分析に時間をかけない
直売所には、日々、いろんなデータが蓄積されていきます。
もしPOSレジを持っていたら、それこそ膨大なデータが手元にあることと思います。
今回は、そんなデータの分解方法について解説していくのですが、ひとつ気を付けたいことは、数字をなんとなく眺めているだけでは意味がありません。大事なのは具体的な行動です。
数字がたくさんあると、もしかすると分析にものすごく時間をかけてしまったりするかもしれません。「では、何をするのか?」という行動を起こすことが大事です。具体的な改善になるべく多くの時間を割いた方がいいでしょう。
そういう意味から、今回は誰にとっても親しみのある指標である「売上高」について、シンプルな分析方法に絞って紹介していきたいと思います。
具体的な行動が的外れでもいけないし、かといって分析に時間をかけすぎても無駄が多くなります。分析と具体的な行動はお店の両輪。どちらかに偏らないようにしましょう。
なお、数字を見る際には、原則としては前年同月との比較で見ます。直売所はその性質上、季節による変動が大きいので、直前の月と比較することはあまり意味がないからです。
ちなみに、直売所において収益アップとは、8割がた「売り上げの向上」を意味します。なぜなら、多くのコストが固定費(※)であり、農産物の消化仕入れのマージン率は固定だからです。
※ 固定費:売上高が増えたり減ったりしても金額があまり変わらない費用。
まず客数を分解する!
売上高の分解方法で最も一般的なのは、よく知られた以下の方程式です。
売上高 = 客数 × 客単価
では、「客数」はどのように分解したらよいでしょうか。
年代別(若い客層が多いのか、シニア層が多いのか)や曜日別(平日が多いのか、土日が多いのか)など分解の仕方はいろいろあります。
ひとつだけぜひ意識したいものをあげるなら以下の分解方法です。
客数 = 新規(初来店) + リピーター
このうち、新規(初来店)の客数というのが大事で、なぜなら、どんなにリピーターから愛されているお店であっても、顧客というものは入れ替わるからです。
顧客が入れ替わるのはお店に落ち度があるということではありません。
街に住んでいる人はつねに流動しています。都市部と地方部では異なりますが、私たちの本社がある東京都国立市であれば、人口1000人あたり60人以上は1年以内の転入者です。さらに死亡者数(出生数)は、1000人あたり7~9人です。それだけの人数が毎年入れ替わっているわけです。
また、居住地が変わらなかったとしても、お客様の所得や家庭の状況、仕事の時間の変化といった個人的事情で、来店しなくなることもあります。
したがって、いかに古くからの顧客に愛されているお店であっても、新たに訪問してくれる市民が少ないとジリ貧になってしまうのです。
さて、実践上は、レジで逐一「初めてのご来店ですか?」と聞くのもためらわれると思います。そこで近似値としては、ポイントカードを持っているか否かで代替するのが現実的です。ポイントカード非保有者にはリピーターも含まれてしまいますが、おおよその増減が分かればいいのでその点は無視します。
客数 = ポイントカード保有者 + 非保有者
「客単価」がアップしていると、「客数」が前年比で落ちているのに「売上高」が下がらないというケースが出てきてしまいます。「客単価」がお店の本当の状況にスモークをかけてしまうわけです。ですから、「売上高」の推移だけを見るのではなく、「客数」と「客単価」に分解して、上がっているのか下がっているのかを確認することは大事です。
なお、新規客数を増やすための具体策はいろいろありますが、基本的には広告宣伝活動が中心となります。
客単価を分解する!
では、次に客単価を見ていきましょう。
客単価はさらに以下のように分解することができます。
客単価 = 購入品目数 × 品目あたり単価
まず、「品目あたり単価」については、これをアップさせようと思えば、現実的かは別として、ごくごく単純な3つの施策があげられます。
- 既存商品の値上げ
- 同カテゴリー内のより高い商品への誘導
- 単価の高い商品の新規導入
もっとも1と2の施策は現実的ではないことも多く、「3. 単価の高い商品の新規導入」を検討することになります。たとえば、直売所の高額商品の典型はハチミツですが、もしハチミツを置いていないのであれば地元を探索して仕入れるようにするといったことです。
また、「1. 既存商品の値上げ」はなかなか難しいことも多いですが、委託式の場合は、お店が意図していなくても値下げ傾向が強まっている場合があります。その点でも「品目あたり単価」はウォッチしておく必要があります。
顧客は飽きやすい! 新商品の導入は全体の10~15%
次に客単価を構成するもう一方の要素である「購入品目数」。もしこれが前年比で落ちているようであれば、売り場のレイアウトを見直した方がいいかもしれません。売り場レイアウトについては以下の回で解説しました。
購入品目数 = 新規商品 + 既存商品
新規商品は1年以内に導入した商品のことです。ただし、同じ品目でも生産者が異なるものはPOSデータ上では別の商品となりますが、これは同じ商品とみなします。
新規商品の購入品目数に占める比率は、ケースバイケースですが、10%くらいあるのがベターです。加工品だけ見たときには、15%くらいほしいところです。
顧客は私たちが思っている以上に飽きやすいものなのです。ですから、新しい商品、それも魅力的な新しい商品がないと、足が遠のいてしまいます。
なお、新しい商品の導入については、以下の記事も参考にしていください。
夕方以降の客数は要チェック!
もうひとつ、とくに注目してほしい客数の分解方法があります。それは時間帯別です。
客数 = 時間帯① + 時間帯② + 時間帯③の客数
時間帯の例:①=10~13時、②=13~16時、③=16~19時
これは委託式の直売所では、夕方以降の時間帯(上記でいえば「時間帯③」)の客数が落ちやすいからです。なぜなら、生産者が売れ残りを回避しようとするので、どうしても保守的な数量を納入するようになるためです。そうすると夕方の売り場はスカスカになり、その時間帯に来る顧客の満足度を著しく下げることになります。
委託式のお店が陥りやすいワナであり、連載の別の記事で指摘しました。
ちなみに、当社の直売所では品不足の状態を防ぐために、委託式ではなく、買い取り式にしています。ただ、委託式であったとしても、問題式を出荷している生産者と共有することで対策を立てていくことはできます。
夕方以降の客数が減少傾向にあるようなら、品不足が原因である可能性が高いです。チェックしてみてください。
以上のように、「売上高」の分解方法のコツを見てきました。
もちろん、ここに書いたものはごく一部です。お店の状況はケースバイケースです。自分のお店に合った売上高の分析方法を見出して、現場の改善につなげていきましょう。