「3つのことしかやらない」と宣言する援農ボランティアとは

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「3つのことしかやらない」と宣言する援農ボランティアとは

連載企画:「なんとなく地産地消」からの卒業

「3つのことしかやらない」と宣言する援農ボランティアとは
最終更新日:2020年04月14日

東京都内で直売所や飲食店を展開する筆者が令和時代の地産地消を掘り下げる連載。
地産地消に取り組んでいない街はほとんど存在しない。
でも、地産地消は掲げてみたものの、なかなか広がらないし、儲かりもしない……それが日本の地産地消の現在地だ。今回は援農ボランティアについて。援農ボランティアの後継者問題も起きており、その対策を考える。

一風変わった援農ボランティアグループ

毎週末、東京都内のあちこちの田畑にでかけていって、農家さんと一緒に農作業を行っているグループがあります。
「東京縁農会」です。
Facebook上で緩くつながっているグループで、JA全農に勤める大森継之助(おおもり・つぎのすけ)さんが主宰しています。とくに会則があったり、出席日数が決まっていたりはしない上に、訪問する農家さんも東京都全域にわたっていて、ちょっと変わった援農グループです。
東京縁農会の「縁」は、「援(たす)ける」という字ではありません。
活動内容は農作業を手伝っているのですが、「援けになります」と表明しているわけではないのです。
その理由は、東京縁農会の活動が主に週末で、参加者は学生を含む若い人(用語メモ1)が中心ということにあります。

ある日、西東京市の「レイモンドファーム」を訪ねるというので、取材に行きました。
レイモンドファームは、ニンジンやキャベツなど多品目の野菜を作る農家です。
この日はあいにくの雨模様で、収穫したニンジンにべっとりと泥が付いていました。これを機械で洗う現場を見たボランティア達は、大量のニンジンがどんどんピカピカになっていく様子にみな感動していました。農家にとっては当たり前すぎる日常ですが、そういうことすら楽しみの対象になるのが「素人」なのでしょう。
この日行ったニンジンの畑の草取りでも、「テデトール(手で取ること)は有機認定の農薬なんだよね」などと冗談を言い合いながら、作業を進めていました。
草取りは単純で地味な作業ですが、素人にとっては農家さんと一緒に行う草取りは新鮮な体験です。むしろ、素人だからこそ、楽しめると言ってもいいかもしれません。

「レイモンドファーム」でのニンジン収穫。手前が大森継之助さん

ハウスの中の草取りもどんどん進む

用語メモ 1:若い援農ボランティア

自治体の「援農ボランティア養成講座」(後述)が主に平日昼間に行われるということもあって、若い人が援農ボランティアとして畑を訪ねる機会は少ないのが現実。しかし、昨今は学生を含む若い層の農業への関心は高まっていて、この層に門戸を開いていないのは農業界としては実にもったいないことである。

遊びの要素を入れこむ

この東京縁農会の様子を見て、横浜の「苅部(かるべ)農園」のケースを思い出しました。
苅部農園は多品目の野菜をつくる、神奈川県内でも先端といえる農家ですが、園主の苅部博之(かるべ・ひろゆき)さんには不思議な肩書があります。それは「全日本鍬(くわ)検定会長」。

そんな検定の名前は、ベテランの農家さんでも聞いたことがないのではないでしょうか?
それもそのはず、全日本鍬検定という検定は苅部さんが独自に作ったものなのです。
苅部農園では「農業塾」という実習付きの講座を開催していますが、参加者の農作業での鍬使いがうまくなってきたらだんだん「昇級」するのだそうです。
ちなみに、苅部さん自身は「鍬検定八段」とのこと。
こうした遊びの要素が、援農ボランティア(苅部農園ではボランティアではなく塾生ですが)にはとても大事だと思います。
援農ボランティアは、災害時の緊急ボランティアなどと違って、息長く続ける必要があります。
なので、楽しく取り組むという姿勢が必要不可欠です。

援農ボランティアは大事な存在に

援農ボランティアは、地域によっては農業経営になくてはならないものになっています。
農業従事者の高齢化が進むなか、ボランティアの方が主たる従事者と言ってもいいケースすら出てきています。
また、援農ボランティアは、単純に農家の労働力を補完しているだけではありません。その街において、地域の農業のスポークスマン的な役割を担っています。
農家さんはなかなか街の人と交流する機会がなかったりします。そこで援農ボランティアが、地元の農産物のおいしさや農業の歴史を一般の人たちに伝えることで、街全体として農業を盛り上げていこうという雰囲気を作り出すことができます。

