野菜の価格は自分たちで決める! なぜ、国分寺の若手農家グループは安売りと無縁なのか?【直売所プロフェッショナル#19】

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野菜の価格は自分たちで決める! なぜ、国分寺の若手農家グループは安売りと無縁なのか?【直売所プロフェッショナル#19】

連載企画:直売所プロフェッショナル

野菜の価格は自分たちで決める! なぜ、国分寺の若手農家グループは安売りと無縁なのか?【直売所プロフェッショナル#19】
最終更新日:2020年03月23日

直売所を複数展開する民間ベンチャーの創業者たちが、直売所運営のイロハについて事例をまじえて紹介していく連載。第19回は、価格競争に陥りがちな地場野菜直売において、安売りをしないためにできることを、東京都国分寺市の若手農家でつくる国分寺産直会の例を見ながら考えます。

地場野菜が安いのはおかしいと思いませんか?

当社が売り場を担当しているスーパーの地場野菜コーナー

この連載ではたびたび書いていることですが、直売所やスーパーの地場野菜コーナーの魅力はなんでしょうか? 新鮮な野菜が手に入る、変わった野菜がある、作り手が見えるなどが挙げられると思いますが、特に挙げる人が多そうなのが「安い」ということです。確かに、旅行先で訪れる直売所はもちろん、スーパーの地場野菜コーナーなどでも、安く購入できてお買い得、というイメージが強いですよね。しかし、私はそこに違和感を覚えます。なぜ、地場野菜が安いのでしょうか? よくよく考えると、地場野菜が安いというのは不思議な話です。一般的な商品の価格は、その商品の持つ価値(≒品質)を表すものです。直売所ではとれたての野菜を販売できるため、収穫時の品質が同じであれば市場流通野菜よりも新鮮で、より高い品質で店頭に並びます。そうすると、本来品質が高い地場野菜は、市場流通品より高く販売できてもおかしくないはずなのです。

では、なぜ直売所の野菜は安いことが多いのでしょうか。おそらく、売り場の需給のバランスが崩れてしまうからではないかと考えています。具体的には、野菜の出荷量が、その適正価格で販売できる需要量を超えてしまうということ。そして、各農家が自分の野菜を売り切ることを優先する結果として、値下げ競争をしてしまう(これは、委託直売所の構造的な課題です。直売所プロフェッショナル#18参照) 。その結果、安ければ野菜を購入してくれるお客様が増え、安価でも出荷した野菜が全部売れればよいという農家にとってはうれしい状況になります。ところが、自分が育てた野菜の品質に自信があり、その価値に見合う価格を設定したい農家はやる気をなくします。

実際、短期的には、安い野菜はお客様の支持を得やすく、高い品質でそれなりの価格の野菜よりも売れてしまうのです。すると、高い品質の野菜を作っているという自負のある農家ほど、直売所を敬遠し、出荷を控えるようになります。安いけれど品質もそれなりの野菜が集まるようになり、価格を重視するお客様ばかりになってしまい、ますます価格競争に拍車がかかるという悪循環に陥ってしまうのです。ここまで極端でなくても、これに近いことが直売所では頻繁に起こっています。

野菜の価格は品質だけで決まらない

それでは、このような問題を防ぐためにはどうすればよいのでしょうか。ここでは、東京都国分寺市で有志の農家が組織している「国分寺産直会(以下、産直会)」の取り組みを紹介します。当店の取引先農家も多数参加している産直会は、自分たちで取り組む直売会を主催したり、イベントでの直売会を実施したり、会としてスーパーと契約し地場野菜コーナーで委託販売を行ったりと、多様な活動をしています。そして、注目すべきは、安売りをしないこと。どの売り場においても、安売りをせずに品質に見合う適正価格で販売しています。なぜ、そのようなことが可能になっているのか、見ていきたいと思います。

良い野菜を適正価格で提供する。国分寺産直会の取り組み

産直会は1992年にJA青壮年部に所属する有志の若手農家(20~40代)18人で組織されました。東京という特殊な環境ということもあり、庭先直売が中心で市場出荷も組み合わせているという農家が多かったそうです。ただ、有名産地ではない東京の野菜は、市場では品質が高くても価格が付きにくく、生産量の多い農家を中心に新しい販路を必要としていました。そこで、直売会を実施するということになったのです。

産直会メンバーは地元JAの中庭で毎回テントをたてて、週に2回程度の直売会を開始。当初は、とにかくいろいろな場所にテントを持って行っては直売会を実施しました。市役所やJAの協力もあり、だんだん実績を作っていくとイベントなどでも声がかかるように。産直会メンバーの高い野菜品質に地産地消のブームも相まって、スーパーのインショップ(直売コーナーなど)からの誘いも増え、今では販売チャネルの取捨選択ができるまでになっています。現在、スーパー3店舗、週に2回の直売会、中学校給食、各種イベントでの直売など多様な販路を持っています。

