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飲食店で多発する「なんとなく地産地消」症候群 「地元産」を使う本質を問い直そう【#2】

飲食店で多発する「なんとなく地産地消」症候群 「地元産」を使う本質を問い直そう【#2】

東京都内で直売所や飲食店を展開する筆者が令和時代の地産地消を掘り下げる、全6回の考察。
多くの飲食店にとって、地産地消は大きな関心事だ。生産者のほうも飲食店に納入したい。しかし、安易な考えから取り組みをはじめるとすぐに関係が終わりかねない。そんな飲食店の「なんとなく地産地消」を掘り下げる。

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飲食店で「なんとなく地産地消」症候群が多発

この連載は「なんとなく地産地消」症候群から脱出するために、その活動の価値を再定義することを目指しています。
そこで、ずばり申し上げます。
飲食店は「なんとなく地産地消」症候群の温床です。

多くの飲食店がいま地元の食材に注目しています。
私が経営している直売所にも、日々、飲食店のオーナーや料理人が新鮮な野菜を求めて来店します。
その多くは、本当に地元に愛があって、地元野菜を集客につなげている「素晴らしい地産地消」の実践店舗です(本稿の後半で2社の取り組みを紹介します)。
しかし、「なんとなく地産地消」、つまり具体的な理由はなく地元産を扱いはじめて、そしてすぐに止めてしまうお店もそれなりの数あることも事実です。

当社でも、銀座などの都心に複数店舗をもつ外食企業に野菜を納入していたことがあります(当社は東京産の農産物を扱っているので、銀座のお店でも一応地産地消なのです)。
なかなかカッコいい高単価な居酒屋さんで、運営会社は大企業の子会社でもあり、きっと大きな取引になるだろうと期待していました。しかし、日に日に注文が減っていき、半年ほどしか続きませんでした。
また、ホテルのレストランに納入したこともあります。ビュッフェ形式(バイキング形式)のレストランで、地元野菜のコーナーを作ってくれるということでした。しかし、それも長続きしませんでした。

いくつか理由がありますが、ひとつはこうした運営企業との相性の悪さだと思っています。
大きな飲食企業(用語メモ1)やホテルにおいて本部が現場に求めることは、集客やコストダウンにすぐにつながる施策です。
しかし、地産地消は集客にはつながりません。少なくとも短期的には。

地元の食材は、特殊なケースを除いて、超絶においしいということはありません。もちろんおいしいことはおいしいのですが、よほどの食通でないかぎり、その食材のおいしさのためだけにお客様が足しげく通ってくれるというケースはあまりありません。例外はありますけども。
なので、地元の食材を置けばお客様が増えるだろう、という安易な考えから地産地消に取り組むと、その効果が少ないことが分かって即撤退、ということになります。
その点、個人店の場合は、これから述べるように地産地消に取り組むのは別の理由もあるのですが、大手企業の場合は短期の集客につながらなければ継続は難しいです。

用語メモ1:大きな飲食企業

個人店や数店舗程度の飲食企業と違って、大きな飲食企業は、本部と現場が分かれている。本部が地元食材を活用しようと音頭をとっても、実際には現場にとっては面倒に思われてしまうことも多い。逆に、現場には食材を選ぶ権限が与えられていない場合も多い。

ホテルのブッフェ形式と地産地消は相性がよくないかもしれない

人間ファクターを強化せよ!

前回の記事で、「地産地消には感動が必要だ」ということを述べました。地産地消を集客に生かしている飲食店には事実、感動があります。

そして、感動を作る場合に相性がいいのは、お酒を提供する店、言いかえれば、盛り上がってナンボの店です。
逆に、先ほどあげたようなビュッフェ形式の店は相性が悪いです。
なぜでしょう。
お酒を提供する店(居酒屋やバル)は、オーナーやスタッフの人間味、人間的要素が集客における重要なファクターです。逆にスタッフとの会話を楽しみにビュッフェのお店に行く人は多くありません。
(したがって、当社が運営している飲食店はすべて、お酒を楽しむ店です。お客さんの滞在時間が長くなり、スタッフとのコミュニケーションが多くなりやすいのです。)

地産地消は、飲食店の人間的要素を強化し、中長期的にお客様を増やす効果があります。
この効果はジワジワと効いてくるものです。ゆえに、ある程度の期間の我慢が必要です。

さて、地産地消に取り組むことで、お店の人間的要素は2つのアプローチで強化されます。
「オーナーや店長の人格の表現」と「会話のネタ」です。

1. オーナーや店長の人格が表れる

そもそも飲食店は、食事を提供するだけではなく、雰囲気を楽しんでもらう商売です。そして、個人経営の飲食店は、多分に、オーナーや店長の人格や個性を楽しむ場所でもあります。どんな食材を使っているかは、それを表現する一種の媒体といえます。
「地元を大切にしている」「鮮度にこだわっている」「農家さんがよく飲みに来る」……。それもまた、お客様が楽しむ要素となってくるのです。
そして、大きな企業の飲食店が地産地消と相性が悪いのは、人間的なファクターが店の強みとあまり関係ないからです。

2. 会話のネタとなる

食べ物には多くの人が関心を持っています。なので、食材の情報は、お客様とスタッフ、あるいはお客様どうしの会話のきっかけになります。
なかでも地元の食材は、ローカルトークも混ざり合って、たとえば「私、その農園の前をよく通るのよ!」といった感じで盛り上がります。近いのでスタッフが田畑を見に行くコストが安いことも見逃せません。

