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直売所の落とし穴。コンビニ弁当理論とは。【直売所プロフェッショナル#20】

直売所の落とし穴。コンビニ弁当理論とは。【直売所プロフェッショナル#20】

直売所を複数展開する民間ベンチャーの創業者たちが、直売所運営のイロハについて事例をまじえて紹介していく連載。委託式には落とし穴があった……! 今回は大半の農産物直売所がハマりやすい課題である「商品の数量調整」について解説します。

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以前の連載では以下のような指摘をしました。

  • 委託式は、ローリスク・ローリターンの運営方式
  • 委託式は現場スタッフの選択肢を縛っている
  • 現場スタッフは出荷数量を決めることができない

念のために申し上げると、委託式がダメだと言いたいわけではありません。
ただ、委託式のデメリットも理解したうえで運営しましょう、ということです。
(委託式の逆、買い取り式については連載の別の回で扱う予定です。お楽しみに……。)

さて、今回は、「数量調整」が自由にできないがゆえに、多くの直売所が陥りやすい落とし穴について詳しく論じます。

小売りの常識は、直売所の非常識

そもそもこの業界は、小売業の経験がない人が現場の責任者をやっているケースが多いです(何を隠そう、私もそうでした)。
専門外なので、うまくいかないのも当然です(何を隠そう、当社もそうでした)。
その時点ですでに直売所業界は非常識な業界といえるわけですね。

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小売業の経験のない人が責任者を張っているので、小売業の常識が持ち込まれないのはむしろ当然といえます。
直売所の店長さんのうち、何割が小売業の専門誌や業界新聞を読んだことがあるでしょうか? その割合はかなり低いのではないかと推察します。

小売業界は、スーパーでもコンビニでも家電量販店でも、ものすごく激しい競争環境にあります。日々さまざまな工夫をするため、ノウハウがどんどんたまっていきます。
そのなかには企業秘密もありますが、書籍や専門誌という形で世に出ているものも多いのですから、それを活用しない手はないです。

そして、そうした専門誌でもページを多く割いているテーマが「発注数量の最適化」や「在庫数量の最適化」です。
必要なものを必要なだけ揃えて、機会損失をなくしたり、廃棄ロスをなくす。これは小売業界でもっとも関心が高い課題と言ってもいいです。
にもかかわらず、その課題認識がない直売所が多いのは残念なことです。

数量コントロールが必要な理由とは

小売業が発注数量や在庫数量、ひいては店頭にある商品の数を最適化しなくてはならない理由は以下のとおりです。

  1. 賞味期限切れによるロスをなくす
  2. 機会損失(欠品)をなくす
  3. キャッシュフローを適正化する

3は専門的な話になりますし、委託式直売所は関係がないので、割愛します。
(簡単にいえば、在庫が積みあがると手元の資金が減ってしまうということです。在庫と手元資金はトレードオフの関係にあります。)

1番目の「ロスをなくす」ということは、分かりやすいと思います。小売業では多く仕入れすぎると損失になってしまいます。
ところが、直売所は委託式なので、「仕入れすぎ」という概念が存在しません。出荷者の損失にこそなれ、お店の損失にはならないわけです。
だから、委託式直売所の店長さんは、店頭の商品数量に無頓着になりやすいのです。今回の見出しに「落とし穴」と書いた理由がここにあります。

一方、2番目の理由、「機会損失(欠品)をなくす」ということは直売所でもたいへんに重要です。
品切れは、お客様の不満足になるからです。
ところが、どのくらいの数の商品を並べるかは出荷者に任せているために、品切れが起こりやすいのが委託式という形態なのです。

コンビニ弁当理論とは

ところで、コンビニエンスストアの経営についてのニュースを見ていると、お弁当をどのくらい仕入れるかがいつも問題になっています。
フランチャイズの本部は、売り上げの最大化を目指すので、たくさん仕入れるようにフランチャイジー(店主)に求めます。しかし、店長の方は廃棄ロスが怖いので、少ない数量を仕入れようとします。
この本部と店主の対立はコンビニ経営「あるある」です。

フードロスの観点からすると店主の言い分にも一理あるのですが、純粋に収益面だけ考えると店主の行動はかなり危険です。
以下の図のような悪循環に陥る可能性が高いからです。

もちろん、需要と供給がぴったり一致する量を毎日仕入れられれば何も問題がないわけですが、来店するお客様の数は日ごとに変化するので現実には難しいわけです。

では、悪循環をどこで断ち切るか。それは、売れ残りをある程度許容するしかありません。
売れ残りが多すぎてもいけませんが、まったくないのもまずいのです。
これを「コンビニ弁当理論」と私たちは呼んでいます。

落とし穴にはまっていないか診断しよう

直売所経営に置き換えた場合、コンビニの店主にあたるのは直売所の店長でしょうか。
いいえ、数量を決めているという意味では、出荷者がそれにあたります。
商品の数量を決める権限は出荷者にあり、そして出荷者からすれば廃棄が怖いのは当然の心理です。多くの出荷者は確実に売り切れる量だけを出荷しようとするでしょう。
しかし、それは100%の確率で、お客様の不満足を生みます。放置していると、客数は間違いなく減っていきます。

もうひとつ落とし穴があるとすれば、「欠品が理由で帰った客はPOSデータに残らない」ということです。POSとは「Point of Sales」の名のとおり、購買行動の記録です。
「ほうれん草が売り切れていたから今日は帰ろう」という購買していないお客様のデータは残りようがないのです。
それに気づけるのは、販売の現場にいるスタッフしかありえません。現場にいない出荷者や設置母体の職員が気づくことはできません。

しかし、この連載の読者には、出荷者や設置母体の人もいると思いますので、データからもある程度の診断ができるチェックリストを用意してみました。

□中期的に客数が減っている
□午前中は混んでいるのに、夕方の客数が少ない
□午前中より夕方の方が売り上げに占める野菜比率が低い
□閉店時間に売れ残りがほとんどない(保存のきく芋類などを除く)

これらに複数チェックが付くようだと黄色信号です。
出荷数量が過剰に抑制されていて、客数減につながっている可能性があります。

この状況に対する処方箋は、紙幅の関係で別の回に譲りますが、とにもかくにも、数量をある程度はコントロールする努力をしなくてはなりません(完全には無理でも)。
では、どのようにコントロールするのか。
もういちど「コンビニ弁当理論」を思い出してください。売れ残りは許容されなくてはなりません。つまり、売れ残るだけの量が店頭には必要なのです。

直売所の現場を預かる「直売所プロフェッショナル」とは、来店するお客様の満足度を最大化するプロフェッショナルです。もちろん出荷者の満足度も重要ではあります。あるいは、フードロスの観点も大事です。
しかし、お客様がいなくなってしまっては、お店を維持することはできないわけです。

お客様のニーズを把握し、それに合わせていくのが商売の基本です。そして、超が付くほどの基本中の基本として最初に対応すべきニーズは、商品の種類でもなく接客力でもなく、数量です。
「○個ほしい」という要望にきちんと応える、ということです。
そういう小売業としての常識をきちんと確認するところから、直売所の経営を考え直していきましょう。

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直売所を複数経営するベンチャー創業者2人が、直売所運営のノウハウを事例とともに紹介。地域食材に熱視線が集まる令和時代のニーズに合った、「進化版・直売所」の在り方を追い求めます。

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