大手メーカーのサラリーマンから農業と福祉をつなぐ農家サラリーマンへ【畑と人材育成とvol.4】

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大手メーカーのサラリーマンから農業と福祉をつなぐ農家サラリーマンへ【畑と人材育成とvol.4】

連載企画:畑と人材育成と

大手メーカーのサラリーマンから農業と福祉をつなぐ農家サラリーマンへ【畑と人材育成とvol.4】
最終更新日:2020年09月01日

先の見えない時代だからこそ、地に足のついた「農業」を仕事に。
農業は、親からの世襲の他、近年では、他業種から転職してきた人も活躍している業界です。
日系大手メーカーから農業界に転職してきた山田直明(やまだ・なおあき)さん(30)もその一人。
農業法人に雇用就農し、農業と福祉の可能性を広げる農業者として日々奮闘する山田さんに転職の動機から現在の働き方までをインタビューしました。
農業界へ転職したきっかけ、そして、見出そうとしている未来とは──。

工学部から、日系の自転車産業のトップメーカーへ就職

──これまでのキャリアを教えてもらえますか?

北海道大学工学部を卒業し、新卒で、日系の自転車産業のトップメーカーに入社しました。
入社して2年経ったころ、仕事に対してやりがいや意欲を感じづらくなっていました。会社には、不満があるどころか勤務条件などは満足していたのですが、なぜか不安な気持ちになることがありました。私はマーケティング部に所属していたのですが、売り上げや販売台数、配布するチラシの数などが大きすぎて単なる「数字の羅列」のようにしか感じられず、実存している「実体」という感覚が持てなかったのです。また、自分が未熟なことに加え、会社の規模が大きいこともあり、自分が会社の仕事や売り上げに貢献している実感もありませんでした。農業の仕事と違って体力的には全く辛くはなかったのですが、精神的には毎日疲れていました。

──農業に興味を持ったきっかけは何でしょうか? 確か、拙著だったような……。

そうなんです。週末には本屋をめぐるのが日課だったのですが、そこで手にしたのが、小島さん(体験農園コトモファームの代表)が書いた「ホームレス農園」という本でした。本を読んで、通える圏内に農園があることを知り、見学に行き、コトモファームに通うようになりました。通える距離といっても、片道2時間ほどあったので、当時を思い返すとよく通ってたなと感じます(笑)。

「ホームレス農園」の増補版「ホームレスや引きこもりが人生を取り戻す奇跡の農園」

日常に農ある暮らしを取り入れて感じた「実感があるもの」

──農園に通うようになって、変化はありましたか?

週末は何もせず家にいることが多かったのですが、畑に出かけるようになりました。体を動かし汗をかくと体は疲れますが、精神的にはリフレッシュできました。
また、会社と離れたところで、畑の他の来園客と話すのはいい息抜きにもなっていました。
土を耕したり、野菜の種や苗を植えたり、草を刈ったり、それらが成長して、自分が手をかけた分、畑に目に見えて変化がある、自分で農園の景色を作っているのを心地よく感じました。

やがて生活にもっと農を取り入れていきたいと考え始め、就農を前提とした上級者コースに通うことにしました。その講習の中で、自分が体験農園で育てた野菜を販売する事があったのですが、ほうれん草が1袋200円で売れた時の感動を今でも覚えています。
金額としてはすごく小さいですが、その数字にはとても実感があるというか、血が通った感じがありました。自分で育てて、黄色くなった葉っぱを取るなど調整をして、重さを量って袋に入れて、目の前のお客さんに「この野菜はこんな味でおいしいですよ」なんて説明して、「じゃあ買ってみようかしら」と買っていただいた時は感激して……。こういった実感あるお金の稼ぎ方で生活したいなと思うようになりました。
それで農業分野で独立するつもりで、神奈川県の認定農業者のもとで1年ほどの研修を受けようと決心し、会社も辞めました。

直売の様子

農家研修で知った現実──経済的に高いハードル

──農家研修で、学んだこと、気が付いたことなど、詳しく教えてください。

農業の研修では、農家さんのもとで一緒に作業をするのですが、どのくらいの面積の畑でどのくらいの野菜を育てて売れば、いくらくらいの稼ぎになるのか。それが体感で理解できてくるのですが、これがまあ大変だと気付きました。

改めて振り返ると無策すぎるし、未熟すぎて恥ずかしくなるのですが、自分で独立するとなると何もないところから始めるわけで、多少の貯金はあれど、土地もない、家も賃貸、道具も一から揃えなきゃいけない。さてどうするかと、やっと自分の頭で物事を考えるようになった気がします。

今思うと、自分は農業がしたいのか、田舎に行きたいのか、農業じゃなくても直接お客さんの相手をする小商い的な仕事をしたいのか、よく分かってなかったです。
悶々(もんもん)とする生活から逃げ出したいという気持ちが強かったのかもしれません。

ジャガイモの種イモを植える様子

農家研修は、「栽培技術」だけでなく「栽培哲学」を学ぶ場

──研修先の農家さんはどんな方でしたか?

