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本格的なスマート農業時代に向けて 生産者に求められる意識改革とは?【後編】

斉藤 勝司

ライター:

連載企画:農業テクノロジー最前線

本格的なスマート農業時代に向けて 生産者に求められる意識改革とは?【後編】

ICTやロボット技術を取り入れることで、農作業の効率化を実現しようとするスマート農業。要素技術の開発が進み、効果を検証する実証プロジェクトが全国各地で進められていますが、スマート農業を普及させ、その効果を最大限発揮させるには、さまざまな課題があるようです。本格的なスマート農業時代に向けて、生産者にはどのような意識改革が求められているのでしょうか。スマート農業を推進する農林水産省農林水産技術会議事務局研究推進課長の福島一(ふくしま・はじめ)さんと、同省大臣官房政策課技術政策室長の松本賢英(まつもと・よしひで)さんに話を聞きました。

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全国でスマート農業の技術実証試験を実施

──現在、実施されているスマート農業実証プロジェクトでは、どのような農作物生産のスマート化が進められているのでしょうか?

福島:今回のプロジェクトでは全国69カ所の農場を採択して、スマート農業を実施していただいています。北は北海道から、南は沖縄までの農場が選ばれていますし、作付けする作物も多様で、水田作、畑作、施設園芸、果樹など、バリエーションに富んでいますから、将来的にスマート農業に取り組もうと考えている生産者にとっても参考になるデータが得られると期待しています。

──全国69カ所の実証農場の中で注目しているところはありますか?

福島:それぞれにどのようなデータが得られるのかを見守っていますが、例えば、茨城県龍ケ崎市一帯で大規模な水田作の実証試験に取り組んでいる横田農場は注目に値すると思います。先程も申しました通り、農業就業人口は減少の一途をたどる一方で、経営体の規模は拡大しており、生産者一人が作付けできる面積の拡張が求められています。その点で、こちらの技術実証では、自動運転田植機やロボットトラクター、さらには水田の水位を監視しつつ、遠隔操作で給排水を行う圃場(ほじょう)水管理システム(上写真)などを導入して、作付面積を広げて、労働報酬の向上も目指されています。一方、国土に占める山地の割合が大きな日本では、大規模な水田作だけではありません。兵庫県養父(やぶ)市では、地元の農業生産法人が中心となって、中山間地域特有の高低差が大きく狭小な水田で、経験の浅い生産者が酒米の生産に取り組んでいます。ロボットトラクターなどの自動化された農業機械の技術実証だけでなく、農地周辺ののり面の草刈り作業がとても大変ですから、急勾配の傾斜地でも使える無線遠隔操作の草刈り機を導入し、農作業の省力化がどこまでできるのかも実証しています。

スマート農業の実証試験は全国69カ所で進められている(農林水産省「スマート農業実証プロジェクト」パンフレットより)

農地が分散していては自動運転機能を生かせない

──スマート農業の社会実装を進めていく上での課題は何でしょうか?

福島:自動運転機能を組み込んだ農業機械は大きく区画化した農地であるほうがその機能を生かすことができます。ただ、個々の農地が狭く、点在していると、農地から農地への移動に手間がかかって、自動運転の良さを生かすことが難しくなります。集約化が進んでいるような地域でも、離農により作付けされなくなった農地が、それぞれ別の担い手に受け継がれて、モザイク状に点在している地域は珍しくありません。自動運転の農業機械の利点を十分生かそうとするなら、農地の集約化も進めていかなければならないと考えています。

──本格的なスマート農業時代に向けて生産者がすべき意識改革はありますか?

福島:先程ご紹介した通り、スマート農業が従来の農業機械による省力化と異なるのは、ICTを取り入れることで農作業の効率化や品質の向上が期待できることと言えます。ただ、そのためには栽培環境や農作物の品質、収量のデータの活用が不可欠です。すでに栽培環境から収量などの予測もできるようになっているとはいえ、予測精度を高めるには、より多くのデータが求められます。同じ農地でも作物の生育を左右する天候は年によって異なりますから、1年分のデータだけでは不十分です。水田作の場合、年に1回しか作付けはできませんから、精度よく収量などを予測しようとしたら、5年から10年分データは欲しい。すぐに役立てることはできなくても、今すぐにでもデータを取り始めて蓄積していっていただきたいですね。

農林水産省農林水産技術会議事務局研究推進課長の福島一さん

篤農家の農業データは有用な知財になりうる

──農業データを生かして農業生産のスマート化が図れるのはいいのですが、生産者それぞれのデータの保護や、その活用に関するルール作りも必要なのではないでしょうか。

松本:すでに農林水産省の知的財産課が農業データの取り扱いに関するガイドラインを作成しました。データに基づいて農作業を行うことにより、熟練度の低い新規就農者でも質の高い農作物の生産が期待できるのですから、高い技術を持つ篤農家の農業データは有用な知財になりえます。農業データのガイドラインが作られていますので、このガイドラインにのっとって農業データを保護しつつ、利活用を進めていくことになると期待しています。

──本格的にスマート農業の時代が到来すると、農業データを活用する新しい知財ビジネスも成り立ちそうですね。

松本:篤農家の農業データをパッケージ化することで、熟練度の低い農家に販売していくということもありえるでしょうね。同じ産地の中だけで農業データを共有して、産地として農作物の品質を高めていくということもできると思います。有名な産地には、産地の中心的な存在の篤農家がおられます。従来は研修会を通じて、篤農家の技術が同じ産地の生産者に伝えられてきましたが、スマート農業の時代には農業データを介して高い栽培技術を広めていくことも十分あり得ることです。

農林水産省大臣官房政策課技術政策室長の松本賢英さん

──ただ、農業就業者の平均年齢は66歳を超えています。早くしないと経験豊富な篤農家の農業データを収集する前に失われかねません。

松本:だからこそ、早くデータの蓄積に取り組んでいただきたい。幸い、各種センサーやデータを蓄積するサーバーのコストダウンは進んでいますから、農業データの取得は決して難しくなくなっています。そうして蓄積されたデータを駆使してスマート農業を実現すれば、篤農家の技術を次の世代に受け継ぐことができると期待しています。

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