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野菜がない! 端境期対策をどうする!?【直売所プロフェッショナル#17】

野菜がない! 端境期対策をどうする!?【直売所プロフェッショナル#17】

直売所を複数展開する民間ベンチャーの創業者たちが、直売所運営のイロハについて事例をまじえて紹介していく連載。第17回は、直売所において最も大きな課題ともいえる端境期について、対策を具体的に紹介します。

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直売所最大の課題、端境期の問題をあらためて整理する

直売所の特徴は、販売するものの中心が「地元の野菜」であることです。「地元で収穫された新鮮な旬の野菜」がお手頃価格で並ぶ、というのが魅力だと思います。しかし、それゆえの問題として付きまとうのが端境期の地元野菜不足です。例えば、私たちが直売所を運営している東京では、2〜4月上旬と8〜9月くらいが端境期にあたります。つまり、一年間の1/3は端境期ということです。ちなみに、店頭が充実するのは6〜7月と11〜12月くらい、残りの1/3くらいはまずまず野菜があるという感じになります。販売する商品をここまでコントロールすることが難しい小売業というのは、他にはなかなかないと思います。いつも、よくこんな仕事をしているなぁ、と思うほどです。
一方、日本においては、産地をリレーすることでいろいろな野菜が一年中流通するシステムが確立しています。そのため、一般小売店の青果売り場をみると、主要な野菜はほぼ一年中店頭に並びます。ですので、一般的な野菜であれば、一年中手に入ると考える消費者が多いという状況です。
このように、地元野菜が販売の中心となる直売所には、端境期には野菜のラインアップが少なくなり、不便なお店になるという構造的な課題が存在します。そのことで、以下のような具体的な問題が発生します。

お客様を幻滅させてしまう

一般的な小売店やインターネットで購入している多くのお客様にとっては、一般的な野菜があるのが当たり前です。ですので、わざわざ買い物に足を運んだ直売所にお目当ての野菜がないと、次もないのかなとなり、足は遠のきます。

お客様・売り上げが減少する

野菜がないとなるとだんだんお客様が減ります。さらに、客単価も下がります。ラインアップが少なくなり買いたい野菜が減ると、購入点数も減少してしまうからです。客数・客単価の両方が下がり、売り上げも大きく減少してしまうのです。

繁忙期の来客が伸びてくるまで時間がかかる

実は経営的に見逃せないのが、端境期に与えた印象の影響で、野菜入荷が増える繁忙期の始めに来客がなかなか増えないということが起こることです。当たり前の話なのですが、日々の買い物には習慣性があるうえ、例え店頭にたくさん野菜があってもそれを知らないとお客様はいらっしゃいません。端境期に野菜がないことで足が遠のいたお客様が、もう一度来客し定期的に買い物に来るようになるまでに時間がかかってしまうのです。その結果、繁忙期の前半に機会損失が発生します。

一年の1/3も存在し、その間の売り上げが減少するだけでなく、野菜が増えてくる繁忙期にまで影響を与える端境期。抜本的な対策については私たちもまだまだ見出せていませんが、現時点で取り組んでいることを紹介します。

まず、基本的な対策としては、以下の2つを考えています。

  1. 端境期に販売する野菜をできるだけ確保する
  2. 端境期があることを前提として、対策を打つ

それぞれ、考えていきましょう。

端境期の野菜をできるだけ確保するために

まず、端境期の野菜確保については、さらに2つに分けられます。1つは、地元の野菜をどうやって確保するか、もう1つは地元でない野菜をどう考えるか、です。

地元の野菜をどう確保するかについては、販売データを整理・提供することが重要です。多くの直売所にはPOSレジがあると思います。そのデータを使って、年間販売実績を出し、主要野菜がない時期を特定するのです。その情報があれば、作付けの時期をずらすチャレンジをしたい農家さんはきっといます。

もちろん、農作物なので絶対に栽培できないものもありますが、繁忙期に同じ野菜がたくさんあって値段が下がってしまうことを考えると、チャレンジしたい人はいるのです。また、冬野菜であれば地域によっては後ろにずらす(畑に置く)ことができるものもあるため、あえてゆっくり出してくれる農家さんも出てくるかもしれません。それらの判断をする材料として、年間販売実績を提供することが重要です。日々の売り上げデータなどを農家さんに共有する直売所は多くありますが、農業経営に役立つ中長期の情報を、整理した上で農家さんに提供している直売所は少ないのではないでしょうか。また、当店ではより具体的に作付け相談をすることもあります。特定の農家さんに、時期と野菜を指定して栽培してもらうのです。こちらについては、それだけで1つの記事になってしまうので、今後書きたいと思います。