私のような未熟な人間を温かく研修に迎えてくれ、時に叱咤(しった)してくれた農家さんにはとても感謝しています。また、独立してやっていくのは大変だと分かってきたこともあり、受け入れてくれた農家さんが野菜を育て販売し事業を継続していくことと、その事業を通じて思いを実現していくことをどちらも成り立たせているすごさを思い知りました。

その農家さんはその地域で古くから有機農業を行っている方で、農薬や化学肥料を使わないといった栽培だけでなく、地元のお店から出る「廃棄するには金銭的にも環境的にも負荷になるもの」、たとえば豆腐屋さんの余ってしまったおからなどもそうですが、そういうものを引き受けて堆肥づくりに利用するといった、地域や環境との有機的なつながりを大切にする方でした。

農作業をしながら、栽培技術や栽培哲学について学ぶだけでなく、地域の方々とどういった付き合いをしているのか、一人一人顔の見える相手にどんな気遣いをもって販売しているのか。思いが野菜作りや販売の一つ一つの細かい動作に表れている様を近くで見ることができたのは大きな収穫でした。

小さい農業組織でのサラリーマンとして

──これまでの働き方と変わった点などあれば教えてください。

研修で自分の未熟さを思い知り、「一人で独立してやっていくことは想像以上に難しい……、何かやり方を考えないと」と思っていた頃に、すでに農業を組織として行っていた小さな農園に声を掛けていただきました。

その企業は、野菜を育てるだけでなく、野菜作りを働きづらさを抱えた方の就労支援に生かすという仕事も行っています。体験農園や農業研修で、自分が農作業を行ったり、地域で有機的なつながりを得たりしたことで身体的にも精神的にも健康になりました。その経験もあり、農業と広い意味での福祉を組み合わせた仕事をしたいと思っていたので、そこで働かせてもらうことにしました。

──大企業にいたころとはずいぶん違う働き方を選択したんですね。今の働き方のどんなところにやりがいを感じていますか?

大企業に勤め、独立を考え研修に行った後、小さい農業系の組織に勤めた形になりますが、大企業と比べて全体の動きが見えやすいので、自分がやっている仕事がお客様にとって価値を生み出しているかどうかが分かりやすく、頑張る気にもなります。
また、業務の仕組みがすでに出来上がっており、それを回すという仕事の配分が少なく、お客様から新しく生まれた要望や生まれそうな要望に応えるために、仕事を新たに作るという配分が多いように感じます。大きい組織より自分の考えや動きが仕事に影響を及ぼしやすい点はプレッシャーにもなりますが、同時にやりがいにもなると感じています。

トラクターに乗って畑を耕すのも業務の一環

一方で独立とは違い、自分の考えと一緒に働く人の考えが違うと感じるときも出てきます。「違うのではないか」と思うことがあっても、代表や先輩のやり方に従っていると、あとから「あ、自分の考えの方が間違っていた」と思うことも多々ありました。もちろんただ従うだけでなく、自分の考えは述べるようにしていますし、それが受け入れてもらえることもあります。
意見が違うと、初めは生意気にも「なんだよ」と思うことが多かったのですが、だんだんと自分の考えを変容させられる妙な気持ちよさに目覚めてきました。また、やったことのない仕事を振られて、あれこれ考えて対応するうちに思ってもみなかったことができるようになることはとても面白いです。それを人は成長と呼ぶのかもしれませんが、ここが独立するのでは得づらい、チームで仕事をする小さい組織ならではのいいところだと思っています。

作ることと生きること

──農業への転職を考えている人にアドバイスがあればお願いします。

先行きの見えない社会になってきたと思います。そんな中で自分の手で食べ物を育てる力をつけること、どうやって食べるものが育つのかを知ることは不安をひとつ消してくれるかと思います。

自分で自分の食べる分を育てて生きていくことと、農業生産で作物を生産販売しお金を稼いで生きていくことは違います。まずは、仕事にするかどうかは置いておいて、週末菜園でも農家さんの手伝いに行くのでも、何かしら食料生産への関わりを持ち、どのような関わり方にするかを考えることをお勧めします。

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