種のまき方で田植機を選ぶ。
稲の苗の栽培方法に、近頃、新しい波が出てきました。従来の敢行栽培より密集して種をまく「密苗:みつなえ」「密播苗:みっぱなえ」と言われている育苗の方法です。稲作の低コスト化と省力化が期待されています。ここでは「密苗・密播苗」に対応できる田植機をご紹介します。
「密」がコスト削減の秘密…「ぎっしり」
稲の種を苗にする育苗箱に、ぎっしり種を敷き詰めていっぱい苗をつくるのが「密苗」、もしくは「密播苗」です。種の量は慣行でまく2~2.5倍。栽培方法はこれまでとほぼ同じで、品種の違いも問いません。
この栽培技術のメリットは育苗箱の数を減少させられることです。たかが育苗箱が減ったくらいで、と思われるかもしれません。しかし、育苗箱の費用だけでなく、その裏には「培土」の量の削減があり、育苗ハウスを建てたり維持したりする費用が少なくてすむという大きな効果があるのです。
コストの面だけでなく、省力化も魅力。種まき作業や苗の運搬にかかる時間が大幅に減るので、身体的な負担が少なくなります。「密苗」「密播苗」は、低コスト・省力化で日本の稲作の方向を示す新しい栽培技術です。
「密」に応える田植機の秘密…「しっかり」
「密苗」を提唱しているのはヤンマーです。密植仕様の田植機はYR-Dシリーズ。5条植え、6条植え、7条植え、8条植えをラインアップしています。密集した苗を精密にかき取れるのは、爪やレール取り口の幅を狭くした工夫によるもの。これは爪が土に開けた穴が小さくなるという効果も生み、しっかりと植え付けることができます。
「密播苗」と呼んでいるのはイセキです。田植機に関しては、さなえNPシリーズ(5条植え、6条植え、7条植え、8条植え)に「横送り回数28回仕様」という設定があって、別売りの部品を注文して組み合わせることで密播苗を植え付けることができます。横送り28回仕様にすることによって、密集した苗の少量かき取りがしっかりできるようになったそうです。
いまのところ「ヤンマー」「イセキ」と選択肢は限られていますが、ほかのメーカーからも「密苗・密播苗」 仕様の田植機がすぐに登場するでしょう。いずれにしても「密苗・密播苗」からは目を離さないほうがよさそうです。
株の植え方で田植機を選ぶ。
ここからは、植え方についてです。「疎植」という言葉を知っている人もいると思います。株と株の間を広くする植え付け方です。
疎植に対応できる機種は増えており、疎植を目的に購入したり、買い換えたりする人が少なからずいることも事実です。これからは「疎植」を田植機選びのポイントにしてみてはいかがでしょう。
「疎」を疎んじてはいけない…「ゆったり」
疎植栽培とは、株間を慣行のおよそ2倍、26センチから30センチほどに広げて苗を植えること。植える苗の株数が少なくなるので、田植えをする時に使用する苗箱の数が減って、コスト削減と省力化が図れることがメリットです。
疎植は株間がゆったりしているので、植えた苗は太陽光をたっぷり浴びて、稲は力強く株張りし丈夫に育ちます。「株張り」とは「分蘖(ぶんけつ)」つまり枝分かれのことですが、疎植の場合、1株あたりの穂数が増えるので、収穫量は慣行栽培とほぼ同量。食味やタンパク含有率などの品質も変わることはないのです。しっかり根付くので、大風などによる倒伏に強いのも疎植の利点といえるでしょう。
疎植は単純に株間を広く田植えするだけ。管理方法と収穫量は慣行と同じなのに、低コスト化と省力化が簡単にできるのがこの疎植栽培。いまや日本全国に広がりつつあり、いつしか「疎植が慣行」と言われる日も来るかもしれません。
「疎植の時代」の田植機
最近の田植機は疎植の設定ができる機種が多くあります。イセキは、ポット田植機と歩行タイプを除いて「37株植標準装備」をうたい文句としているぐらいです。37株植えというのは、1坪(3.3×3.3メートル)に37株を植える設定ができるという意味で、株間を30センチにすることができます。株数と株間の関係は、おおむね以下のようになっています。
80株=14センチ、60株=18センチ、45株=24センチ。
ほかのメーカーも、疎植ができる田植機を多く販売していて、どちらかというといまや主流です。残念ながら、古い機種は対応していないケースが多いと思います。ただ、中古でも場合によっては、ギアの交換などで疎植ができる可能性もありますので、ここは農機具屋さんと要相談です。とりあえず「疎植」に注目してみてください。
「植え方」で田植機を選ぶ。疎植のできる田植機を選択するのは、これからのメインストリームになるはずです。ひょっとすると、田植機を選ぶ時「株間調整」という機能をあまり意識していなかった人もいるかもしれません。でも、おそらく、これからは「疎植の時代」。「田植機の選び方」というより「田植えの仕方」を考えてみてはいかがでしょう。
まとめ
種を「密」にまいて、苗は「疎」に植える。これからの田植えの方向性といえるでしょう。簡単にコストと労力を少なくすることが可能な栽培方法です。イセキでは「密播疎植栽培」という提案で、「密」と「疎」の両方を推し進めています。
ヤンマーもベクトルは同じ。日本の田植えは変わってきた、というより進化しています。今後の「田植機の選び方」は「密苗」と「疎植」がポイントになるはずです。
ぜひ「密」と「疎」を気にしながら田植機を見てください。もっと具体的な選び方は、前回の「絶対おさえておきたい基本の田植機の選び方」を参考にしてみてください。