サービスを届けたい相手に合った広報戦略を考える
1. 自分の農園が選ばれるまでを因数分解する
私たちのイチゴ狩りは13品種食べ放題で1人2500円と、イチゴ狩り価格の県平均より1000円ほど高い県内最高値で料金設定し、さらに完全予約制をとることにしました。このように来園のハードルを高くした理由は、単にイチゴ食べ放題だけでなく、写真撮影や皿回し体験など、イチゴ狩り以外の「思い出づくりのためのサービス」に価値を置いているから。それ故、私たちの農園が選ばれるには、「①当農園のサービスを理解し②他のイチゴ狩り観光農園と比較し最高値の理由に納得した上で③決まった時間に来園してもらう」必要がありました。つまり、チラシやPOPを見ただけで、他園と比較せずに来る人ではなく、Web上で他の農園と比較した上で、当農園のサービスを気に入って来園してほしいと考えました。
2. 最適な広報戦略を考える
では、一般的な広報の方法にはどんなものがあるでしょうか。
- チラシ配布
- ポスター掲示
- 道路看板設置
- メディア出演
- Web広告
- SNS
- 遊び体験予約サービスのサイト掲載など
この中で、私たちが求めている「他農園と比較できる」広報の方法は「Web広告、SNS、遊び体験予約サービス」です。
したがって、私たちは一般的にやりがちなチラシを配らず、ポスターを張らず、道路看板を設置しませんでした。これは、この時点で片道30分圏内のお客様には広報しないという決断でもありました。ただ、この広報の方法のおかげで、500メートル圏内にある老舗イチゴ狩り農園への配慮と、競合との棲み分けをすることができ、結果的にはこれが最適な方法でした。
以上の理由から、私たちはインターネットとメディアを使った広報戦略に舵(かじ)を切りました。
実践! 5つの広報戦略
1. Google マイビジネスと自社サイト
まず、基本の当農園ホームページを準備しました。意識したのは「農園サービスの分かりやすさ」と「予約のしやすさ」。ホームページを見ただけでイチゴ狩り写真館のサービスをイメージしやすいようにし、お客様の疑問が残らないように詳細を書きました。また、ホームページ上で予約ができるようにすることで、電話での問い合わせや予約対応のコストを削減できました(ちなみに、私たちは利用無料のAirリザーブという予約管理システムのサービスを利用しました)。
また、Google マイビジネスという無料ツールを利用し、インターネットで検索したお客様が農園の情報を得やすくなるようにしました。情報を登録しておくと、Googleで検索したとき検索結果画面の右側(スマホ表示では上部)に事業者の基本情報・写真・地図などが表示されます。ここに最新の情報を掲載し、ホームページでの予約につながるようにしました。
2. 遊び体験予約サービス
私たちは「じゃらんnet 遊び・体験予約サービス」というサイトに登録し、自社のホームページとこのサービスの2本柱で予約を管理しました。
このサービスでは、イチゴ狩り特集なども組まれ、他のイチゴ狩り観光農園との比較もしやすく、当農園にはなくてはならない存在でした。私たちはこのシステムを駆使し、サイト訪問者が予約する確率を表すCVR(※)はサービス全体の平均が0.1%のところ、0.8%までのびました。さらに、ありがたいことに初年度では口コミ評価で九州No.1になり、異例の早さで「王道マーク」という定番スポットの認証をゲットできました。では、私たちが実践した工夫を紹介します。
※ コンバージョンレート。Webサイトを訪れた人のうち、そのサイトの目標達成となる行動を取った人の割合を表す。この場合は、サイトを訪れた人が予約する確率。
工夫1:サービス手数料を考慮した料金設定
このサービスで予約が成立すると、手数料をじゃらん net遊び・体験予約サービス側に支払うことになります。当農園では、自社ホームページ経由での予約料金に手数料分を上乗せして設定しました。一見、お客様が損をしてしまうので、遊び体験サービスのサイトは値上げしない方がよいかとも思いましたが、蓋(ふた)を開けてみると、サイトで獲得したポイントやクーポンを利用するお客様が多く、6割以上の人が遊び体験予約サイト経由で来園しました。
工夫2:写真の質
「いちごがり写真館」と名乗るだけあり、写真のクオリティーにはこだわりました。自分たちらしさの伝わる写真を選び、1枚目のアイキャッチ画像は文字をコラージュして、他の農園より目立つようにしました。
また、プレオープン時〜初月に掲載用の写真を多めに撮影し、お客様の楽しんでいる様子が伝わるものを選び、色合いは統一しました。
工夫3:具体的・短いキャッチコピー
記載する文言も工夫次第でCVRは上がります。
