ブロック堆肥とは?
今回は、ブロック堆肥の開発に関わった3人にお話を聞きました。
■JAみっかび:山本輝弥(やまもと・てるや)さん
静岡県浜松市三ヶ日町のJAみっかび(三ヶ日町農業協同組合)で農業指導を行う。
三ヶ日町は日本でも有数の日照量を誇り、ブランドミカンである「三ヶ日みかん」を地域全体で生産している。JAみっかびが保有する三ヶ日町柑橘(かんきつ)選果場は柑橘選果施設として日本最大規模。また、ブランド牛の「みっかび牛」も生産されていて、牛の飼料にはミカンの残さを、ミカン畑には牛ふんの堆肥を使うといった循環型農業を実践している。
■和田牧場:和田正美(わだ・まさみ)さん
和田牧場の創業者で株式会社和田牧場取締役会長。和田牧場は1968(昭和43)年に創業、約350頭のみっかび牛などを肥育している。肉牛だけでなく、活性炭入りの牛ふん堆肥の製造販売も行う。
■鈴木達也(すずき・たつや)さん
JAみっかびの職員として、ブロック堆肥開発の中心となった。2020年1月に退職し現在は三ヶ日町で家業のミカン農家を継承。ブロック堆肥を活用しておいしい三ヶ日みかんをつくり続けている。
ブロック堆肥は、牛ふん堆肥と内城(うちしろ)菌(※)を混ぜて固めたものです。
※ 複合土壌菌の一種。土壌改良剤として活用されている。
円柱型で大きさは直径24センチ、高さ10センチ、重さは3キロほどで、これ1つで牛ふん堆肥約10リットル分に相当します。
JAみっかびでは、ミカンの木1本あたり3~4個ほどの施用を推奨しています。
ちだ
山本さん
ちだ
ブロック堆肥を使うことによるメリットってあるんですか?
・堆肥の流出が少なくなる
・堆肥散布の手間が少なくなる
ですね。
山本さん
ブロック堆肥のメリット1:堆肥流出量が減少する
完熟堆肥を散布するとき、堆肥が風でフワーッと飛んで行っちゃう経験ありますよね?
完熟堆肥は軽いので、風に飛ばされたり水で流されたりするということがあります。
山本さん
ブロック堆肥のメリット2:堆肥散布の手間が減少する
通常、ミカンの木に堆肥をまく場合は以下の手順になります。
- 軽トラなどで堆肥を運ぶ
- 散布場所近くに堆肥をおろし、堆肥の山を作る
- スコップで堆肥を一輪車に移す
- 散布する木の周辺まで一輪車で移動する
- 一輪車から堆肥をスコップでまく
ちだ
鈴木さん
ちだ
さらに、鈴木さんは通常の堆肥散布とブロック堆肥とでどの程度作業時間が違うかを確認したそうです。
結果、作業時間は半分ほどになりました。
置くだけなので、とても楽なんですよ。
鈴木さん
まとめると、ブロック堆肥とは
- 牛ふん堆肥と内城菌を固めたもの
-
そのメリットは
- 堆肥の流出が少ない
- 散布の手間も作業時間も減る
ということがわかりました。
では、そもそもなぜJAみっかびはブロック堆肥を作ったのでしょうか。
そこにはミカン生産の上で避けられない問題があったのです。
果樹の「表年・裏年」を解消するためにブロック堆肥が有効?
JAみっかびは「三ヶ日みかん」の大産地です。
しかし、JAや農家さんはミカン栽培でのある問題に悩まされていました。
それは生産量が多い年と少ない年が交互にやってくる「隔年結果」現象が年々強くなってきたことです。多い年を「表年(おもてどし)」、少ない年を「裏年(うらどし)」と呼んでいます。
この隔年結果はミカンなどの果樹に見られ、ジベレリンという植物ホルモンや異常気象、糖の貯蔵量の変化など、さまざまな原因があると考えられています。
この状況を改善するために、堆肥による土づくりが必要であると考え、堆肥の施用を促進しました。
山本さん
みっかびの地域は元々土地が痩せていて、水はけもいいため肥料持ちも良くないという特徴があったそうです。
それに加えてミカンの木の下草の繁茂を抑制するため、農家さんは除草剤を使わざるを得ません。
すると、土の表面はむき出しの状態になり、雨などで表層土と一緒に養分も流されてしまうことで土の養分はなかなか蓄積されませんでした。
加えて、スピードスプレーヤーという農薬散布機械を使うことで土壌が踏み固められ、根がじゅうぶんに張れていない可能性があることにも着目しました。
山本さん
ミカンの良好な生育、隔年結果を抑えるには土づくりが大事。
しかし、堆肥散布は大変。
よって、ブロック堆肥で作業負担を軽減する。
ということなんですね。
日本各地にあるミカンの産地。なぜみっかびが最初に開発?
ところで、日本にはミカンの産地がたくさんあるじゃないですか。
抱えている課題は似たものになりそうなんですが、なぜJAみっかびが初めてブロック堆肥を作ったのでしょう。
鈴木さんは当時ブロック堆肥生産にあたり、日本各地のミカン産地に似たような事例がないか問い合わせをしたそう。
鈴木さん
製品化がとても難しかったために、他のミカン産地でもなかなか実現しなかったんですね。
そんなブロック堆肥がどのように作られているのか興味がむんむんになったので、生産機械を見せてもらいました。
ブロック堆肥の生産は、その原料になる牛ふん堆肥を製造している和田牧場が行っています。
和田さん
ブロック堆肥の生産に着手したものの、ブロックを形成して固める方法や適切なサイズの割り出しなどに苦慮した和田さん。
最終的には「綿花から取り出したセルロース」と「ノリ」で成型し、6トンの圧力をかけてかつ200度の高温で表面を焼いて数日乾燥させる、という方法にたどり着いたそうです。
和田さん
従来使っていた完熟堆肥の製造・充填設備に、アタッチメント的に使えるように開発した設備を取り付けてブロック堆肥を作れるようにした和田さん。
ちなみに、機械の開発費用の総額は1000万円ほどだったそうです。
ブロック堆肥の効果と使用感
ミカンの隔年結果を抑えるために開発されたブロック堆肥は、通常の堆肥をまくことと比べてその作業量は半減するとのことでした。
では、実際の効果はどうなのでしょうか。
開発中にJAみっかびが行った実験では、ブロック堆肥を置かなかったところと比較して、置いたところではミカンの根の毛根が広く成長していたそうです。
何も置いていないところには虫がいませんが、ブロック堆肥の下にはミミズなどが確認できます。
微生物などが土中に繁殖しているのではと考えています。
鈴木さん
ブロック堆肥が製品化されたのは2019年の秋。
今後、ミカンの隔年結果にいい影響があるのか要注目ですね!
ブロック堆肥が「こたつにミカン」を守ってくれるぞ!
ちだは、去年畑の全面に堆肥を散布しました。
一輪車とスコップでまいたのですが、それはそれはしんどい作業でした。
果樹の堆肥散布は全面散布と違い木の周辺のみの散布になりますが、それでも作業の大変さは想像に難くありません。
日本の冬と言えばこたつにミカン!
日本で初めてJAみっかびで作られたブロック堆肥は、そんな日本の風物詩を守ってくれる強い味方になってくれるのかもしれません。