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サバクトビバッタの日本への影響は? 世界の農産物への影響は?

千田 一徳

ライター:

サバクトビバッタの日本への影響は? 世界の農産物への影響は?

2020年、新型コロナウイルスによって世界が打撃を受けていますが、もう一つ大きな危機がすでに起こっています。その危機とは、サバクトビバッタの大量発生です。2020年の初めごろから東アフリカ諸国などで確認され、国連食糧農業機関(FAO)は被害地域では4200万人が飢餓に陥ると警告しています。サバクトビバッタがどのような被害をもたらすのか、日本への影響はどの程度あるのかを調べ、FAO駐日連絡事務所からもコメントをもらいました。
(上画像:©︎FAO/Sven Torfinn)

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被害額は25億ドル! サバクトビバッタとは?

©︎FAO/Sven Torfinn

今、バッタが東アフリカ、インドなどで猛威をふるっています。
そのバッタの名前は「サバクトビバッタ」。食欲が旺盛で、樹木、草など野生の植物をはじめ、ほぼ全ての作物と植物がエサになります。

古くからバッタの大量発生に関しては多くの報告例がありますが、その要因はサバクトビバッタの生態にあります。通常サバクトビバッタは単独で行動しますが、サイクロンが発生し高温多湿になるなどバッタの活動にとって好条件となり、この好条件がしばらく続くなどして個体数が増加し密度が高くなると「群生相」と呼ばれる形へ体が変化します。
群生相になると成虫は体の色を変え、長距離を飛ぶのに適した形態に発達して群れを作るようになります。

1つの群れには1平方キロあたり4000万匹から8000万匹ほどのバッタがいるとされ、4000万匹でも1日で約3万5000人が消費する食料、または牛2000頭分の牧草と同量を食べることができると推定されています。

また、群れは別の群れと合流しそのサイズを大きくしていきます。
2020年1月にケニアで発見された群れは、40×60キロ(2400平方キロ)の面積を覆っていたそうです。これは東京都(2194平方キロ)がすっぽり入ってしまうほどの広さです。

最近では2003年に大発生し2005年におさまるまで、西アフリカの国々を中心に20カ国以上が被害を受け、その被害はFAOによると25億ドルにもなったそうです。

そして今回、2020年初めに東アフリカで確認されたサバクトビバッタの大量発生は、2020年7月21日の段階でインド北部、インドとパキスタンの国境付近、ネパールなどでも確認されており、ネパールではすでに1100ヘクタール以上の農地が被害にあっていると言われています。

2020年7月22日から29日のサバクトビバッタの発生状況(出典:FAO/DLIS)

FAO駐日連絡事務所はサバクトビバッタの現状について、「各国政府の対応能力を超えてしまうほどの非常に大規模な広がりと被害をもたらしている」とコメントしたうえで、被害を受ける国々の多くが以前から洪水や干ばつといった自然災害や紛争などにより、警戒レベルの食料不安状況にあったと説明しました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の大流行に加え、今回のサバクトビバッタの大発生は、「この脆弱な状況にある地域にさらに追い打ちをかけ、農家や牧畜民の生計と生活を脅かしている」と各国の状況を懸念しています。

日本への影響は?

サバクトビバッタの群れ ©︎FAO/Petterik Wiggers

ひとたび大発生すると食料を食べ尽くしてしまうサバクトビバッタですが、日本への影響はあるのでしょうか。

「日本でサバクトビバッタの群れが発生するか」
「輸入作物へ影響するか」
という2点から見てみます。

日本へ飛んでくる可能性は低い?

飛行前のバッタの大群 ©︎FAO/Sven Torfinn

サバクトビバッタが飛行し続けられる航続距離は、1日150キロ前後と言われています。
昼間に飛び、夜は地上で羽を休めます。

また、バッタの群れが飛んで移動するのには最低でも15~17度の気温が必要です。
そのためインドで発生してもヒマラヤ山脈が越えられず、そこから東に侵入する可能性は低いと考えられています。

FAO駐日連絡事務所も日本への影響について「サバクトビバッタの生息域は東アジアまでは及ばないため、バッタの群れの直接の影響はないと考えられる」とコメントしています。

日本への影響は少ないと思われるが、油断は禁物

写真はイメージです

2020年6月2日、江藤農林水産大臣は記者会見で「(被害を受けている地域が)輸入買い入れ先ではないため、現時点で日本への大きな影響はないが、バッタの移動、被害の状況などを注意深く見守る必要がある」という趣旨の発言をしています。

一方で、南米のアルゼンチン北部地域では「ミナミアメリカバッタ」の発生が確認されました。ミナミアメリカバッタはサバクトビバッタと同じように雑食で群れをなし、農作物を食い荒らします。直近の特に大きな被害は2016年で、ボリビアで1万ヘクタールの農作物が被害を受けました。

現在ミナミアメリカバッタの発生が確認されている地域はパラグアイ、ウルグアイ、ブラジルの国境付近で、農作物への影響は限定的だったものの今後の天候次第で更なる発生、増加の可能性があります。
これを受けてブラジル政府は6月24日に緊急事態宣言をするとともに、同国南部地域での殺虫剤の空中散布を含めた包括的な対応計画を発表しました。

南米は世界的な穀物輸出国として知られ、ブラジルは2018年の穀物生産量が世界6位、アルゼンチンは7位と上位に位置しています。これらの国々に深刻なダメージがあった場合の日本への影響について、FAO駐日連絡事務所は「現在、世界の穀物供給は十分にあり、食料不足等のリスクは低い」としながらも、「世界のフードシステムは複雑につながっており、また現在世界が直面するさまざまな課題は絡み合っている。これらを踏まえ、日本国内でも感染症の危機や気候変動の危機などに対して、私たち一人一人の日々の選択が世界の飢餓や貧困にも影響するということを意識して行動することが、今求められている」と、問題意識を持った行動の大切さを伝えています。

世界の食料事情に影響を与える可能性があるサバクトビバッタ

農作物を食い荒らしながら移動するサバクトビバッタ ©︎FAO/Sven Torfinn

日本から遠く離れた国で起こっているサバクトビバッタの被害。日本への影響は、現時点では低いと考えられています。
しかし、新型コロナウイルスによって食料生産国が輸出量を制限するなど、世界的に見ても食料供給事情は不安定さが拭えません。
加えて2020年は梅雨が長引き、野菜の出荷量が減少しています。そのため野菜が値上がりしており、ニンジンの卸売価格は前年同期比で3.4倍、長ネギは2.4倍などとなっています(7月10〜16日)。

こうした世界の現状を踏まえ、FAOはサバクトビバッタへの対応計画を策定し、食料生産活動と生活を維持し続けられるよう、防除活動や生計支援を実施するとともに、緊急支援計画の実行に必要な3億米ドル規模の資金要請を国際社会に対して行っています。FAO駐日連絡事務所は「国際協力の輪をさらに広げ、共に連携することこそが解決につながるという認識を高めることが、このような危機の時代には重要」としています。
私たちの生活には、普段は感じることが難しい、世界のさまざまな事柄が影響してきます。
何かあってから「こんなことになるなんて……」と後悔しないよう、普段から視野を広くしておくことが大事なのかもしれません。

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