テクニック的な話になりますが、一番目立つタイトル部分は「ユーザーが魅力に思う具体的なキーワードや数字」を入れるといいでしょう。私たちは「13品種★イチゴ食べ放題!カメラマンによる写真撮影・データプレゼント◎皿回し体験も」と記載しました。
また、一覧画面に掲載される農園の説明は、クリックする前のページには2行のみしか表示されません。当農園はクリックしたくなる2行にこだわり、リズムよく読みやすくしました。
工夫4:魅力的なキャッチコピーに対する納得できる証拠
さて、工夫3で「具体的・短いキャッチコピー」を書くと言いましたが、それは「納得できる証拠」とセットで生きるもの。
例えば、「13品種食べ放題」とキャッチコピーに書いたのであれば、クリックした先のプラン詳細画面で「九州最大級の13品種:認定農家のみ栽培できる『かおりの』を中心に、さがほのか、アイベリー、もういっこ、星の煌めき、おいCベリー、とちおとめ、レッドパール、よつぼし、やよいひめ、紅ほっぺ、女峰の全13品種。」と書いたり、「カメラマンによる写真撮影・データプレゼント」と書いたのであれば、「農園内をカメラマンが回りながら順番に写真を撮影し、帰宅後にSNS経由でデータを無料でお渡しします」と書くことで、より農園への信頼度が上がります。
また、私たちの「いちごがり写真館」のサービスがわかりにくい可能性があるため、ホームページ同様に、受付から終了までの一連の流れを記載することで、閲覧する人の不安や疑問を取り除くようにしました。
工夫5:口コミ戦略
口コミは、魅力があるかどうかの何よりの証拠。そして、口コミ件数も掲載順位に影響があるということで、私たちは通常300円で販売しているコーヒーを、口コミをその場で書いてくれた人にはサービスしました。
シーズンが終了した4月末の口コミ件数は121件。口コミ1件に対するコーヒーの原価は30〜50円程度なので、口コミ121件を集めるのに5000円程度の費用でできたことになります。オープンから日が経つにつれて「口コミをみて決めました」というお客様が増えてきたので、かなりコスパのいい戦略だったと思います。
3. SNSでの広報
3大SNS「Facebook、Twitter、Instagram」のうち、私たちは「Instagram」に絞って広報をしました。昨年度まではFacebookに力をいれていましたが、Facebookは知り合いに広報するにはベストですが、新規のお客様を獲得するには機能上不向きでした。そこで写真との相性の良いInstagramを利用し、ハッシュタグ機能を生かした広報をしました。実際に、来園者の中には「Instagramを見て来ました」というお客様もいました。
4. ローカルテレビ・タウン誌に取り上げてもらう
やはり王道のテレビの効果はあなどれません。今までにない新しいコンセプトのイチゴ狩りを企画し、それがターゲット層にハマれば、自然と地域で話題になり、取り上げてもらいやすいでしょう。私たちの今シーズンのメディア出演は、テレビ3本、新聞2本、タウン誌4本、ラジオ2本でした。また、オープン初年度は「Newオープン」というだけで取り上げてもらいやすいのでチャンスです。当農園の場合は特に働きかけなくても取り上げてもらうことができましたが、プレスリリースを出すなど、積極的にアピールしてみるのもいいかもしれません。
5. クラウドファンディング
私たちは観光農園をオープンする1年前、つまり1シーズン前にクラウドファンディングに挑戦しました。このクラウドファンディングは単に資金調達というよりも「広告宣伝」の意味合いが強く、見込顧客の獲得のためでもありました。
届けたい相手に合わせた広報戦略が、農園をつくる
ありがたいことに、私たちの考えた広報戦略はハマり、2月には連日満員になりました。
当農園があるのは人口5000人しかいない日南市にある北郷町というエリアですが、お客様の居住地分析をすると農園から片道1時間以上かかる宮崎市、都城市、鹿児島、熊本、宮崎県北部からのお客様が全体の85%を占めていました。
また、結果的にお客様の質がいいと感じました。ここでの質がいいというのは、お客様の求める価値と、私たちの求める価値が一致し、「サービスに納得した上で、イチゴ狩りを楽しんでくれた」ということ。
例えば、①“いちごがり写真館”の趣旨を理解し、写真データの受け渡しがスムーズ②イチゴの食べ方がきれいで、食べ残しがほとんどない③子供が危ない行動をするときちんと親が注意してくれる、などがその表れで、全体を通してリテラシーが高く、マナーが良いと感じました。
このように、届けたい価値とお客様の求める価値を分析し、戦略を立てた上で広報することが、店にとっても、お客様にとってもハッピーになるのではないかと感じています。