そうしたなかで、自治体がボランティアの育成を目的としたセミナーを開講しているケースもあります。
たとえば、東京都日野市では、「日野市農の学校」を開催して援農ボランティアを育成しています。1年間のカリキュラムで、座学と畑での実習の両方があります。
目的としては「より高度な援農活動ができるよう、農業知識や技術を習得すること」が掲げられています。

自治体の講座に参加するとさまざまな技術を習得できる(写真はイメージです)

こうした公的なセミナーが開催される背景には、技術習得もさることながら、「まったく知らない他人が田畑に来るのは困る」といった農家側の事情もあります。地域によっては、知らない人を田畑に入れたくないという昔ながらの考え方が残っていることも多く、自治体が間に入ることでそれを緩和する役目を負っているわけです。
実際のところ、農家さんとボランティアの相性が合わなかったときに、自治体に相談することもできます。あるいはボランティアがケガした場合の保険を自治体がカバーしていることもあります。
しかし、直接ボランティアを募集している場合には、さまざまな管理を農家さん本人が行う必要があります(用語メモ2)。

もっとも、自治体の講座はどうしても網羅的で一般的な内容になってしまいます。農家さん自身がコミュニケーションスキルにたけている場合は、自分の栽培方法について直接教えた方が効率的です。当然ながら、農家さんによって技術や作法はかなり違うわけなので。

用語メモ 2:援農ボランティアの管理

援農ボランティアは無償、もしくは安価ではあるが、シフト管理やコミュニケーションの手間は意外と大きい。賃金を払っているアルバイトだからこそ、細かい指摘もできるし、遅刻を叱ることができたりするという面もある。
したがって、有償のスタッフを雇った方が効率的なケースもあり、無償だからといって安易にボランティアを選択することがよいとは限らない。

参加するにはハードルが高すぎる?

援農ボランティアの現在地を見てみると、一般市民の参加へのハードルが高すぎる場合が多いです。
自治体の講座はだいたい1年間のカリキュラムで、そもそもそれに参加すること自体が高いハードルです。
また、どうしても人手は平日昼間に必要とされるということ。農作業は昼間に行うものなので、仕方ないところがあります。
しかし、早朝や土日などでも人手が必要なことはあります。
世の中には早朝サーフィンをしてから出社するサラリーマンもいるようなので、仕事場が近ければ、「早朝、畑仕事」から出勤することもこれからの時代にはマッチしていそうです(事実、兼業農家はそういう働き方をしていると思います)。

もうひとつ指摘すべきハードルがあります。援農ボランティアのグループの高い志が前面に出すぎている、というケースです。
「地元の農業を助けよう」という目的は素晴らしいもので、それを長く続けてきている援農グループには心から敬意を表したいと思います。
ただ、その目的が強く出すぎてしまうと、「助けるために畑に行ったのに、かえって迷惑をかけてしまった」といったことが許されない雰囲気になりがちです。そのため農作業の初心者が参加しにくくなってしまうのです。そうした結果、グループの後継者がなかなか増えていかないということも起こりえます。
これを避けるためには、苅部農園のように「遊び」の要素もうまく織り交ぜる必要があります。
前述のとおり、援農ボランティアは農業と一般市民をつなぐスポークスマンでもあるわけなので、初心者も含めて、いろいろな層の人が参加してくれる方が地域の農業のためだと思います。

その点、東京縁農会は「農業を助ける」ことを前面に出してはいません。
そして「3つのことしかやらない」と農家さんに対して宣言しています。
それは「雑草取り」「片付け」「マルチはがし」です。
農家さんからすれば、「それなら素人でもある程度できそうだな」と思えます。同時に、「せっかく来てくれたのに、雑草取りだけでは申し訳ない。収穫も体験させた方がいいのではないか」といった気遣いをする必要がなくなります。
ボランティアに対しては、日当を払っているアルバイトとは違うのでどうしてもこのような気遣いが発生しますが、「3つの作業しかやらない宣言」にはそれを緩和する効果があります。
参加者も、高度な技術を求められていないと分かるので、気楽に参加することができます。

ボランティアは無償であるがゆえに、志がなければ続かないという側面はあります。一方で、志だけで中心メンバーが走ってしまうと、門戸が狭くなってなかなか援農ボランティアグループの後継者が育たないという状況になりがちです。
「遊び」の要素をうまく取り入れることで、さまざまな層がより気楽に農業に参加できる状況を作ることが、今の農業界には求められているように思います。

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