漢方農法から始まるエシカル(倫理的)なブランディング 新規事業の基盤に

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漢方農法から始まるエシカル(倫理的)なブランディング 新規事業の基盤に

漢方農法から始まるエシカル(倫理的)なブランディング 新規事業の基盤に
最終更新日:2020年02月07日

農業を始める目的はさまざまある。目的をかなえる手段として農業を始めたにもかかわらず、農業の可能性と広がりに気づくこともあるだろう。埼玉県加須市の株式会社誠農社(せいのうしゃ)の藤田誠二(ふじた・せいじ)さんは、不動産会社の社長という肩書を持ちながら、「昔ながらの地域の風景や伝統を守りたい」と農業を始めることに。そして「漢方農法」との出会いをきっかけに、農業の範囲をこえて事業展開し、不動産業との相乗効果にもつながっている。

農業は地域を再生するチャレンジのため

誠農社の代表取締役、藤田誠二さん

株式会社誠農社の代表取締役である藤田誠二さんは、父の代から埼玉県久喜市で不動産業などを営む会社経営者で、自分が農業をするとは思いもよらなかったと言う。
きっかけは10年ほど前、加須市で17代続く農家の老夫婦から「もう家を管理することができなくなったので、家と土地を処分したい」との相談をうけたことだった。

誠農社の事務所として使われている古民家

過疎地域ではよくある話である。古く立派な家でも、継ぐ者がいなくなり老いた当主だけではあまりの広さに手入れもままならない。しかし、伝統や歴史のある家をこのまま捨て置いてよいのか、と疑問に感じた藤田さんは、自ら買い取って地域を再生するチャレンジを始める決心をした。
「このあたりは市街化調整区域(※)なので、なかなか手を入れるのが難しい。でも農業をやっていればやれることが多くなるので、農業をすることにしたんです」(藤田さん)
そうして誠農社は2011年2月に立ち上がった。
買い取った2軒の古民家のうち1軒はカフェとして改装。その際には産学連携で建築を学ぶ学生たちが参加したという。

カフェの壁に塗られた漆喰(しっくい)には、改装に参加した学生たちの手形が残る

※ 市街化調整区域…無秩序な市街化を避けるため、新たな建物の建築や土地の利用に関して制限が設けられた地域。

漢方農法との出会い

「無農薬で農業をやりたい」と決めていたという藤田さん。しかし、具体的にどうするのかは決めあぐねていた。当時、藤田さんが経営していた不動産会社のスタッフの一人に、福島県で米作りの名人と呼ばれる古川勝幸(ふるかわ・かつゆき)さんの知人がいた。「古川さんは漢方農法でコメを作って、米・食味分析鑑定コンクールで5年連続金賞をとっていた人ですよ。その方が東日本大震災後の風評被害でコメが売れなくて困っているとスタッフから聞いて、支援しようということになりました」(藤田さん)
藤田さんははじめ、コメを買い取ることで支援しようと考えたが、それでは一時的な支援にしかならない。もし古川さんがコメ作りをやめ、この技術が途絶えてしまえば社会的な損失だと思い、古川さんに師事して漢方農法のコメ作りを学ぶことにした。それが福島の復興のためにもなるし、これから誠農社が始めようとしている農業にもマッチしていると考えたのだ。

漢方農法とは

漢方農法の資材

漢方農法は、栃木県大田原市の漢方専門薬局の代表である星野英明(ほしの・ひであき)さんが提唱した農法で、農薬や化学肥料は使わず、人間が服用する漢方薬の煎じカスなどを原料とした農業資材を使用する。
「人間に良いものはコメにも良いという考えです。漢方資材を入れることで、土の中の微生物が活性化して土が元気になり、強い作物を作る。漢方資材にはレモングラスなど虫が嫌う成分が入っているものもあるので、防虫もできます」と藤田さんは言う。
一方で、手間もかかる農法だという。太い苗づくりにこだわり、密植はしないため、どうしても収量が落ちてしまう農法でもある。
「師匠(古川さん)には『1反(約10アール)あたり5俵(約300キロ)以上作るな』と言われています。うちでは慣行農法でもコメ作りをしていますが、1反あたり7~8俵はとれる。漢方農法では夏場の除草の人手もかかる。漢方農法のコメは慣行の3倍の値段で売っても赤字ですよ」(藤田さん)

オーナー制でつなぐ漢方農法米の価値

田んぼオーナーが集まるイベントの様子(写真提供:藤田誠二)

誠農社の田んぼ10ヘクタールのうち、漢方農法で作っているのは約3ヘクタール。そのうち1ヘクタールほどが区画オーナー制の田んぼになっている。契約期間は1年で価格は1口4万円(税別)、特典は年3回のコメ作りの体験イベント参加と漢方農法のコメ(最低保証25キロ)だ。現在オーナーは100組ほど。都内や神奈川県など遠くからも参加者が訪れる人気の企画となっている。
残りの2ヘクタールでできた漢方農法のコメは、有名デパートで販売すると申し込みが殺到したと売り場担当者から喜びの報告があったという。また、地域の幼稚園の給食でも使用され、完売となっている。
先述した通り、普通の米の3倍の値段で売り、完売したとしても赤字になってしまう漢方農法のコメ。これを作り続ける意味は何なのだろうか。

「農ある暮らし」の提案へ

「事業は金もうけだけが目的じゃない。誠農社の一番の目的は、農業を通じて心も体も地域も元気にしていくこと。それが『農ある暮らし』の提案です。ここをきっかけに、農業の持つ力に気づき、もとの不動産業との相乗効果で暮らし方の提案につながったんです」と、藤田さんは語る。
農ある暮らしの一環として農業体験イベントの企画や健康的な食材を使ったカフェの運営を行うことで、荒れていた古民家が人の集う場所となり、地域の活性化につながった。そのエシカル(倫理的)な取り組みを地元企業や有名企業が評価してくれるようになったのだ。

古民家を改装して作った繭久里(くくり)カフェ。平日にもかかわらず、入り口にずらっと靴が並ぶほどの人気スポットになっている

漢方農法によるブランディングが支える新規事業

そうしたブランディングが、実を結んだ。
誠農社では、古民家を利用して新しい事業も展開している。農業を通じた研修事業だ。
これまで誠農社のエシカルな取り組みを評価してきた企業が対象となっている。
研修内容はさまざま。江戸時代の農政家である二宮尊徳の思想や、農業と旧暦の関係など、農業に基づく教育コンテンツも開発している。宿泊を伴う研修もあり、農泊の許可も得ている古民家は大活躍だ。
「農業は単に作って売るだけではありません。新鮮でおいしい野菜を食べたい、買いたいというニーズだけでなく、農的な雰囲気のところで過ごしたいというニーズに応える農業もあります。そうしたニーズに応えるイベントを通じて、季節ごとの祭りなどの伝統も守っていける。農を一つのコンテンツとしてビジネス展開することで、地域のにぎわいをとりもどしていければ」と語る藤田さんの表情には、これまでの取り組みへの自信と誇りが感じられた。

株式会社誠農社

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