地元産が貧弱な季節! さあ、どうする?
地産地消を目指した事業は、すごく熱い思いで作られていることが多いです。地元を愛している、地元の農業を盛り上げたい、新鮮で安全なものを届けたい……。
しかし、そうした熱い思いは事業のエンジンとなりますが、同時に盲目にもさせるかもしれません。
筆者は東京都西部で農産物の直売所を経営していますが、はじめはそうした落とし穴にはまりました。自分の店の強みは、「地元産にこだわっていることだ」と思っていました。
しかし、端境期(用語メモ1)のある日、店頭に小松菜と里芋しかなかったときに、「自分がひとりの消費者だったら絶対にこの店に来ないな」とふと気づいてしまったのです。
地元の農産物は新鮮だし、生産者の顔は分かるし、いいことはたくさんあります。でもあまりにも旬が短く、あまりにも不便でした。
小松菜と里芋だけのために通ってくれる消費者はかなりまれです。消費者が来てくれなくては事業が成り立ちません。
当社は行政の補助金(用語メモ2)を活用していなかったので、「県外産のものも店頭に並べる」という方向にすぐにかじを切ることができました。
この方針転換は、むしろ逆の効果を生みました。地元産の小松菜と里芋が以前よりも多く売れるようになったのです。他地域の野菜とのカニバリゼーション(競合)もありますが、それ以上に利便性が上がったことで来店する消費者が増えたためです。
ケースバイケースですが、地産地消の商品にこだわりすぎず他県産も仕入れる、いわばハイブリッド型の取り組みをしていくことが、持続可能な事業として成立させるために必要なケースも多いと思います。
地産地消事業の戦略としては、端境期(品目数や収穫量の少ない時期)は赤字になってもとにかく耐え、品目や量が多い時期に儲けるという方法もある。しかし品目や量が多い時期に儲けるという戦略はリスキーだ。稼ぐべき時期に何かしらの事故、天候不順、人手の不足などがあって売り上げを最大化できないと一気に窮してしまうからである。持続可能な事業にするには、年間通して稼げることがのぞましい。
多くの地産地消事業は、行政の補助金を活用しているために、地場産品以外のものを売ることができなかったりためらわれたりするケースがある。しかし、それでは消費者や飲食店にとって不便なものになり、かえって支持が広がらなくなってしまう。
おまかせパックのマーケットは狭い
供給量が安定しない地産地消事業においてよく取られる作戦は、販売側が品目を適当に組み合わせる「おまかせパック」です。かなり昔から、この方法は有機農業の農家を応援する方法として採用されてきました。
しかし、この方法では、消費者からすれば必要のないものも入りますし、ひとつの種類を多く欲しいときには困ってしまいます。
「地産地消や有機という理念に賛同して、供給が安定しなくても買い続けてくれる人や飲食店もいる」という反論もあると思います。
しかし、そのマーケットがかなり小さいことは明らかです。
そもそも、現代における食べ物というものはかなり嗜好(しこう)的な要素が強く、好き嫌いがあります。
品物を選ぶこと自体を楽しみにしている消費者も多いでしょう。「新鮮なら何でもいいよ」、というシチュエーションはさほど多くないのです。
また、飲食店や施設内の給食などのBtoB(法人同士の取引)のマーケットも大きいことを見逃してはいけません。小規模な飲食店は別として、BtoBの取引では品切れが許されず、また特定の品目を長い期間にわたって供給することが求められます。
地産地消との相性は最悪と言わざるをえません。
中央卸売市場経由の地元野菜
そのような安定供給が求められるBtoBマーケットの真ん中で、地産地消に取り組んでいる企業があります。病院や福祉施設の食堂や飲食店に地元横浜の野菜を納入している卸売企業、藤岡食品です。
藤岡食品の社長である藤岡輝好(ふじおか・てるよし)さんは、横浜市に本社を置く種苗会社、サカタのタネで研修生をしていたときに、とれたての露地野菜のおいしさに感銘を受け、それを多くの市民に広げるため地産地消を展開してきました。
藤岡食品の特徴は、横浜市の中央卸売市場から地元野菜を仕入れていることです。主に年間通して小松菜を、春と冬にキャベツを仕入れます。
中央卸売市場経由で地元の野菜を仕入れていること自体が、地産地消の取り組みとしてはかなり珍しいといえるでしょう。遠い産地ならともかく、生産者は地元の農家なのですから、直接やり取りした方が、中間マージンもなく稼げるのではないか、と考えてしまいます。
しかし、藤岡食品は、仲卸を含む卸売市場の機能(用語メモ3)を活用することで、病院や福祉施設の食堂への地元野菜の納入を可能にしています。
こうした施設内の食堂や給食の場合、納入企業は欠品が絶対に許されません。食堂や給食はメニューや調理作業、材料の原価が固定的になっているので、「今日、キャベツはとれなかったけど、ほうれん草がとれたから使ってよ」というわけにはいかないのです。
藤岡食品は、仲卸に野菜を発注するとき、卸売市場に納入している地元の生産者を指名しておきます。これは藤岡さんが腕が良いと認めた生産者です。
しかし、生産者を指定するということは、その生産者や畑に何かしらの事情があった場合、品物が入ってこないというリスクと隣り合わせです。藤岡さんは露地野菜にこだわっているので、なおさら欠品する可能性が高いわけです。その点、仕入れ先は中央卸売市場を拠点とする仲卸なので、苦もなく別産地の品物を用意してもらうことができるのです。
つまり、基本的には横浜の指定生産者の野菜だが、それがなかった場合には他の産地の野菜を納入してもらう──このハイブリッド型地産地消が藤岡食品のスタンスです。
ちなみに、藤岡食品では卸売市場の卸売業者(荷受け)から、地元野菜を仕入れていたときもありました。しかし、卸売業者(荷受け)は小回りがきかないため、地元産が欠品したら、単に納入がなくなる形だったそうです。
多くの地産地消プロジェクトにみられる地元野菜だけを扱うという姿勢では、施設内食堂や給食といったマーケットを相手にすることができません。そのように考えると、藤岡食品は地元の野菜を届けることに熱い思いを持ちながらも、ユーザーの期待にもしっかり応えることで、結果として横浜の農産物をより多く横浜市民に届けることに成功しています。
藤岡さんは横浜の農業について、こう語ります。
「横浜のような都市型の農業は、市民の理解がないと続けていくことができない。地元の野菜のおいしさをもっと広めていきたいです」
広域から品物を集める卸売市場(青果市場)は地産地消とは無縁と思われがちだが、地元生産者にとってメリットも多い。ひとつは決済の面でたいへん便利ということである。代金回収を心配する必要もないし、何枚も請求書を作る必要もない。また、市場であれば生産者の都合にあわせて持っていく量も変更することができる。
藤岡食品のような買い手が地元にあるなら、卸売市場は地産地消のプラットフォームとして、もっと活用されるべきかもしれない。