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次に、地元以外の地域でとれている野菜をどう扱うかです。これは、私たちの直売所がずっと悩んできたことでもあります。地元の野菜だけでは端境期にはお客様にとってとても不便なうえ、経営的にもかなり厳しいのが現実です。ただ一方で、市場から誰が栽培しているかわからない野菜を仕入れて販売するのが、当店のお客様にとって価値があることなのか。これは今でも答えが出ていない問題です。もちろん、市場の野菜を仕入れることが悪いということではなく、当店のコンセプトとの整合性がないとお客様の期待を損なうのではないかということです。現時点での私たちの答えは、たとえ地元の野菜でなくても、自分たちがオススメしたい品質で、誰がどのように栽培しているかを把握できる野菜を売りたいということです。そのため、私たちの直売所では必要だと思う野菜は地元以外からも仕入れますが、基本的には農家さんと直接取引をしており、できる限り圃場(ほじょう)にも足を運んでいます(バナナ・アボカドなどの海外からの輸入物は例外です)。利便性や経済性と店のコンセプトを鑑みて、それぞれの直売所が判断するしかないと思います。

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不便さを開き直り、繁忙期に向けての対策を打つ

先のような対策を打った上で、開き直るのも大事だと思います。旬の地元野菜が最大の魅力である直売所、一般的な小売店と同じ利便性を提供することは相反する面もあるためです。むしろお客様にきちんと情報を発信し、期待と現実のギャップを埋めておくことが重要です。

具体的には、端境期には野菜が少なくなることや、来店した時にないとガッカリ感の大きい野菜については事前にないことを伝えることができていると良いです。端境期に入る前に、店内掲示や配布チラシでその旨を伝えてもよいと思います。もちろん、ネガティブな情報とセットでポジティブな情報も出すように気をつけましょう。例えば、次に野菜の入荷が増えるタイミングを告知する情報も入れるなどは良いと思います。先ほど書いたように、端境期の影響で実は大きいのが繁忙期の来客への影響です。こちらへの対策としては、とにかく端境期の終わりに、「野菜がこれからたくさん入りますよ」という情報をしっかり発信することです。メーリングリストやLINE公式アカウントがあれば活用しない手はないですし、定期的に折り込みやセールをする予算を持っているなら、このタイミングで折り込みやセールを組むのも良いと思います。稼ぎ時の機会ロスを最小限に抑えるためには、とにかく繁忙期の初期にお客様に来店してもらうことが重要なのです。

繁忙期のスタートに合わせた折り込みは効果あり

実は、端境期は利益を確保しやすい⁉︎

最後に、関東など日本の一般的な気候に近い地域では言えるのではないかと密かに考えていることに触れておきます。これまでの話とある意味反対になるのですが、実は端境期は利益を確保しやすい時期なのではないか、ということです。その理由は、利益の面と運営コスト管理の両面から説明ができます。

まず、利益の面について。最初に書いたように日本には素晴らしい産地リレーがあるとはいっても、流通量が一年中同じということではありません。東京の直売所の端境期は、全国的にも野菜の流通量が落ちつく時期であり、相場も高い傾向にあることが多いように思います(もちろん天候などにより大きく変わります)。しかも、需要に対して地元農家さんの出荷量が限られるため、買い取りでの取引の場合は高めの利益率が実現しやすくなります。また、委託の場合も余剰出荷がなく直売所内での価格競争が起こりにくくなります。さらに、売り切る為の値下げやロス野菜の管理なども発生しないため、現場の作業工数が繁忙期と比べてかなり少なくなります。

このため、コストの面からは、端境期には現場の労働時間を大きく短縮することが可能です。もちろん、事前にスタッフとの合意が必要ですが、それ相応のシフト体制にすることを決めておけば、運営コストは下がるのです。当社店舗では、店にもよりますが、繁忙期と端境期ではシフト組みを変えています。逆に、スタッフも事前にそれがわかっていれば、閑散期に休みをとったり、予定を入れたりすることも可能です。また、店長やスタッフが繁忙期に長期で休みにくい場合には、このタイミングでしっかりと長期休暇を作ることなども考えられます。

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このように、店舗の運営という点では、端境期は入荷する野菜の量がある程度限られているからこそ、運営の仕方を事前に考えておき、効率化することも可能です。お客様の満足度を下げないようにできる限りの手を打った上で、繁忙期の準備をしながら、運営コストをできる限り抑える、というのが現時点で私たちが取り組んでいることです。

店舗業務量に合わせて、運営コストをなるべくコントロールする

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直売所を複数経営するベンチャー創業者2人が、直売所運営のノウハウを事例とともに紹介。地域食材に熱視線が集まる令和時代のニーズに合った、「進化版・直売所」の在り方を追い求めます。

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