「地産地消に感動が必要」というこの連載のメッセージ。それは飲食店も同じです。
感動がなければリピーターにはならないからです。そして感動のためには、情熱や工夫の量が一定の“ライン”を超えてくる必要があります。
「なんとなく地産地消」の段階では、そのラインを超えることが絶対にないので、集客にはつながらないのです。

地産地消飲食店のケーススタディー

最後に、感動を伴う地産地消を実践している飲食店のケースを2つ取り上げたいと思います。

<ケース1>“ライン”を超えている地産地消のお店のひとつに、八王子の居酒屋「けいの家(や)」があります。「けいの家」の取り組みは次のとおりです。

  • とにかく地元食材が目白押しのにぎやかなメニュー。「圧倒的な地元食材の使用量を目指している」(オーナーの北澤秀彦<きたざわ・ひでひこ>さん)
  • 「そこ採れ野菜盛り」が人気。「そこ採れ」とは空間的にも時間的にも近くて鮮度が高いことを表現している
  • 商品説明は丁寧に行う
  • アルバイトスタッフも含めて、畑で収穫体験に参加

先日訪れたときには、地元の伝統野菜である高倉ダイコンのフェアを開催していました。高倉ダイコンは市内のごく少数の農家しか作っておらず、メニューのキャッチコピーによれば「大正時代より受け継がれてきた幻の大根」とのこと。
同じ食材を活用して多くのメニュー(「干しダイコン焼き」や「ダイコンの唐揚げ」、「干し大根DEカナッペ」などなど)を展開していました。

地元市民であればメニューを眺めているだけで温かさを感じます。居酒屋とは店の空気感が大事な商売なので、その温度が集客につながってくるのです。

「けいの家」スタッフさんの収穫体験の様子

「けいの家」で開催されていた「高倉ダイコン祭」のメニュー。細かく情報が書き込まれている

<ケース2>多摩エリアに拠点を置く株式会社サニーワークスは、飲食店10店前後を展開する企業です。
サニーワークスのお店にいくと、レジの脇で「社長が作ったハチミツ」を売っています。社長の横須賀健(よこすか・たけし)さんは、農家出身というわけでもないのですが、みずから養蜂(用語メモ2)をやっています。
さて、同社のひとつのお店で店長を務めていた横谷隆宏(よこや・たかひろ)さんは、あるとき異動で「1次産業プロジェクトリーダー」になりました。
横谷さんの普段の活動はというと、

  • 7カ所の圃場(ほじょう)・畑で、生産者を手伝っている
  • 南アルプスでは養蜂、八王子市ではチーズづくり、あきる野市ではキノコ栽培を手伝う
  • 農福連携で野菜を育てているNPO法人ここかまど(八王子市)の農作業を補助することもある
  • 自社の店舗には自ら野菜を配送している

横谷さんは異動前に、飲食業界を辞めようと思っていたということです。そのときは日々の作業を苦痛に思っていたそうです。
しかし、農業に携わるようになって、「食材に対する思いが変わった」と言います。
「オクラが真っすぐに長い茎に上向きになっていることも初めて知った」(横谷さん)
そうして、ひとつひとつの食材に丁寧に向き合うようになった結果、自身が飲食店に携わっていることの意味も変化しました。
「いまだに虫は苦手です」という横谷さんですが、いまは飲食店の現場に立つことも、畑で作業することも楽しいということです。

横谷隆宏さん。八王子市内の畑にて

このケースもある意味、感動の形だといえます。
つまり、お客様ではなくて、従業員の感動です。
地産地消は従業員の心の持ちようを変えることがあり、ひいては従業員の満足度や定着率にもプラスの効果をもたらします。

用語メモ2:養蜂

いまでは養蜂は多くの町の地産地消で大きな役割を果たしている。銀座はちみつプロジェクトなどが有名。はちみつは、(1)お土産品として販売できる、(2)スイーツにも展開が可能、(3)健康に良いイメージが強い、(4)保存が利く(半永久的に腐らない)、という6次産業品としてはこれ以上ない特徴を兼ね備える。

飲食店が地元農業を育てるかもしれない

さて、地元の農業に携わっている、私たち「地産地消業界」から見れば、飲食店と付き合うことのメリットは大きいものです。
飲食店のみなさんは食のプロであり、他の地域の食材のこともよく知っています。その方々の要請に応えていけば、おのずと地元の農業のレベルは上がるからです。
(もちろんその要請に応えきれないこともあり、それが飲食店が地産地消を続けない理由のひとつかもしれません。)

また、飲食店は、市民と農業の接点でもあります。最近は家庭で料理することが当たり前ではなくなっています。外食、中食、内食のすべての場面で地産地消を進めていくことで、地元農業を知ってもらうチャンスが格段に増えるのです。

なお、飲食店と直売所とのお付き合いについては、別連載の以下の記事もぜひ参照してください。

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いずれにしても、ただいくつかの地元野菜メニューを提供しているだけでは、本当の地産地消とはいえません。地産地消を推進する団体や生産者の側としても、材料提供だけではない深い関係を、飲食店と作っていく必要があります。
そうでなければ、感動を作り出す地産地消にはならないですから。

さて、次回は、援農ボランティアのあり方について取り上げたいと思います。

前回の記事
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