土着菌とは
土着菌とはその地域に住んでいるさまざまな微生物のことです。特定の微生物を指すものではなく、多くの種類の微生物の集まりであり、同じ地域でも場所や季節などによって種類が異なるようです。主に山林や農地に多いと言われており、そこから採取することができます。
土着菌という言葉はよく聞きますし、それを使うと堆肥づくりなどで役に立つそうなのですが、周囲で実際に使っている人がいないため、実際のところどうなんだろう?と思っていました。
そこで実際に土着菌を利用して地域の生ゴミや草木を堆肥化している鹿児島県曽於(そお)郡大崎町の「そおリサイクルセンター」に話を聞いてみることに。土着菌の何が良いのか、またその採取方法、利用のポイントについて、ズバリお話を伺ってきました。
■お話を伺った人
上野祐樹(うえの・ゆうき)さん
有限会社そおリサイクルセンターの大崎有機工場に勤務。曽於郡大崎町内で発生する全ての生ごみや草木の受け入れを行い、それらを堆肥化し、「おかえり環ちゃん」という有機堆肥を製造している。2010年11月に大崎有機工場勤務となってから、およそ10年にわたり堆肥化技術を維持・向上させてきた。大崎町がJICA(国際協力機構)の支援を受けてインドネシアにごみのリサイクルに関する技術協力をする際にも、堆肥化技術指導員として現地での指導・普及を行い、現在も活動を続けている。
土着菌の採取方法と利用のポイント
土着菌を使うメリットとは?
──堆肥を作るための微生物資材ってたくさんあると思うのですが、その中でも土着菌を使うメリットはどこにあるのでしょうか。
そうですね。私たちもいろんな微生物資材を試してきたのですが、やはり地域の生ゴミや草木を堆肥化しているので、この地域の菌を使った方が相性が良いようです。堆肥化する草木自体にも土着菌が付いているので、長い目で見ても安定して堆肥化できます。後はコストがかからないところも大きなメリットになります。
──確かに地元の微生物を使って、地元の資材を堆肥化するのは理にかなってますよね。コストがかからないのも家庭や個人の農家にとってありがたいことですね。

地元の草木を分解するのは、地元の微生物たちがやっぱり得意なのかも
土着菌の入手方法は?
──土着菌はどこから集めたらよいのでしょうか。
一般的に「ハンペン」と呼ばれるような、落ち葉の下にある白い菌の塊を利用してもよいですし、炭水化物が好きなようなので、おにぎりを落ち葉の上に4〜5日ほど置いておくとびっしりと菌がつきますよ。草木や生ゴミを細かくして混ぜたものに、その土着菌の塊を混ぜ込んで堆肥化させます。後はその堆肥を一部残しておいて、それを元種(もとだね)にすると繰り返し安定的に堆肥化ができますし、温度も上がりやすく、堆肥になるのも早いです。

「ハンペン」の赤ちゃん。これがもっと大きい塊にまで育ったものを元種に使うとよいようです
──なるほど。毎回とってこなくても、一回作った堆肥を元種にしていけば繰り返し使えるんですね。
土着菌を使った堆肥づくりのポイント
──堆肥づくりの際に、生ゴミと草木はどれくらいの割合で入れていますか。
生ゴミと草木は重量比で1対1になるように入れています。生ゴミは水分量が多いので、草木を入れることでバランスがとれますし、草木にも土着菌がたくさん付着しています。ここでは毎日約3トンの生ゴミが搬入され、同量の草木と混ぜて堆肥化し、最終的にはその10分の1となる600キロの堆肥が完成します。
──10分の1まで減るんですね! 堆肥化している時の温度はどのくらいまで上がるのでしょうか。
ここでは最低でも80度以上まで上がるように、空気と水分を調整しながら管理しています。80度以上まで上がると雑草の種やカビなどの雑菌、ハエの卵なども全て分解されます。時には100度くらいまで上がることもありますね。蒸気がすごいので前が見えなくなることがよくあります。
──特別な微生物を買ってきたりしなくても、そんなに温度が上がるんですね。
はい、ポイントは生ゴミも草木も細かくしてから入れると分解が早くて、温度が上がりやすいということです。米ぬかや油、砂糖などを入れると発酵が盛んになるので、これらもおすすめです。
──蒸気がたくさん出るそうですが、逆に水分が抜けすぎると発酵が進まないのでは? 水を足していくこともあるんですか?
ありますね。生ゴミを集めると回収容器の下のほうに水分がたまりますよね。そこにも養分がたくさん残っているので、それを集めておいて水分調整の時に入れたりします。それが足りない時はスプリンクラーで水をまくこともありますが、その際は塩素がしっかりと抜けたものでないと殺菌されてしまうので、注意が必要ですね。
土着菌で作るヨモギ乳酸菌で臭い消しにも
──土着菌の利用法って他にもあるんでしょうか。
土着菌にはいろんな種類があるんですが、その一つに乳酸菌という細菌がいます。
ヨモギの葉にはこの乳酸菌が多く付着していて、近くの土手に生えているヨモギをとってきて、乳酸菌の培養液を作っています。
この培養液を堆肥にかけると、生ゴミの臭いを抑えることができますよ。
──臭いはやっぱり気になりますもんね。ぜひヨモギを使った乳酸菌の作り方を教えてください!
とってきたヨモギ1キロに黒砂糖(粉末)を500グラムの割合で混ぜ、漬物石を置いておきます。この時に中に土が入らないように注意してください。これで1週間後にはできます。その上澄みを100倍くらいに薄めて散布していますね。畑に散布される方もいますよ。
──結構簡単にできるんですね! 乳酸菌には雑菌の抑制効果があると聞いたことがあります。畑にまくと病気対策になりそうですね。
はい。土着菌はそこの地域の環境にあった菌を利用するので、畑の菌とも相性が良いでしょうし、無理がないですよね。普通ならゴミになるような生ゴミも草木も全て良質な堆肥にしてくれるので、本当に無駄がなくて持続可能的だと思います。ぜひご家庭でもチャレンジしていただきたいですね。
土着菌を畑づくりに生かしてみよう!

菌がびっしりと広がっている堆肥
身の回りの山林や農地にいるという土着菌ですが、思っていたよりもちゃんと温度が上がって、安定的に良質な堆肥ができるようです。その土地の草木を入れて堆肥化させるのであればなおさら、理にかなっていて効果がありそうです。僕も土着菌で雑草堆肥を作ってみようと思いました。皆さんもぜひ地元の土着菌を利用して畑づくりに生かしてみてください。