定期的に開催している直売会

あるスーパーの地場野菜コーナーを例に、産直会がどうやって適正価格で野菜を販売しているかを説明したいと思います。この店舗では、産直会で地場野菜コーナーを設置しています。各農家が自由に価格を付けて、好きなだけ野菜を置くことができる委託販売なので、当然残った場合は農家の持ち帰りになります。それだけを見ると、一般的な直売所と同じ委託販売の仕組みです。ところが、地場野菜コーナーでは、この店舗の一般野菜よりも最低でも20円は高い価格で販売しています。葉物など鮮度がはっきり違うものについては50円以上の差があるものも。しかも、朝には山ほど並ぶ野菜が、夜にはほとんど売り切れてしまいます。なぜ、このようなことができているのか、ポイントは主に2つあります。

1. 納品量を調整し、安易な価格調整をしない(販路を増やすことで出荷可能量を増やす)
2. 価格競争をせずに、品質で競争をする

納品量を調整し、安易な価格調整をしない(販路を増やすことで出荷可能量を増やす)

このコーナーは販売を始めて5年ほどたっており、売れる量がだいたい把握できているため、無理に納品量を増やさずに、適正価格で販売できる量を納品しています。各自、仲間の出荷量を考えながら、自分さえ売り切れたらいいとたくさん出荷するといったことをせず、全体が売り切れる量を見極めながら納品。それが可能なのはそれぞれの農家が多様な販路を確保しているためです。産直会で契約しているスーパー3店舗、JAの直売所、仲卸との直接取引、学校給食、当社など、それぞれの農家が複数の取引先を持ち、状況に合わせて使い分けているのです。その結果、一つの売り場に依存することはなく、納品量を増やすために価格を調整する必要もありません。

価格競争をせずに、品質で競争をする

価格設定も、一般的な直売所とは少し違う特徴があります。各農家が好きな値段をつける委託の売り場ですが、ここではその日の最初に納品する農家が設定した価格が基準となり、それより高く販売することはあっても、安く販売することはほとんどありません。「価格競争はせずに同じ価格で品質競争をする」という共通認識が会全体にあり、これは直売会を始めた当初から一貫しているもの。ルールがあるというよりは、仲間同士の信頼関係の上で成り立つ共通理解です。その結果、価格競争に陥ることなく品質が高まり、スーパーの通常品よりも高くても新鮮でおいしいと多くのお客様から支持される状況が生まれるのです。今では、ある品目がたくさんとれる時期には、スーパー側が市場品の入荷を止めて、産直会の物だけを並べることまであるそうです。

適正価格で販売するために

同じ志を持ち、良きライバルであり、信頼できる仲間である

なぜ、産直会がこのようなことをできるのか? 農家さんに話を聞いてわかったのは、

・同じ志を持ち、
・良きライバルであり、
・信頼できる仲間である

という点が重要だったということです。
立ち上げ当初、モチベーションが高い若手農家で組織したということもあり、東京の広くない畑で農業をする以上、品質の高い野菜を適正価格で販売していかないといけないという志、共通認識がありました。そのため、値下げをせずに、同じ値段で品質競争をしよう、となったのです。ここでは、それぞれの農家はライバル関係にあります。直売会などでは、仲間の野菜を見ながら、お客様により支持されるためにはどうすればよいかと工夫を重ねています。実際、私たちの取引農家の中でも、産直会に所属している農家の出荷する野菜は押しなべて品質が高いです。

さらに、仲間意識があることも大事です。仲間だからこそ、遠慮なく品質について意見を交換でき、みんなの利益を考えて自分だけ勝手に値下げするといった行動も控えるのです。農家さんから話を聞いていても、良い野菜を作ることと仲間の利益を増やすという意識を言葉の端々から感じます。また、みんなで農業をうまくやっていくための工夫もあります。産直会で契約している取引先との売り上げのうち、数%は産直会にプールし、共有の農業機械やカゴの購入、視察旅行などに活用しています。

最後に、印象的だった農家さんの話を紹介します。不特定多数の出荷者がいるJAの直売所に納品するときは、周りの農家はみんな敵に見えるそうです。でも、産直会メンバーで出しているスーパーに納品するときは、その場に居合わせた仲間とワイワイ相談しながら値段を決めている。そのくらい気持ちが違うと、自然と野菜の品質も変わるよね、と。不毛な価格競争に陥ることなく、自分たちの仕事の価値に見合う価格で販売するための参考になれば幸いです。

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