生産者が直接参加するネット通販
クックパッド株式会社が提供する「クックパッドマート」。アプリを通じて簡単に生鮮食品を買うことができるサービス(※)なのだが、ただのネット通販ではない。朝どれの新鮮野菜や鮮魚・肉、変わったものでいうと作りたての国産チーズなどを、専門店や生産者から直接購入できるというシステムだ。最低注文額の縛りがなく1品から買えるため、気軽に注文ができる。しかも朝8時までに注文すれば、指定のマートステーションと呼ばれるロッカーに即日届き、送料無料。大規模マンションのロビーや住宅街のコインランドリー、ドラッグストアや東京メトロの駅構内など首都圏70カ所近くで受け取りが可能と、利便性が非常に高い。都合の良い時間・場所で受け取れるうえに、販売価格はスーパーと変わらないため、働き盛りの世代は特に重宝するサービスだろう。
※ 2020年3月現在、東京・神奈川一部地域で利用可能。
だがこれだけ消費者に優しいと、気になってくるのは出荷者側への負担。そんな疑問を解消すべく、実際にクックパッドマートに出荷している株式会社農業法人調布のやさい畑(東京都調布市)のマネージャー、新美知明(にいみ・ともあき)さんと、クックパッド広報担当の牛山(うしやま)マーティンさんにお話を伺った。
アプリ利用者のニーズとは?
直売所を運営する調布のやさい畑は、江戸時代から続く農家。自社農園を持ちながら、野菜を消費者に直接届けたいとの思いで直売所も経営し、現在は40組の生産者から仕入れ、日々野菜を販売している。新美さんは「生産だけでなく、小売として成立させるためには、待つだけの商売ではいけない」と新たな販路を探しているさなか、クックパッドマートに出会った。
「受け取り時までクオリティーが担保できていれば、生鮮食品の通販は可能だと思っていました。ただ、送料がネック。でも、クックパッドマートは出荷者の送料負担もなく、クックパッド側が配送もしてくれるので、これはビジネスになるぞと」
そう確信した新美さんは熱心に社長を説得。しかし実際に導入してみると、全てが予想通りだったわけではなかった。当初新美さんは、アプリを通じて野菜を購入する客層は、食にこだわりがある人だろうと思い、珍しい野菜を販売した。だが、これはまさかの失敗。そこで新美さんは「店頭で野菜を買う人は地産地消を意識していて、料理ができる人が多い。一方アプリではとにかく利便性が求められている」と考え、日々の食卓に並ぶ定番野菜セットや食べきり量のお米を販売。お米は10種類以上の品種を500グラムから、しかもその日に精米したものを届けるという、サービスの仕組みを存分に生かしたものだ。これがニーズと一致し、現在では毎日売り切れるほど忙しいという。
商品の集荷配送の方法は?
日々多くの商品が流通するクックパッドマートでは、商品の集荷配送はどのように行われているのだろうか。新美さんがやさい畑での例を説明してくれた。やさい畑には巨大な集荷用の冷蔵庫が設置されており、出荷者は注文を受けた商品に指定の商品ラベルを貼り付け、朝8時から10時の間に納品する。そこにクックパッドマートのトラックがやってきて、各マートステーションまで配送を行ってくれる。あとは購入者が商品を受け取るだけだ。事前に注文を受けた商品だけを納品し、配送が完了した時点で決済されるため、売れ残りを心配する必要がない。
ちなみに集荷用の冷蔵庫を設置すると、設置料が支払われるなど、スペース提供者の負担が軽減されるように考えられている。集荷用の冷蔵庫は近隣の生産者が複数参加して一定の商品数を満たすことで設置できる。
トラブルの対応は?
もし、購入者が受け取りに来なかった場合はどうするのだろうか。
「お客様が商品を受け取りに来なかった場合でも、商品の回収はドライバーが行うため、出荷者にかかる負担はありません」
トラブル対応はクックパッド側で行う、と牛山さん。
「商品に対するクレーム対応も同じです。利用者からの連絡を受けて、出荷者にはクックパッド側から連絡をします。状況確認した上で出荷側のミスによるものだった場合は、返金などの対応を相談させていただく形になります」
返金の対応自体も、事務的なことはクックパッド側が行ってくれる。いずれにせよ、トラブル対応における出荷者の負担はほとんどないと言えるだろう。
買いだめしないサービスが実現する未来
クックパッドマートはまだ始まったばかりのサービス。新美さんは、現在は出荷者も運営もさまざまな道を模索している途中だと語った。
「必要なときに必要な量を買えるこのサービスは、食品ロスを考える上でも重要になります。いずれ大きく広がれば、環境にも優しく、食育にも貢献できると思います。そのためにいろいろと提案をしながら、改善していきたいです。例えば梱包材。現在はビニール袋など一般的なものを使用していますが、効率化を目指し、将来的には簡易包装を使えないか、クックパッドと相談しています」
牛山さんは将来的にはこのサービスをインフラとしていきたい、そのためにも大きく変えたいことが2つあると言い、次のように続けた。
「今後は共働きや単身世帯が社会の前提になります。そういった人たちは日中の商店で買い物をすることができない。仮に買えたとしても、店頭に並ぶ商品は画一的で、多様性に欠けていることが多い。私たちは消費者の買い物が自由にでき、生産者がより良いものを作れる社会にしていきたいと思います」
昔、日用品は店頭で買うものだった。だが今は、多くの人がネット通販を利用している。農作物はどうだろう。かつてあった障壁は、今や最先端の技術と、大きな夢を持った人々により取り払われた。私のような多品目を少量ずつ栽培する生産者にとっては、一度に大量の作物を出荷することは難しい。しかし、必要なものを必要な量だけ、毎日売り買いするというこのシステムは、その日一番おいしい野菜を消費者に届けることができるうえ、毎日の売れ行きを把握することで、次作以降の作付けの参考にすることもできる。初期費用も、月額費用もかからないということだから、売れ行きが悪くとも余計に苦しくなってしまうことはない。むしろクックパッドマートを通じて得られた情報を分析することで、生産者としても、農業経営者としてもさらなるステップアップを望めるだろう。販路に思い悩んでいる生産者はぜひ挑戦してみるべきだし、私も利用したいと思う。生産者と消費者、地域がより一体となり、日本の食がより良いものになると願って、サービスの行く末に期待したい。
取材協力
(株)農業法人 調布のやさい畑
クックパッド株式会社
クックパッドHP