なぜ世界観の伝わる空間が大切なのか
自分たちが実現させたい世界観=ブランドコンセプトを表現するために、空間デザインを考えることは重要です。ロゴ、看板、印刷物、お土産など、すべてのデザインを一貫性のあるものにすることで、世界観のある空間が生まれます。
世界観のある空間は、お客様の居心地の良さを生み、満足度を高めます(もちろん自分たちも仕事をしていて気持ちが良く、モチベーションアップにもつながります)。また、私たちは「いちごがり写真館」とうたうだけあり、「どこで写真を撮っても絵になる空間」を目指す必要がありました。
実践! 世界観をつくる工夫7つ
1. デザインの統一
ロゴはすべてのスタート地点
ロゴは、自分たちのブランドコンセプトを図案化したもの。もはや、自分たちのアイデンティティーとなり、すべてのデザインの起点となります。当農園では私がデザイナーということもあり、私が作ることにしました。ちなみに、ロゴに込められたキーワードは「家族」「思い出の重なりと広がり」「王冠(クラウン)」「山(夢の移転先。実現間近!)」です。
テーマカラーを決める
ロゴと同時に考えたのがテーマカラー。うちはマイナビ農業に連載中の4コマ漫画をパステルカラーで描いていることもあり、今まではパステルカラーを使用していましたが、農園の空間のことも考え、「赤」と「白」にしました。
(ちなみに赤色は、私が「茜(あかね)」という名前なので、茜色です。)
制作物のフォントは統一する
看板、チラシ、広告、パンフレット、ステッカーなど、観光農園って、意外と制作物が多いもの。その中でデザインの一貫性を保つ大黒柱が「使用するフォント(書体)の統一」です。ちなみにこのフォントはロゴに使用したもので、有料で購入しました。
2. 内装設計はプロに任せろ
当初、農園に関わるデザインはすべて私が担当する予定でしたが、どんなものを買い揃えたら統一感のある空間になるかイメージが湧かず、地元の建築デザイン事務所に相談に行きました。
事務所によって金額はさまざまだと思いますが、私たちは予算の都合上、「空間デザイン監修、コンセプトメイキング」をお願いしました。提案されたコンセプトは「ガーデンテラス」。さすがプロ、自分たちの知らない素材や空間の使い方をさまざまな角度から提案してくれました。

画像提供:パークデザイン株式会社
制作は自分たちで
デザイン事務所にその都度アドバイスをもらいながら、現場の監督は私が担当し、DIYしました。制作期間は2カ月程。
一番重視したのは「一歩足を踏み入れたときに感動するか」ということ。エントランスを広くとり、コンクリート平板を敷き詰めることで、畑っぽさをなくしました。
椅子になる丸太は、伐採している丸太の切れ端を譲ってもらい、チェーンソーで切り、表面を磨いて制作。机は脚だけ購入し、天板は古材を使用。また、受付には桐の古だんすを購入しました。じょうろや掃除道具、ティッシュ、ゴミ箱、レジなど、農園に置く小物類は赤と白(+灰色、黒)で統一し、世界観をくずさないように心がけました。
3. おもてなしは清潔感に表れる
「おもてなしの心から清潔感が生まれる」を信条に、できるかぎりのキレイさを心がけました。
観光農園全体で、一番お金をかけたのが3部屋の洋式トイレ。地元の鋼材所にお願いし、特注で作ってもらいました。トイレを使用したお客様からは「想像以上にキレイだった」「トイレまで可愛い」という声をもらうことも。また、意外と評判が良かったのが、手洗い用の自動ソープディスペンサー。手をかざすだけで1回分の石けんがでる泡タイプのもので、たった2000円程の品ですが、いい仕事をしてくれました。
また、「清潔感を感じるのはどんな空間か」を考えた結果、「畑らしさをなくすこと=土面積を減らす」という考えに行き着きました。ハウス内は白い防草シートで地面を覆い、駐車場からイチゴ狩りのハウスまでの屋外には砂利を敷き詰めました。
4. 注意書きをしない
「走らないでください」
「イチゴの実は最後まで食べてください」
「大きな荷物は持ち込まないでください」
という注意書きの看板は、観光農園ではよく見かけますよね。ただ、そのような「お願い」というのは、お客様から見て「気持ちいい」ものではありません。
私たちは注意書きはせず、農園のサービスシステムを整えることで注意をしなくてもいい環境にしました。
走らせないために
わんぱくな少年少女は、両親のそばでは意外と走りません。走ったとしても両親が注意してくれます。私たちは家族連れをターゲットにしたこともあり、自然とマナーを守ってくれる人がほとんどでした。
イチゴの実を最後まで食べてもらうために
私たちはヘタ入れを工夫しました。一般的には透明の大きめのパックを片手にイチゴ狩りを楽しみますが、紙コップを首にぶら下げて、その中にヘタをいれてもらいました。
紙コップが小さいので食べ残しがしづらく、また両手でイチゴ狩りが楽しめると評判でした。
大きな荷物を持ち込ませないために
テーブル席を9組用意し、気軽に荷物やコートを置いてイチゴ狩りが楽しめるようにしました。
5. 品種カードは会話づくりの立役者
私たちの農園ではイチゴを13品種食べ比べることができ、イチゴを擬人化したイラストで品種カードを作りました。このカードがあることで会話が生まれ、ワクワクする空間が生まれました。
6. 摘み取り袋は機能性×ファッション性
イチゴの摘み取りといえば、箱での持ち帰りが主流。しかし、機能性とファッション性を重視し、透明の手提げバッグに深めのパックを入れました。
7. 世界観=人柄。自分の言葉で伝える
世界観は、結局は人柄。どんなに空間を美しくきれいに見せても、農園の空気をつくるのは自分たちであり、自然と人柄がにじみでるもの。その中でも、自分たちの抱えているメッセージを直接言葉で伝えることが、一番伝わるスピードが速いと感じています。
そこで私たちはイチゴ狩りを始める前に、自分たちの紹介、おいしいイチゴの見分け方や、写真サービスの内容をパフォーマンスを交えて伝えます。たった3分ほどではありますが、この1クッションがお客様との距離を縮め、自分たちの世界観を共有するひとつの仕掛けになります。
世界観とは、ブランドコンセプトを表現したもので、その農園の空気感をつくるもの。決めるまでは時間がかかりますが、一度決まってしまえば、それを軸にすべての行動が決まるので、迷いなく動けるようになります。専門知識を要する部分も多いので、予算の許す限り、プロに相談することもおすすめします。