「ブラックマルシェ」に気をつけよう! 地域のイベントをいまこそ見直す

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「ブラックマルシェ」に気をつけよう! 地域のイベントをいまこそ見直す

連載企画:「なんとなく地産地消」からの卒業

「ブラックマルシェ」に気をつけよう! 地域のイベントをいまこそ見直す
最終更新日:2020年08月19日

東京都内で直売所や飲食店を展開する筆者が令和時代の地産地消を掘り下げる連載。
地産地消の理念は素晴らしいが、活動は停滞しがち……。地産地消を進めるうえでよく登場する施策、「マルシェ」や「青空市」。消費者との交流は大事だが、準備の手間やリスクは大きい。

「雨リスク」と「晴れリスク」

「準備してきた今週末のイベント、晴れるかなあ……」
そういう思いで何度も天気予報をチェックする。そんな経験は農業者や自治体の職員であれば、一度や二度はあるのではないでしょうか。

地産地消を進めていこうとすると、まず挙がるアイデアにマルシェの開催があります。
街によって「ファーマーズマーケット」「青空市」「朝市」などネーミングはいろいろですが、本稿で話題にするのは、スポット(その日限り)の屋外での農産物直販のことです。

天井がない、屋外でのイベントはそれはそれは気持ちのよいものです。フラッグがはためき、飲食の屋台なんかも出て、地元市民も大いに楽しむことができます。
市場流通に乗らないような多様な農産物が並ぶので、地元の農業の多様性を感じることもできます。
なにより、消費者と直接交流できることは、農業者にとってやりがいにつながることでしょう。

一方で、天候という大きなリスクを抱えているのがマルシェです。
雨が降ればこれまでの準備がすべて水の泡。さらに準備した農産物の売り先にも困るかもしれません。
当社でも青空市をやってきましたが、何度雨に泣かされたことか……。

また、「雨リスク」だけでなく、「晴れリスク」があることは見逃されがちです。
マルシェにおける「晴れリスク」とは、イベント当日は晴れたけれども、前後の日の天候が悪かったために、本来であれば畑に出て農作業をすべき貴重な日がイベントに当たってしまうということです。
農業経営のうえでは、時季によりますが、晴れた日に農作業を行えるか否かはたいへん重要な問題です。

そうしたリスクと、リスクはあれど市民と農業の交流の場をつくる意義と、しっかり比較して企画したいところです。雨が少ない季節でないかぎり、かなり慎重に考えるべきだと思います。

農業者とは一企業の社長である

なぜマルシェの開催に慎重さが必要なのか。それは、農業者にとって時間は貴重な資源だからです。
農業者は、お店や会社にたとえてみれば、社長であり工場長です。そうした農業者が自ら実行委員となり、汗をかいて準備するということは、相当なコストと考えるべきです。社長の時給をいくらと考えるか、ということです。
念のため補足すると、マルシェなどのイベントの開催に意義がないと主張したいのではありません。なるべくリスクやコストの低い方法で行うべきだということです。
たとえば、実行委員が集まる会議の人数が多すぎるということはないでしょうか。
今ではSNSやチャットツールなどの連絡手段が発達していますので、少人数の幹部で進めていき、必要なことは電子的に連絡する、そういう方法も検討できるでしょう。
仮に、社長たる農家の時給を3000円として計算してみましょう。

この例では、合計50時間。時給をかけると15万円にもなります。
イベント当日の販売から得られる粗利益が、農業者一人当たりで15万円もあるマルシェはまずないでしょう。まして、それが雨で流れたとしたら、泣くに泣けません。

もちろん市民との交流が目的なので、マルシェで儲けを出す必要はありません。ただ、あまりに負担が大きすぎ、農業経営そのものに害が出てきてしまっては本末転倒というものです。そうした「ブラックマルシェ」(用語メモ1)とでもいうべき状況を作らないようにしたいものです。

