小規模企業共済の概要と加入資格
小規模企業共済の概要
小規模企業共済は国の機関である独立行政法人中小企業基盤整備機構(以下、中小機構)が運営しています。過去、小規模企業経営者や個人事業主は一般の労働者・従業員と比べ、社会保険や労働保険など各種制度の恩恵を受けることが少ない状況でした。そういった社会保障政策の不備を補充するために1965(昭和40)年にこの制度は開始され、現在では全国で約138万人が加入(2018年3月時点)しています。
加入資格
農業者の場合は次のいずれかに該当すれば加入できます。
- 個人経営:経営者と共同経営者2人の計3人まで加入可能。
- 法人経営:役員であれば加入可能。
※ 常時使用する従業員数または組合員数が20人以下の個人事業主、企業、組合、農事組合法人が対象です。
※ 「常時使用する従業員」には、家族従業員や共同経営者は含みません。
一方、下記に該当する場合は加入することができません。
- 共同経営者の要件(※1)を満たしていない配偶者等の事業専従者
- 会社役員(相談役、顧問等の実質的な経営者)とみなされていても、役員登記されていない者
- NPO法人等の直接営利を目的としない法人の役員等
- 独立行政法人勤労者退職金共済機構の運営する退職金制度の被共済者
前提として、法人または個人事業主と常時雇用関係にある給与所得者や学業を本業とする全日制高校生等は加入できません。ただし、農業者が農業所得のほかに、農閑期の一時的なアルバイト収入の給与所得がある場合は小規模企業者として加入できます。
※1 共同経営者の要件とは、以下の3点を全て満たす人です。「従事する事業の個人事業主が、小規模企業共済への加入資格のある小規模企業者であること」、「事業の重要な業務執行の決定に関与していること、または事業に必要な資金を負担していること」、「業務執行に対する報酬を受けていること」
掛金と共済金について
掛金の支払方法
掛金は月額1,000~70,000円の範囲で500円刻みの設定ができ、所得状況に応じて自由に変更可能です。共済契約者の収入から掛金の払い込みを行うため、掛金を経費算入することはできません。納付方法は月払い・半年払い・年払いから選択となり、半年払いと年払いの場合は前納減額金(※2)を受け取れます。
※2 前納減額金とは、掛金を前納した場合に一定額を還付する制度です。前納減額金の支払いを受けた場合は、所得控除として申告する掛金額から前納減額金の受け取り額を差し引く必要があります。
共済金の種類
契約者別の共済金の種類・請求事由は下表の通りです。掛金納付月数が6カ月未満の場合は共済金A、Bは受け取れません。また、12カ月未満の場合は準共済金、解約手当金は受け取れません。
個人事業主 | 法人の役員 | 共同経営者 | |
---|---|---|---|
共済金A | ・個人事業の廃業 ・共済契約者が死亡 |
・法人が解散 | ・個人事業主の廃業で共同経営者を退任 ・病気等により共同経営者を退任 ・共済契約者が死亡 |
共済金B | ・老齢給付(65歳以上かつ掛金180カ月以上納付) | ・病気・けが等での退任 ・65歳以上で役員退任 ・共済契約者が死亡 ・老齢給付(65歳以上かつ掛金180カ月以上納付) |
・法人化による加入資格の喪失 |
準共済金 | ・法人化による加入資格の喪失 | ・病気・けが等以外での退任 ・65歳未満で役員退任 |
・病気・けが等以外での退任 ・65歳未満で役員退任 |
解約手当金 | ・任意解約 ・機構解約(掛金を12カ月以上滞納した場合) |
・任意解約 ・機構解約(掛金を12カ月以上滞納した場合) |
・任意解約 ・機構解約(掛金を12カ月以上滞納した場合) ・共同経営者の任意退任(転職や独立も同様) |
加入シミュレーションをしてみよう
前回の記事で紹介した通り、掛金は「小規模企業共済等掛金控除」として、一年間に支払った全額を収入から控除することができます。ここでは課税所得400万円の方が、掛金月額1万円を20年間支払い、共済金を受け取った場合の節税額・共済金額のシミュレーションを例とします。
中小機構のホームページで自分の所得金額や掛金を入力して加入シミュレーションを行うことも可能です。受け取ることのできる共済金額も合わせて確認できますのでぜひお試しください。
加入のメリットと注意ポイント
小規模企業共済は掛金が1,000円から設定でき、毎年の収入に応じて月額掛金を500円刻みで柔軟に変更できるという点が特徴です。農業者年金も自ら保険料を積み立てる制度ですが、その保険料は月額2万円からとなるため、積立を行うハードルの低さという点で見ると小規模企業共済の方が取り組みやすいと言えます。
後継者への事業承継を見据えて小規模企業共済に月額7万円の掛金で加入していた元個人事業主は、「出費は大きいが、節税にもなるし退職金として受け取れる額も大きかった」と話します。節税となることを含め、始めやすく、状況によって掛金を大きくできることが小規模企業共済に加入する大きなメリットでしょう。
一方、共済金および解約手当金を受け取る際の税法上の取り扱いには少々注意が必要です。受け取り時の年齢や受け取り方法で、下記のように所得の種類が異なります。
例えば小規模企業共済の共済金や解約手当金の受け取り方法として、分割での受け取りを選択すると、上記で説明した通り公的年金等の雑所得の扱いとなります。他に国民年金や農業者年金を受け取り続ける場合、公的年金の控除額である120万円を超えて確定申告が必要となる可能性が高いです。
そのため、一括で退職所得として受け取った方が控除額の範囲内に収まり、得になる場合もあります。どのような形で受け取るのが自分にとって一番良いのか、会計の専門家にご相談の上、考えてみてください。
将来のための貯蓄と節税を両立しよう
老後や事業廃業後のお金について多くの方が不安を持っている時代だと感じます。このような時代だからこそ、毎年の節税に加えて、受け取り時には利息がつくという、安定した資産運用が見込める小規模企業共済は非常に強力な武器となります。興味がある方は、お近くの農協や金融機関、会計事務所に相談してみてください。
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