかなり無謀だと分かると思います。もちろん、そうした異動でも素晴らしい成績をあげている方も存じ上げていますので、一概にはいえません。かくいう私も不動産会社出身ですし……。)

ちなみに、自治体の観点から見れば、委託式は営業の形を整えるだけなら割と簡単です。ノウハウがあまりいりませんし、地代家賃や電気代を公費から助成するなら、大赤字を出すこともありません(買い取り式だと、地代家賃が無料でも大赤字になることはありえます)。
なので形を整えたい自治体の方には、委託式がオススメです。あくまで形を整えるだけなら、ですが……。

しかし、この連載では再三お話ししていることですが、現場のスタッフの主体性、これが直売所業界の発展にとって肝心なことです。ローリスクという楽な状況に甘んじていては、地域の農業の発展はありません。
地元農産物の売り上げをどんどん増やしていくことこそ、直売所のミッションなのですから。

委託式は選択肢が少ないと書きましたが、工夫を凝らして素晴らしい実績をあげている委託式直売所もたくさんあります。その共通項は、士気の高い現場スタッフ(私たちが言うところの「直売所プロフェッショナル」)が自ら知恵を絞って、さまざまな施策を行っているということです。
勘違いのないように繰り返しますが、どんな商売の方式にもメリットとデメリットがありますので、委託式がダメだと主張したいのではありません。今回、デメリットをあえてたくさんあげたのは、無自覚に委託式を選択している町が多いからです。そのメリットとデメリットを理解したうえで戦略を立てることが肝心です。

現場の直売所プロフェッショナルからすれば、委託式の直売所は、リスクが低い分だけ思い切ったことができるというケースもあると思います。在庫リスクがないことに安住するのではなく、どんどん新しいことを試してノウハウを蓄積していきましょう。
それを続けた先に、地域の農業にとってなくてはならないお店というゴールがあるのです。

 
次々回で、「委託式の落とし穴」について書きたいと思います。

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直売所を複数経営するベンチャー創業者2人が、直売所運営のノウハウを事例とともに紹介。地域食材に熱視線が集まる令和時代のニーズに合った、「進化版・直売所」の在り方を追い求めます。

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