養鶏農家の娘と結婚、縁もゆかりもない沖縄へ
みやぎ農園は、31年前に沖縄県南城市で、養鶏農家として歩みをスタートしました。小田さん自身は滋賀県出身で、環境問題について学びたいと千葉大学園芸学部へ進学し、大学院まで進みます。卒業後は海外での農業研修をしようと、1年間ドイツで農業を学びました。そこで同じ研修に参加していたみやぎ農園の先代の次女・彩乃(あやの)さんと出会い、沖縄県に移住。その後彩乃さんと結婚し、みやぎ農園の2代目を継ぐことになりました。
「もともと環境問題に関心があって、大学院では育種学を専門に研究していました。農業の道もいいかもしれないと思って研修に参加したので、養鶏をすることに最初は悩みもありましたね」と小田さんは振り返ります。それでもいざ沖縄に飛んでみると、「身近な食を支えたい」「地域づくりをしていきたい」という小田さんがもともと抱いていた思いと、みやぎ農園の考え方がぴったりと合致したと言います。
「みやぎ農園では、養鶏だけではなく、加工品の製造販売や野菜の流通もしていました。地域の農家さんが全体的に儲かり、地域として発展していくことを目指していると知り、ここでやっていこうと決めたんです」(小田さん)
沖縄に来た当初は、言葉や地域性の違いに苦労することもあったと言います。それでも、毎朝卵を拾い、養鶏について学ぶ中で、新たなことを知る楽しさと、その奥深さを知った小田さん。現在、移住から10年が経ち、すっかりみやぎ農園の大黒柱になっています。
「任せられるところはニワトリに任せる」平飼いとは
そもそも平飼いとは、ニワトリを地面の上で自由に放して飼うことを言いますが、「平飼い」と一口に言っても、細かい方法の違いがあります。みやぎ農園の平飼いは、ニワトリに任せられる部分は任せ、できる限り人の手を入れずに、うまく循環させることを重視しています。具体的な平飼いの方法について、教えてもらいました。
青草と発酵飼料を好きなだけ食べてもらう
たっぷりの青草と発酵飼料をエサ箱に入れて、ニワトリに自由に食べさせます。発酵飼料は先代が5年も試行錯誤を重ねて配合したもので、トウモロコシやヨモギ粉末、土などに、「有用微生物ぼかし」を加えたオリジナルのもの。「有用微生物」とは、乳酸菌と酵母、光合成細菌の3つをブレンドしたもので、シンプルかつ安全に発酵飼料を作ることができるそうです。青草と発酵飼料の効果で、ニワトリの内臓をよりよく機能させ、健康に保つことができると言います。
鶏舎内の床は鶏ふんで作りニワトリが循環させる
鶏舎内にたまる鶏ふんは、木くずや食べ残しとともに、微生物資材を使ってその場で堆肥(たいひ)化されています。そうすると、床が森の腐葉土のようにフカフカな状態になり、温湿度を調節したり、ニワトリがそれを食べて腸環境を整えたりする役割を果たすそうです。この「床」は、そこでニワトリが過ごすことによって自動的に循環されるので、入れ替えも掃除も必要なし。堆肥となった鶏ふんは臭いがなく、消毒も必要としないため、自然な環境下で、健康な卵を産んでもらうことができるのです。
ニワトリは1人あたり1000羽まで
みやぎ農園では、現在は約1万2000羽のニワトリを飼育していて、スタッフ1人あたりが世話するのは1000羽までとしています。人手を確保することで、ニワトリにしっかりと目を配り、健康状態を維持することができるのだそうです。スタッフは朝6時半に出勤して、午前中はずっと卵の回収作業をします。30部屋以上の鶏舎をすべて見回り、卵を手で拾い集め、隠れているものは掘り返して探すそうです。
小田さんは、みやぎ農園の養鶏について「手をかけなくていいところには手をかけず、ニワトリに任せられる部分は任せています。人間はニワトリが健康でいられる環境づくりをして見守る、そうすることで人の手間を減らすこともできるんです」と言います。そんなみやぎ農園の卵は、黄身はしっかりとして濃厚、白身は余計な雑味がないという最高のバランスなのだそうです。
「卵を廃棄したくない」思いから生まれたマヨネーズ
こだわりがたっぷり詰まったみやぎ農園の卵が使われたマヨネーズですが、その開発は約20年前のこと。当時、廃棄せざるを得なくなった卵を活用するために、マヨネーズ作りは始められました。主に油とお酢と卵という3つの材料を使って作るため、乳化がうまくいかず、油とお酢が分離してしまうこともあったそうです。試行錯誤を繰り返し、約2年後、ようやく理想の配合が決まり、販売できることになりました。
3~4年前からは全国に向けて販売を始め、味もプレーン、島唐辛子、ゴーヤー、プレミアムの4種類までに増やしています。食べた人から寄せられるのは、「市販のマヨネーズと全然食感が違い、卵の味がしっかりする」という感想。みやぎ農園の卵黄だけをふんだんに使って、卵感あふれる養鶏農家ならではのマヨネーズを作り続けているのです。
さらに、新たな商品「スパイシージンジャーシロップ」を昨年発売しました。みやぎ農園でとれたショウガと、多良間島(たらまじま)産のサトウキビからできた黒糖を使い、料理やデザートの隠し味に使えるシロップです。また、これから「スパイシートマトケチャップ」と「エッグカード」も販売を始める予定だと言います。
ただ、みやぎ農園の主体はあくまでも農業。食品の加工について小田さんは、「うちは、例えマヨネーズがたくさん売れても、他の卵を仕入れて作ることは絶対にしません。自分たちや契約農家さんが作ったものだけを使います。うちは農業が母体だから、加工については、農業をやるうえでの一部分という認識なんです」と力強く語ります。
「持続可能」な美しい村づくりをしていきたい
みやぎ農園は、養鶏や食品加工だけにとどまらず、ショウガやパパイヤの有機栽培、契約農家が作った農作物の流通・販売にも携わっています。さらに、養鶏の技術を海外にも伝えようと、2019年1月からブータンの養鶏農家のもとで技術指導をしています。さまざまな取り組みを続けるみやぎ農園ですが、すべては「持続可能」というキーワードにもとづいているのです。
例えば、農作物の有機栽培には鶏ふんを良質な堆肥にして使うなど、「循環型農業」を意識して、持続し続けられる形を重視しています。小田さんは、「沖縄県は海に囲まれ、面積も狭いので、そもそも廃棄できる場所がありません。鶏ふんを放置すると、雨で流れて海の汚染につながることもあります。それでは持続できないから、自分たちで出したものは自分たちで活用する、そのような視点が大切だと考えています」と話します。現在はショウガとパパイヤだけを栽培していますが、今夏からはオクラも育て始める予定なのだそうです。
みやぎ農園では、30年以上養鶏を続けていますが、今の方法にも満足はしていません。よりニワトリが健康に過ごせるように、少しずつマイナーチェンジをして、よりよい方法を模索し続けています。これからの目標は、「波及させること」。自分たちがやっている養鶏や農業を、県内外や海外にも広めて、農業で生活できる人を増やしたいと考えています。
先代がよく口にしていたのは、「美しい村づくり」という言葉。小田さんも、その言葉を大切にしています。「持続可能な養鶏や農業を目指すことで、人も、動物も、景観も、その土地が本来あるべき姿を、その時代に合った形で維持できると考えています。自分たちさえよければいいのではなく、どうしたら地域全体が盛り上がるか、収益を上げ続けられるかという視点でこれからも活動していきたいです」
画像提供:みやぎ農園