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野菜セットは小規模農家の起爆剤【ゼロからはじめる独立農家#14】

西田 栄喜

ライター:

連載企画:ゼロからはじめる独立農家

野菜セットは小規模農家の起爆剤【ゼロからはじめる独立農家#14】

農家になって最初に実感したのは、「野菜はなんて安いんだ」ということ。大規模単作で機械的にすればメリットがあるのでしょうが、小さい農家だと機械化も簡単にはできません。ただ小さいからこそ少量多品種栽培が可能ですし、直売することで利益は最大限に生み出せます。そんな直売に向いているのが野菜セットです。野菜セットを販売して20年。よかったこと失敗したことなど包み隠さずお話しします。

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野菜セットの思わぬ効用

野菜セットのメリットは何といっても単価が高くなることです。セットといっても結局野菜の量は必要で結果的に単品販売と変わらないと思うかもしれませんが、内容をこちらで決めるので、畑と相談(豊作の野菜を多めに、不作の野菜を少なめになど)できますし、予約販売もできるので安心して栽培計画をたてることができます。

もちろん農家側の都合だけでは長く続きませんし、リピートしてもらえるような販売手段、販売場所など考える必要はあります(次回で具体的にお話しします)。そして野菜セットはセット単体にプラスαすることで最大限に活用できます。

実は私自身、当初野菜セットの販売は乗り気ではありませんでした。「漬物の原材料を育てる」というところからスタートした農業。野菜そのものを販売するより、加工した方が利益率が高いと思っていました。そんな私が野菜セットをはじめたのは、漬物をネット販売していく中で、野菜そのものを売ってほしいという声が出てきたからです。その時は野菜が豊富だったので、また収穫が忙しく加工する時間もなくなっていたので、とりあえずやってみることに。

当初、ホームページでの野菜セット販売のページアドレスはhttps://www.fuurai.jp/natuyasai(今は存在しないページ) 。つまり夏野菜の期間だけ販売すればいいと思っていました。しかし、ずっと出してほしいという声をたくさんいただいたのと、野菜セットの「ついで買い」で漬物の販売量が増えたこともあり、継続することにしました。今では菜園生活 風来(ふうらい)の看板商品となっています。

1.野菜とのセット

野菜セットにプラスしてギフトセットで販売。こちらも好評

その時思ったのは日本人はゼロから選ぶより、メインが決まっていて追加注文していくというスタイルが合っているということ。ハンバーガーで言うなら、「パンの種類は黒パンでハンバーグの焼き方はレアで、トッピングはアボカドとチーズ」というスタイルより、最初からダブルチーズバーガーや照り焼きチキンバーガーがあり、それにドリンクやポテトを追加する方が売り上げが伸びるんだと思いました。

風来の野菜セットは2500円、3000円、3500円(それぞれ税抜き・送料別)の3種類となっています。お客様に聞くと、最初はいくらのセットにするか悩むとのこと。しかし一度セットを購入すると決めたら、気軽に追加してくれます。いくら買っても送料は同じというのもあると思いますが、一回開いた財布のひもはゆるくなるというのでしょうか……野菜セット自体は2500円でも、ついでにと、ぬか床セット、漬物、またシフォンケーキなどの手作りお菓子などを追加してくれたりします。そのおかげで一回の単価が5000円超えることもしばしばです。野菜セットを500円単位で悩んでいたのがうそのようです。

つまり野菜セットを最大限に活用するには、野菜セットと一緒に送れるものを揃えておくのが非常に効果的です。ただ、自社サイトで販売する場合にはそういった追加品を揃えることができますが、ECサイト(ポケットマルシェなどの販売サービス)を利用する場合は1種類づつの販売になりますので、野菜セット単品を販売した上で「野菜セットとお米」のセットなども最初から用意しておくといいでしょう。

野菜を育てる能力とセットを組む能力は違う

野菜セットの内容はある程度農家が決められる、と先に書きました。ただ、あくまでも食べてもらう側のことを考えての上でなければなりません。こんな話をしたところ、ある人から「そうなんです、聞いてください。以前あるところ(風来ではありません)から野菜セットを購入したところ、中にピーマンとシシトウ、それにパプリカと伏見唐辛子(辛くない唐辛子で京野菜の一種)が入ってたことがあって、それからそこには注文しなくなりました」と言われました。

