当社で運営している直売所は、すべて買い取り式です。
念のために、買い取り式とはなにかを説明すると、「出荷者が納品した時点で、商品の所有権が店舗側に移り、返品はできなくなる方式」ということです。
すでに別の回で述べたことですが、直売所は大半が委託式である一方、八百屋さんをはじめとして、小売業界全体としては買い取り式の店の方が多いわけです。そうしたときに、当然ながら、直売所を買い取り式にしたらどうなるのか?という疑問が生じます。
実は、農協の直売所でも買い取り式にするところが出てきています。
今回の連載では、買い取り式にしたときのメリットとデメリットを明らかにしていきます。
買い取り式とは「背水の陣」である
本連載の第18回で、委託式は現場の手足を縛ることだ、と指摘しました。当然、買い取り式はその逆なわけですから、現場の選択肢がたくさんある状況を作りだします。
私たちはそのことが重要だと考えて、自分たちの直売所を創業時から買い取り式にしました。
しかし、最初は苦労も多かったです。
買い取り式では売れ残った場合の返品ができません。急に雨が降ったりすると、お客様が来なくなってしまい、たくさんの野菜を廃棄したことも一度や二度ではありません。
あるいは、これは売れそうだと思った新品種の野菜が、まったく人気が出ずに売れ残ってしまったという経験も多々あります。
小売業というビジネスは、ふつう、廃棄(ロス)が多数発生すると、まったく儲かりません。粗利率が25%だとすると、1つのロスをまかなうためには、3つの商品を売らないといけません。それでようやくトントン、利益0円です。家賃や人件費を差し引けば大赤字です。
買い取り式はものすごくリスキーな形態なのです。
(当然ながら、委託式であれば、そもそもロスは発生しません。)
しかし、それでも、私たちが買い取り式を選択したのは、「現場の主体性が販売技術を向上させる」という信念を持っていたからです。
そして、主体性を向上させるには、買い取り式にするのが手っ取り早い方法でした。
その理由は、
(1)買い取り式にすることで、陳列レイアウトや値付け、販売促進など売り場での自由度が高まる
(第18回「直売所の最重要キーワード。「委託式」をきちんと理解する!」参照 )
(2)買い取り式にすることで、廃棄を生まないようにとにかく頑張るので、ノウハウが蓄積される
つまり、仕入れてしまったからには売り切るしかない。
人間は弱い生き物なので、返品できると思えば、手を抜いてしまいがちです。売り切るしかないという「背水の陣」だからこそ、さまざまな工夫を考え、試行錯誤し、ノウハウが蓄積されていくはずだと私たちは考えました。そして、試行錯誤ができるのは、現場に自由があればこそです。
この信念は、本連載のタイトルである「直売所プロフェッショナル」につながっています。
プロフェッショナルになるためには主体性が必要ですが、無理やりにでも現場スタッフに主体性を生む方法、それが買い取り式にしてあえてリスクを負うことでした。
売れ残りを怖がらない!
