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人工知能(AI)で糖度を予測、温州ミカンの栽培管理に役立てる

斉藤 勝司

ライター:

連載企画:農業テクノロジー最前線

人工知能(AI)で糖度を予測、温州ミカンの栽培管理に役立てる

温州(うんしゅう)ミカンの糖度は適度な水分ストレスによって高められるといわれます。しかし、過度なストレスで樹木を弱らせてしまうこともあり、糖度を高める栽培管理は決して簡単なことではありません。そのため温州ミカンの糖度を予測できれば、栽培管理に生かすことができるでしょう。農研機構農業情報研究センターの研究グループは、JAながさき西海(さいかい)が長年取得してきた品質データを活用して、温州ミカンの糖度を高精度に予測する人工知能(AI)を開発。栽培管理に役立てようとしています。

選果場に持ち込まれたミカン全量の糖度を測定

温州ミカンの品質を決める重要な要素である糖度は、適度な水分ストレスを与えることによって高めることができます。しかし、不用意に過度にストレスを与えてしまうと樹勢を弱めることもあり、熟練した生産者でも糖度を高めるためのかん水管理は難しいと言われています。
その年の糖度を予測することができれば、かん水管理を行う上で貴重な情報になるはずで、これまでにも温州ミカンの糖度を予測する手法が検討されてきましたが、従来法の予測精度は決して高くはありませんでした。そこで農研機構農業情報研究センター農業AI研究推進室の森岡涼子(もりおか・りょうこ)さんらの研究グループは、長崎県のJAながさき西海が蓄積してきたデータを利用して、温州ミカンの糖度を精度よく予測できる人工知能(AI)の研究を進めています。この研究について森岡さんがこう語ります。

「JAながさき西海は高品質な温州ミカンの産地として知られ、糖度によって『味っ子』『味まる』といったブランドに分けて出荷してきました。そのため厳格な品質管理を行っており、2007年からは光センサーによる非破壊検査を導入して、選果場に持ち込まれたすべてのミカンの糖度、酸度、大きさで示される階級、色、傷の有無などの外観を測定して、品質データとして蓄積してきました。ただ、データの所在が確認できたのは2009年以降のものに限られたので、これを活用して糖度を予測できるAIの研究に取り組んだのですが、それだけでも膨大なデータ量になります」

JAながさき西海では、2009年以来、選果場に持ち込まれた温州ミカンすべての品質データが蓄積されています(画像提供:JAながさき西海)

膨大なデータを使って糖度を予測できるAIを開発

2019年から始まった農林水産省主導の「スマート農業実証プロジェクト」にJAながさき西海を実証経営体とするグループ(スマートみかん生産コンソーシアム)が採択されたこともあり、森岡さんらは温州ミカンの品質データに加えて、ミカンの生育に関わる気象データ(気温、降水量、日射量、日照時間)を用いて、糖度を予測できるAIの実現を目指しました。

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産地によって異なりますが、温州ミカンは秋から冬にかけて収穫されるため、糖度を予測しようとする年を“当年”として、前年に収穫されたミカンの糖度の測定値と、当年の気象データを入力データとしてAIに与えて、当年のミカンの糖度を予測させます。

前年のミカン糖度と当年の気象データから、AIに当年のミカン糖度を予測させました(画像提供:農研機構)

例えば、2009年に収穫されたミカンの糖度(測定値)と翌2010年の気象データから、AIに2010年のミカンの糖度を予測させるのですが、開発当初の予測精度は低く、2010年に実際に収穫されたミカンの糖度(測定値)とは誤差が生じていました。しかし前述した通り、JAながさき西海には選果場に持ち込まれたすべてのミカンを測定した膨大な品質データが蓄積されているので、各年の予測値と測定値を照らし合わせることができます。最初は誤差が大きくても、AIに測定値を与えて再学習して、予測精度を高めていきました。

こうして開発されたAIが実際に糖度を精度よく予測できるかを確かめるため、直近の3年間(2016~2019年)のミカンの糖度を予測させ、翌年にとれたミカンの糖度の測定値と比較したところ、これまでに提案されていた手法よりも高精度に糖度を予測できることが確かめられました。

推定値と測定値の誤差が小さくなるようにAIを学習させて糖度予測の精度を高めていきました(画像提供:農研機構)

品質データがあれば他地域でも糖度予測ができる

精度よく糖度を予測できるようになったとはいえ、AIの糖度予測を生産管理に生かして、ミカンの品質を高められるかどうかまでは確かめられていません。糖度を高めるための生産管理は7月頃から始められるため、すでに2020年の糖度予測をJAながさき西海に提供しており、今後、予測をどれだけ生かせるかが検証される予定です。

JAながさき西海は熟練した生産者が多く、森岡さんらが提供した予測をそれぞれの栽培管理に生かすことができるでしょう。せっかく糖度を予測できるなら、経験の浅い生産者でも利用できるよう、予測結果だけを提供するのではなく、どのように栽培管理を行えばいいのかを示せるようなソフトウェアも求められます。今回の実証プロジェクトとは別な研究になりそうですが、森岡さんらはAIによる糖度予測から管理手法を導き出すシステムの開発も目指していると言います。

さらに長崎県以外の地域でも糖度を予測していこうとすると、各産地のデータが必要になると森岡さんは語ります。

「予測精度が落ちてもいいなら、長崎のモデルをそのまま他地域に使うこともできますが、栽培環境は異なります。栽培管理に生かしていくことを考えると、地域ごとでデータを集めていただいて、それぞれにモデルを作っていった方がいいでしょう」

森岡さんによると、10年以上のデータがあることが理想ですが、6~7年分もあれば、なんとか精度よく糖度を予測できるAIができるといいます。その点で、今、こうして糖度を予測できるAIができたのは、長年、温州ミカンの品質データを取り続けたJAながさき西海のおかげと言っても過言ではありません。ICTを取り入れたスマート農業は始まったばかりで、産地それぞれに手探りで進められていますが、まずは農作物のデータを取ることから始めることが求められているのでしょう。

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