農家として売る側の気持ちは分かります。他のものが不作だったということもあるんでしょう、そして育てた側としてはピーマンもシシトウもパプリカも伏見唐辛子も別物だという気持ちはあるのだと思いますが、受け取る側は同じ系統の野菜ばかりで料理するバリエーションが限られてしまいます。

また良かれと思ってサービスで大根3本などを入れても、受け取る側としては迷惑になってしまいます。そして、長年野菜セットを販売してきて分かったのは、変わり野菜はなかなか受け入れられないということ。イタリアン野菜、エスニック野菜など飲食店では喜ばれることもありますが、個人宅では普段使いのものが喜ばれます。

風来でも今はスタンダードな野菜ばかりになりました。お楽しみとしてイタリアントマトや白ナスなど入れることはありますが、あくまでも調理の想像ができるものにしています。また市販されている野菜と比べてもらうと味の違いや新鮮さをアピールできるので、その点でも一般的な野菜をセットにした方が結果的に長続きすることを実感しています。

2.畑MAP

野菜セットに同封する手書きの畑MAP。現地の雰囲気もお届け

そして野菜セットを購入するのは、ほぼ主婦になります。 そのため1週間単位での献立を考えて、これがあるといいだろうなというものをチョイスして入れるようにしています。そんなことから野菜セットを組む時は、妻の助言を最大限に活用しています。

あとその人のこだわりにもよりますが、最初から不足分は仲間の野菜を仕入れて補う前提にしておくと気が楽になります。自分の畑の中だけでセットを組もうと品目を多く育てることで無理がかかり、収穫量も少なくなり、時間の余裕がなくなることもありました。無農薬なら無農薬といった自分の基準の中で、助けてもらえるものは助けてもらいましょう(もちろんそのことを販売時に表記しておくことは必要です)。風来では夏場はほぼ自前の畑で揃えることができていますが、冬場の根菜などは仲間から購入することもあります。

売り先を決めるのが先か、栽培技術が先かというのは農家の永遠のテーマですが、仲間に頼ってもいいんだと思うと、販売数を増やすことができます。仕入れ販売だと利益は少なくなりますが、売り先が確保できれば、あとは栽培技術を磨いていけばいい。自身で育てた野菜が増えれば増えるほど利益が増えます。そういった意味では野菜セットを販売するにはその前に仲間作りができてからがいいですね。

リピーターを獲得する

野菜セットのよさのひとつに、予約販売であることが挙げられます。夏場の実野菜は大きくなりすぎる前に収穫しなければなりませんが、根菜や冬場の白菜、キャベツなどは注文数だけ畑から収穫してくればよくなります。直売所などの店頭に並べて販売すると、売れ残ったものは引き取らなければなりません。そうすると価値はなくなります。生鮮品は畑に置いておくのが一番価値があります。それほど新鮮なものはありません。そのためにも野菜セットはコンスタントに注文が入っている形を取りたいところです。

そんな私が野菜セットを販売する中で何より大切にしてきたのは、リピートしてもらうということ。 バーテン時代、師匠であるマスターに教わったのは「仕事は『お客様のため』にではなく『お客様が“また”来てくれるため』にする」ということ。その味、その価格で満足して「また」来ていただく。それを考えることでロボットではできない独自の接客ができる。その教えを野菜セットにも生かしています。

3.バーテン時代

サービス業の基本を教わったバーテン時代

実際にリピートしてもらったり、定期便を活用してもらったりすることで、宣伝広報に時間や経費をかけなくても済みます。 具体的な取り組みとしては、風来では野菜セットの内容例を実際のセットより少な目に表示することにしています。受け取ったお客様の想像を超えるようにする、また畑MAPなど入れて畑の雰囲気を伝える、そういったことを大切にしています。

定期便を長く続けてもらうことでそのお客様の好みが分かりますし、甘えるわけではありませんが、万が一生鮮品が宅配業者のミスなどで輸送中にダメになった時も、次回多めにいれるなどで対応することができます(ネット販売で厳しいのは代替品の発送の輸送費だったりします)。お客様にとっては安定供給の安心感。農家にとっては安定需要があることで安心して野菜を育てることができます。野菜セットの考え方は農家それぞれですが、私は「かかりつけの農家」になるアイテムとして使えることが一番のメリットだと考えています。

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