本格的なスマート農業時代に向けて 生産者に求められる意識改革とは?【前編】

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本格的なスマート農業時代に向けて 生産者に求められる意識改革とは?【前編】

本格的なスマート農業時代に向けて 生産者に求められる意識改革とは?【前編】
最終更新日:2019年10月02日

近年、頻繁に耳にするようになったスマート農業。ICTやロボット技術を取り入れ、農作業の効率化を図っていこうという取り組みですが、今、なぜスマート農業が求められているのでしょうか。その背景を探ると、日本の農業が抱える課題が見えてきました。スマート農業の実情と、そのための要素技術の開発状況について、スマート農業を推進する農林水産省農林水産技術会議事務局研究推進課長の福島一(ふくしま・はじめ)さんと、同省大臣官房政策課技術政策室長の松本賢英(まつもと・よしひで)さんに話を聞きました。(写真提供:ヤンマー株式会社)

労働力不足を受けて求められる農作業の効率化

──なぜ、スマート農業が求められるようになっているのでしょうか?

福島:ご存じの通り、日本では少子高齢化が進んでいますが、特に農業分野の高齢化は深刻で、農業就業者の平均年齢は66歳を超えています(図)。農業就業人口の減少も問題になっており、1995年時点では414万人でしたが、2015年には210万人までほぼ半減しています。その一方で経営規模は拡大しています。離農により作付けが行われなくなった農地を、“担い手”と呼ばれる生産者が受け継ぐことで、経営規模を拡大しているのですが、水田作の場合、生産者1人が作付けできる面積は15ヘクタール程度。どんなに頑張っても20ヘクタールが精一杯です。そこで限られた労働力で、より広い面積に作付けができるよう、農作業の省力化等が求められ、農作業のスマート化が進められようとしているのです。

農業就業者の平均年齢は66歳を超えている(農林水産省「2015年 農林業センサス」より)

──スマート農業の必要性が論じられる以前から、農業機械による省力化が進められてきました。そうした従来の省力化と、スマート農業は質的に違っているのですか?

福島:確かに農業機械により、一部の農作業は大幅な省力化が実現しました。しかし、農業には伝統的に経験や勘に頼るところがあり、熟練者でないと質の高い農作物の生産は難しいという問題がありました。これでは新規就農者の増加は望めません。近年、IoTを可能にするセンサー技術が発展し、さらに、各種センサーによって得たデータを解析する技術も飛躍的に進歩してきて、経験や勘に頼ることなく、データに基づいて判断を下せるようになりつつあります。ですから、単に農作業の省力化だけでなく、こうしたICTを農業機械に取り入れ、新規就農者でも質の高い農産物を生産できるようにしていこうというのが、これまでの農業機械の開発と、現在のスマート農業の推進の違いと言えるでしょう。

開発済みの要素技術を使いこなせるかどうかがカギ

──スマート農業に求められる技術はすでに開発済みだと考えていいのでしょうか?

松本:スマート農業を支える要素技術の中でも平野部の圃場(ほじょう)で用いる農業機械の開発が先行しています。例えば、無人で動くトラクターが開発されています。現状では圃場の近くで目視により監視する必要があるため、別のトラクターで作業を行いつつ、無人で動くトラクターを監視するといった使い方が可能です。1人で複数台のトラクターを操作できるようになるため、大幅な省力化が期待されています(上写真)。また、水田作の田植え作業は、これまで田植機の運転と苗の補給のために2人で行っていましたが、自動運転田植機の開発が進められており、これが実用化すれば、田植え作業は1人でできるようになるでしょう。ただ、中山間地域に対応した自動化技術の開発はこれからです。中山間地域の圃場は狭いため、小回りの利く農業機械を開発していかなければなりません。また、野菜、果樹の収穫作業の機械化も進めていかなければなりません。野菜や果樹の収穫作業は大きな労働負担になっていますが、色などから収穫適期かどうかを判断して、さらに傷つけることなく収穫する必要があるなど、技術的に難しい課題ですが、現在、研究開発を進めているところです。

農林水産省大臣官房政策課技術政策室長の松本賢英さん

──圃場の状態や作物の生育状況を把握するセンサー技術の開発も欠かせませんね。

福島:センサーのコストダウンも進んでいますから、すでに圃場や農業機械に各種センサーを設置することができるようになっています。ただ、そのセンサー類で捉えたデータを活用して、農業生産のスマート化を図っていくことが、今後、求められていくでしょう。日々の栽培管理に用いるだけでもセンサー類を導入する意義があると思いますが、経験や勘に頼っていた農業から脱却して、データを蓄積、分析することで、データ重視の農業生産に転換を図っていけるかどうか。本格的なスマート農業の実現に向けて、それが問われているのだと思います。

スマート農業の導入を検討するための判断材料を提供する

──開発済みの要素技術をいかに運用するかが、今後の課題になりそうですね。その点で生産現場にスマート農業を普及させていくための取り組みは始まっているのですか?

福島:スマート農業の技術が開発されたからといって、新たに農業機械を導入するには、それなりに大きな投資をしなければなりません。スマート農業の利点を理解してもらうため、実際に使ってもらうことが重要だと考え、2019年度から「スマート農業実証プロジェクト」を実施しています。それぞれの地域で、生産者だけでなく、大学や農業試験場などの研究機関、農業機器を開発する企業などでコンソーシアム(共同事業体)を組織してもらい、実際に取り組んでいただくことで、理想的なスマート農業を現場レベルで実証しています。そこでさまざまなデータを集め、例えば、自動運転トラクターを使ったらどれぐらい省力化できたのかなどを検証し、導入すべきかどうかを判断する材料にしてもらおうとしています。

農林水産省農林水産技術会議事務局研究推進課長の福島一さん

──その結果がわかれば、多くの生産者に対して、自身の農業生産をスマート化するかどうかを検討しやすくなりますね。

福島:そのためプロジェクトに参加しているコンソーシアムには、農業生産のスマート化を検討している生産者の視察の受け入れをお願いしています。ただ、農業生産では季節によって行う作業内容が異なりますから、タイミングをはずすと農閑期で視察できないということもありえます。プロジェクトのパンフレットには、実証する要素技術がいつ利用されているかも示しています。例えば、水田作であれば、ICTを取り入れた田植機は4月から5月に使い、水管理システムは5月から8月まで利用する、というように紹介されていますので、ご自身の農業形態に合わせて、視察先、時期を選んで、スマート農業の実情を見に行っていただきたいですね。(後編へつづく)

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本格的なスマート農業時代に向けて 生産者に求められる意識改革とは?【後編】
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