【Q】農作業で「事故」が起きやすい要因は、どんな所にあるのでしょうか?
「農作業事故」の発生要因は、主に【人】・【物】・【環境】の3つに分類されています。
【人】については、農業に従事する方の7割が60歳以上という「高齢化」に起因しています。たとえ慣れた作業でも、加齢などで、体力(持久力・視力・聴力・平衡感覚・敏しょう性など)や判断力が鈍ったり、久しぶりに使う農機具の操作手順が曖昧になってしまったりすることで、事故が発生しやすくなります。
【物】とは、農機具や農業資材のことです。その安全対策については、メーカーでも特に力を入れているのですが、安全装置が導入された新製品が登場しても、高価で、耐用年数が長い農業機械の更新は、なかなか進みません。また、高機能化するトラクターやコンバインを、ベテランの「シニア世代」が、必ずしも使いこなせる訳ではありません。
作業する【環境】も重要なファクターです。日本の農地の6割以上が傾斜地にあり、雨が降れば、濡れて滑りやすくなったり、路肩が崩れてしまったりと、自然相手の農業では、事故が起きやすい条件に事欠きません。
「農作業事故」は、これら【人】・【物】・【環境】が複合的に作用し、発生するので対策をより難しくしています。
【Q】特に「トラクター」での事故が多いのは、なぜなのでしょうか?
トラクターは、農業機械の中でも稼働時間が長く、スピードが出るうえに重心が高いのでバランスを崩しやすく、「転倒」や「転落」といった事故に注意が必要です。
特に圃場の出入口など、傾斜している場所では、事故が起きやすくなります。その中でも圃場から出るときの事故が多く、坂道が斜めに傾いている場合は、片側の車輪が浮き上がってしまい転倒につながります。また、片ブレーキの解除(ブレーキ連結)を忘れてブレーキを踏んでしまうと、4輪にブレーキが効かず、大きくバランスを崩すので、確認が重要です。圃場内の作業が終わり次第、片ブレーキを解除するようにしましょう。
トラクターは、重い作業機を機体後部に取り付けるので、圃場の凹凸や路面状況によって、前輪が浮きやすくなり、転倒したりすることがあります。運転席から投げ出されないように、必ずシートベルトを装着しましょう。
トラクターで行う仕事は一人作業になりやすいため、事故が起こっても発見が遅れるケースがあるようです。いざという時に連絡がとれるように、携帯電話を携行しておきましょう。
他にも、作業機の取り付け時に、手を挟んでしまったり、急に動き出して巻き込まれる事故も発生しています。作業機の脱着は、エンジンの停止を確認して作業すること。エンジンをかけたままでないと作業ができない場合は、十分に注意しましょう。
また、トラクターを圃場に移動するために一般道を通行する際、車に追突されてしまったり、道路の端に寄りすぎて道路脇に転落してしまうといったケースもあります。トラクターは、原付バイクよりもスピードが遅いので、目の前を走っていることが分かっていても、後ろに付いている作業機などで距離感が掴めず、追突してしまうことがあります。「低速車マーク」をつけて、周囲に注意喚起を促しながら走行することが望ましいですね。
【Q】「田植機」や「コンバイン」での作業時は、どのような事故が起こりやすいのでしょうか?
田植機は、水を引いた田んぼで操作するため、足場が滑りやすく、転倒事故が発生しやすくなります。
圃場の出入口などの傾斜がある場所は、もちろん田植機でも「転倒」や「転落」に注意が必要です。出入口に対して真っすぐに出入りし、バランスを崩さないようにゆっくりと行いましょう。また、部分的に手作業で田植えを行う場合は、機械に巻き込まれることがないよう、必ずエンジンを止めましょう。
コンバインでは、回転部や駆動部に身体を挟まれたり、衣服が巻き込まれる事故が後を絶ちません。
これは農機具全般に言えることですが、高速で回転するものは、巻き込み事故が起きやすく、特に注意が必要です。また、機種によっては運転席から後方の様子が見えづらいため、人を引いてしまう事故も報告されています。
【Q】「事故を予防する」ためのポイントがあれば、教えてください
農機具を久しぶりに動かす場合は、圃場に出る前に確認作業を行うことで、事故を未然に防ぐことができます。
トラクター・田植機・コンバインなどの農業機械の場合、「ブレーキがしっかりと機能しているか」や「ブレーキペダルの遊びの具合」、「タイヤの空気圧」、「作業機の動作」、「エンジンオイル量」などを確認しましょう。定期的にメーカー点検に出すのもお勧めです。
また、農作業を安全に行うためには「情報共有」や「ルール作り」が重要です。家族経営や兼業で営農されている方でも、事故一歩手前の「ヒヤリハット事例」を作業者間で共有し、安全への意識を高めることが「事故を予防する」ための第一歩。
「エンジンをかける際は、機械のまわりを一周し、周囲に人や障害物がないかを確かめた上でエンジンをかける」、「必要な作業が終わったら片ブレーキを解除する」、「取り扱い説明書はいつでも確認できるようにトラクターに置いておく」など、ルール作りも大切です。
とにかく、普段から「安全に農作業を行うことを心がける」ことが一番大切です。「自分は事故を起こさない」、「いつもの作業だから…、まだまだ元気だから…大丈夫」などと思わずに、安全意識を高めていきましょう。
<取材協力>
三菱マヒンドラ農機株式会社