買い取り式にした場合、直売所のスタッフには発注作業が必要になります。
なぜなら、買い取り式にしておきながら、「好きな量を出荷してもよい」というルールのままにしていたのでは、ただの慈善事業になってしまいます。直売所のスタッフは出荷者と連絡を取り合い、日々、仕入れ量の調整をしていきます。
連載の前回で「コンビニ弁当理論」 というものを提示しました。おさらいすると、売れ残りを怖がりすぎると、中期的に客数の減少を招く、というものでした。
委託式の場合、たいていの出荷者は売れ残りを怖がるので、このワナにはまってしまいがちです。
一方で、買い取り式の場合は、出荷者は売れ残りを怖がる必要がありません。あらかじめ店舗から提示された数を納めるかぎり、全てが売り上げになります。
当然のことながら、買い取り式の場合でも、直売所のスタッフが仕入れる数量を少なめにしてしまっては、同じワナに陥ります。ですので、スタッフは、売り切れによってお客様が落胆することのないように、強気に商品を仕入れていく必要があります。
前回、「夕方に売り上げが上がらない直売所は要注意」だと書きました。こうした直売所は、夕方には店頭の品物が少なくなってしまうために、お客様の離反を生んでいる可能性があります(ご存じのとおり、スーパーや八百屋さんは夕方に混みます)。
買い取り式の直売所で、かつ、しっかりとスタッフが需要を予測している店舗では、夕方にしっかりと売り上げが立つようになります。夕方にも適切な量の商品が店頭に並んでいるからです。
買い取り式の出荷者にとってのメリット
買い取り式は出荷者にとってもメリットの多い方法です。
(1)売れ残りを気にしなくてよい
出荷したものが返品されることはありません(品質不良時を除く)。委託式直売所では、残った商品を回収に行かなくてはいけませんが、その必要がなく、農作業に集中することができます。
(2)他の出荷者との「出荷かぶり」がない
買い取り式の場合は、店舗スタッフから出荷すべき数量の連絡が来ます。店舗側では、たとえばキャベツが全体で90個ほしければ、3人の出荷者に30個ずつお願いする、などの調整をします。
ところが委託式の場合は、調整する人がいないので、3人の出荷者がそれぞれ90個ずつ持ち込んでしまったりします。そうすると当然ながら売れ残ります。
(3)価格が安定する
これは(2)とも関連しますが、買い取り式では、需要にあわせて商品の発注がなされます。なので、委託式直売所にありがちな、出荷者どうしで価格競争になる、ということが起きません。
(4)品質へのフィードバックがある
買い取り式の場合は、店舗のスタッフは売ることに必死です。売れ残りが多いとすぐ赤字になってしまうからです。そのため、買い取り式の直売所のスタッフは、出荷者への品質のフィードバックに積極的です。売りにくいものははっきりとそう伝えます。このことは、地域の農業技術の向上につながっていきます。
買い取り式の難度は高い
ここまで読んだ人はどんな感想を持ったでしょうか?
「買い取り式は素晴らしい。早く始めたい」と思ったかもしれません。
一方で、「言っていることが、ちょっと矛盾しているのでは」と感じたとすれば、それはなかなか鋭いです。
私たちは、「委託式だと出荷者が数量を少なめにしてしまうので、買い取り式にして強気に仕入れよう」と主張している一方で、「ちょっとでも売れ残りが出ると赤字になるのが小売業だ」とも言いました。
つまり、商品の仕入れ量は、多すぎてもいけないし、少なすぎてもいけないのです。
いわば、ものすごく危ない橋を毎日渡っている、ということです。
しかし、毎日リスクを冒すことで(失敗して損失を出すこともあります)、しっかりと売り切るノウハウを着実に蓄積し、地元の農業に貢献する。これが、私たちが展開している「買い取り式直売所」という形態を可能にする哲学です。
つまり買い取り式直売所とは、「直売所プロフェッショナル」だけが可能な運営形態なわけです。
買い取り式がハイリスクであることは、いくら強調してもしすぎることはありません。
直売所の設置団体によっては、金融を担当していた人を急きょ直売所の店長に異動させたりすることもあります。率直に申し上げて、そういう異動があるお店では、買い取り式は避けた方が無難です。
ロスによって大きな赤字を生むリスクもありますし、出荷者とのコミュニケーションもかなり難しいものになります(詳細は紙幅がないので別の回に譲ります)。
委託式の方が、現場の自由度が低いかわりに、店舗運営としての難易度はずっと容易です。
しかし、この連載を読んでいる直売所の店長さんで、もっと自由に販売することで、もっとたくさん売るノウハウを学び、ひいては地域の農業に貢献しようという思いがあるのであれば……あなたは「直売所プロフェッショナル」ですので、買い取り式にすることもひとつの選択肢になってくると思います。
もし買い取り式をうまく運営できたのならば、地域の農家(出荷者)にとって欠かせないお店になってくることでしょう。