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プロの視点で見る最初に育てる野菜おすすめ5選【ゼロからはじめる独立農家#10】

西田 栄喜

ライター:

連載企画:ゼロからはじめる独立農家

プロの視点で見る最初に育てる野菜おすすめ5選【ゼロからはじめる独立農家#10】

農業をゼロから始めるということは文字通り地盤がないということ。その点ではスタートのハードルは高いのですが、裏を返すと農地や育てる作物を選べるという強さにもなります。漠然としてではなく、どの視点でどんな野菜を育てるか、起農の成功はそこにかかってきます。

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小さい農家が狙うところ

農家になるには「百姓(100の仕事ができる)を目指すこと」「農家は農産物を育てて売るという固定観念に縛られないことが大切」とこれまで提言してきましたが、それもベースに農産物があってこそ。何を育てるかはとても重要です。

我が「菜園生活 風来(ふうらい)」に視察に来た人に聞くと、育てたい野菜で一番人気があるのがトマトです。その気持ちはよくわかります。トマトは野菜界のスターでもありますし、単価が比較的高いので当たれば確かに大きい。ただ育てるのが難しく販売できるくらいの品質、量を揃えるまでが大変。そしてライバルもたくさんいて思った価格で売るのも難しく、何よりビニールハウス、ガラスハウスといった施設が必要になりますので初期投資がかかります。

そういった点から、トマトは新規参入するにはリスクの高い野菜と言えます。もちろん育てたい野菜があるというのはとても良いこと。漠然と農家になりたいというより、目指すものがあると技術の習得も早くなるからです。ただゼロからとなるとリスクをいかに分散させるかというのが大切になってきます。

四季おりおりの野菜セット。ここまで揃えるのに何年もかかりました

そして大切なのは販売方法です。小さい農業の場合と大規模農家では販売方法が変わってきますし、それによって育てる野菜も変わってきます。いわゆる市場出荷では、農林水産省の青果物経費調査にて青果物(主要16品)の小売価格に占める流通経費は52.5%。生産者受取価格の割合は47.5%になります(2017年調べ)。

そこから肥料、機械、苗、農薬、人件費、箱代などの原価がかかりますので、販売価格に対して2割から3割が農家の本当の手取りとされています。そうなると物量がないと利益があがりません。小さい農業の考え方は、その流通経費をできるだけかけないことで1つあたりの利益率をあげていこうというのが基本的です。つまり直売ありきで、どんな野菜を育てるかを決めるときもそこが大切になってきます。

保守的な日本人~根強い人気のスタンダード野菜~

風来では野菜はほぼ直売。リスクの分散という意味合いで最初から少量多品種栽培で、多い時には年間100種類ほど育てたこともありました。でも手が回らない、売れ残りが出る野菜もありロスが出るということで、現在は年間50種類ほどに落ち着いています。

日本の外食産業はフレンチ、イタリアン、エスニックなど世界でも類を見ないぐらい多国籍な食文化を受け入れる面もあります。しかし野菜セットを販売していく中で、お客様の反応から、自宅でつくる食に対してはかなり保守的だと実感しています。最初の頃は特色を出そうと珍しい野菜を入れていましたが、反応がイマイチ。今の野菜セットには、変わり野菜(珍しい野菜)といってもイタリアントマトや白ナスなど、少し想像すると料理ができるような野菜をお楽しみとして入れる程度になりました。

変わり野菜の説明。野菜セットとともに入れる手づくりパンフ

スタンダードはやはり強い、そして普段の野菜と食べ比べて味の違いを感じてもらうことが直売していく上で有利だということが起農して10年ぐらいでようやく分かってきました。新鮮さでは直売に勝るものはありませんしね。ちなみにここでいうスタンダード野菜とは先の農林水産省の青果物経費調査のところでも出てきた主要16品のことになります。

内訳はダイコン 、ニンジン 、白菜、キャベツ、ホウレンソウ、ネギ、ナス、トマト、キュウリ、ピーマン、サトイモ、タマネギ、レタス、ばれいしょ(ジャガイモ)の主要野菜14品目プラス、ミカン、リンゴの代表的果物2品になります。

主要野菜14品は、国民生活に対する影響が大きいという理由で、毎年これらを作ってくれる規模の大きな産地を国が指定している「指定野菜」でもあり、それだけ需要の大きな野菜といえます。

この中で「ゼロから農家」に向けて私が栽培をおすすめする野菜は、タマネギ、ばれいしょ、ニンジン、ダイコン(冬ダイコン)、ネギ の5品目になります。

5つの野菜のおすすめポイント

基本的に野菜は新鮮なものが良しとされています。つまり時間がたてばたつほど価値が落ちていきます。小松菜、ホウレンソウなどの葉野菜、またトマトを筆頭にしたキュウリ、ナスなどの果菜類はまさに鮮度が命。

農家の永遠のテーマで「売り先を探すのが先か?」「栽培技術を磨くのが先か?」というのがあります。特に栽培初期は収量が安定しないので栽培前に売り先を探すのはプレッシャーになりますし、逆に収穫してから売り先を探すのだと遅すぎます。私も目の前の野菜が悪くなる前にと、あわてて直売所に持っていき安売りしてしまったことが何度もあります。

その点、先にあげた5つの野菜の共通点としてあるのは、保存ができる、またネギのように畑に置いておくことができるので成長してから出荷までの期間を長くとれるということです。育った野菜を焦ることなく売ることができるというのは精神的にとても助かります。またスタンダード野菜の中でも特に「カレー野菜」といわれるタマネギ、ばれいしょ、ニンジンは、給食センターや飲食店でも重宝されるので売り先に困ることはありません。

タマネギ干しの風景。これで8カ月もちます

もうひとつの共通点は栽培しやすいということ。定植や種まき、芽出しこそ最初手間はかかりますが、そのあとの管理は葉野菜や果菜類と比べ物にならないぐらい楽で、無農薬でも比較的栽培しやすいので差別化をはかることができます。

新規就農だと他に仕事をしながらということもあるでしょうし、住まいと畑が離れているということもあるでしょう。その時に手がかからないというのは非常に助かります。また初期のころは慣れない手際で農地を持て余し気味。そんな時にこれらの野菜を多めに育てておいて畑を遊ばせないようにしておくと周囲からの見た目も良く、農産物を栽培することで土ができていきます。

同じ理由でサツマイモやカボチャもおすすめします。こういうリスクの低い野菜を最初はメインで育てながら、少しづつ他の野菜を加えていくのが無理のない方法だと思います(このこと、過去の自分に伝えてあげたかった……)。

もちろん今あげた野菜に限ることはないですが、日持ちする、育てやすいというのを念頭に置きながら育てる野菜を選定していく。そういった中で自分に合った野菜が見つかってくれば、その野菜を自身の看板野菜にしていくというのがいいでしょう。くれぐれも最初から何十品目育てるという無理をしないこと。農業、農は一生つきあえるもの。短距離走ではなくマラソンととらえて長い目で見ることが大切です。

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