ちなみに、自治体が主導しているマルシェもありますが、自治体にとって地産地消を推進しているというポーズにしかなっていないケースもあります。「アリバイ型マルシェ」というわけです。本来、1日のマルシェで売れる量は大したことがなく、それだけでは地産地消が進んでいるとはいえません。

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用語メモ1:ブラックマルシェ

実行委員の主要メンバーが農業者ではなく、自治体職員や農協職員だったらよいという意見もあるだろう。しかし、自治体や農協の財政も潤沢ではないなかで、職員をどんどん増やせる状況にはない。ましてマルシェが公共的な性格を帯びると、ガードマンを雇ったり、市民からの問い合わせに丁寧に対応するなどの手間が増加、職員が「イベント疲れ」になって本来の業務がおろそかになりかねない。

より効率的な運営のために

こうした地産地消のためのマルシェや青空市のリスクやコストを低減するために、いくつかの方策を提案したいと思います。

定期開催にする

ヨーロッパやニューヨークのマルシェは、毎週決まった曜日に行われています。日本では高知市の「日曜市」が有名ですね。
もちろん、毎週行うことはたいへんなので、それなりの覚悟が必要となります。ただ、単発(スポット)で行うことのデメリットは、当日の集客(用語メモ2)が難しいうえに予測不能なため広告宣伝のコストや手間が膨大にかかることです。その点、定期的に開催し、市民に定着してしまえば、広告宣伝費はかかりません。集客数の計算もしやすくなります。ただし、農業者自身が毎週出るのはコストが大きいので、輪番制などにする必要はあるでしょう。

用語メモ2:集客

単発で開催するイベントは、どれだけの集客ができるかを予測することが難しい。したがって広告宣伝費が膨らみがちなだけではなく、商品(農産物)をどれだけ用意すべきかという計画が立てられない。その結果、商品が多く残ってしまったり、逆にすぐに売り切れてしまい、来場者をがっかりさせるということが起こりがちだ。残ってしまったら買い取ってくれるよう、地元企業や飲食店とあらかじめ提携しておくといった対策も必要だろう。

マニュアルを整備する

マルシェを開催するとき、ただ開催して終わりにするのではなく、ノウハウをしっかり残すことが翌年の効率的運営につながります。
実行委員は、「テントをレンタルしてくれる業者ってどこがいいの?」といった地味な確認に時間を取られるものです。準備の手順やお付き合いの業者をしっかりマニュアルとして残してあれば、一定の効率化ができます。

ほかのイベントと共同開催にする

地域には自治体主催や商工団体主催などいろいろなイベントがあります。そうしたイベントと共同開催、同時開催にすることによって、広告宣伝費の削減ができ、そのうえ集客に相乗効果が見込めます。農業に関心のない人も来ることになるので、市民との交流という本来の目的もかないます。

民間企業や商業施設と連携する

最近では野菜の販売を商業施設やイベントの集客の目玉にしたいと思う企業が増えています。住宅展示場で行うといったケースも。そのように施設や企業とタイアップすれば、事前準備や宣伝をお任せすることができ、農業者は当日の販売にだけ集中することができます。すべてを自前でやる必要はありません。

ここまで、マルシェや青空市の効率的運営を考えてきました。
ただ、そのイベントが昔からの地域の慣習になっている場合も多いでしょう。若手の農業者からはなかなかイベント内容を変えたり中止したりすることを言い出しにくいものです。時代は変化するので、イベントの内容も果敢に見直していくべきなのですが……。
もし実行委員会の初回会合で、「ま、今年も前年を踏襲して……」というようなセリフで始まるようだと黄色信号。本当にそのマルシェ、青空市が地域にとって必要なものなのか、議論が必要かもしれません。
今年は新型コロナウイルスの影響で、中止になっているマルシェは多いはずです。残念なことではありますが、これをいい機会として、地域にとってよりよい農業振興や市民との交流の形はないのか、見直すタイミングとしてはどうでしょうか。同じ額のコストや手間をかけるにしても、もっとよい方法があるかもしれません。

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