ドラァグクイーン「ルルデイジー」 農業を続ける理由とこだわり

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ドラァグクイーン「ルルデイジー」 農業を続ける理由とこだわり

ドラァグクイーン「ルルデイジー」 農業を続ける理由とこだわり
最終更新日:2020年09月29日

和歌山県紀の川市で農薬や化学肥料を使わない有機農法で多品目の野菜を栽培している五風縁(ごふうえん)の石郷岡大助(いしごうおか・だいすけ)さん。実はドラァグクイーン、「ルルデイジー」としても活躍している。こだわりの農業経営方法や、2つの好きな仕事を続けられる理由などについて伺った。

宅配の契約ができるのは農業体験に来た人

石郷岡さんと収穫された夏野菜

石郷岡さんと収穫された夏野菜

五風縁を経営する石郷岡さんは、農業大学の社会人過程を修了してから就農2年目。ナス、オクラ、黒枝豆など30種類ほどの作物を無農薬で栽培している。親族や知人の後を継いだのではなく、ゼロから農業を始めた。では、どのように販路を開拓したのだろうか。

まず、規格品を出荷しなければいけないJAは無農薬栽培の農家としては厳しいと思ったため、最初は産直市場で販売したという。現在は産直市場で販売もしつつ宅配便での直売も行い、個人でマルシェを開催し仲の良い農家と一緒に出品するなど、新しい販路も開拓している。

宅配を注文したい消費者は、五風縁と定期購入の契約を結ぶ。しかし、現時点では誰に対してでも契約を結んでいるわけではない。

「現時点では一度農場に来てもらい、草むしりや収穫などの農業体験をしたお客さんを対象に宅配の契約をしています。農業体験会を開き、1回目は10人ほどの方に来てもらいました。次回からは5人くらいの方に対して体験会を開催する予定です。30人ほどの方に契約していただいた頃には、野菜への信用の土台ができていると思います。ですので、宅配のお客さんが30人を超えた頃に、フリーでの宅配受付も予定しています。」

無農薬栽培で育てられた作物は、スーパーに並ぶ野菜の見た目と違うこともある。そういった事情を何も知らずに注文することは、生産者にとっても消費者にとっても得策ではない。農園で生産されている野菜を分かってもらってから契約を結ぶのだ。

「自分の畑をさらけだして、こんな風に育てているのだなというのを消費者に体験してもらえば、それによってできた信用は間違いないものだと思います。どれだけ自分で発信していても独りよがりだなあって。案内したりする過程や時間をとるのは大変ですが、信用の土台がつくれるまでは続けていきたいですね」

実際の農業体験の様子

実際の農業体験の様子

農業体験に来る人はある程度農業について勉強してから来てくれる。農業そのものについてはもちろん、環境保全などについても知る機会にもなる。

基本的には農業体験に来る人イコール野菜宅配の契約者であるため、体験の際には収穫と出荷を手伝っている女性のスタッフも来て、農園に関わる人全員の顔が見えるようにしている。

「顔が見えることの良い点は、機械的にならないこと。野菜づくりが工業的になるのも好きじゃないですし、出荷に関しても‟注文が入ったら出荷、注文が入ったら出荷”の繰り返しはお客さんの顔も分からずにやると機械的に感じられます。けれど、買ってくれる人の顔が分かっていれば、ふとでも思い出せる。それに、エンドユーザーの方からしても野菜への考え方が変わってきますよね。これも信頼関係ができる理由のひとつです」

農業体験をしたお客さんは自分の目と手で石郷岡さんの野菜を理解し、信用する。信用しているものは人にも勧めやすいため、お客さんが身近な人に教えることで自然と野菜への信用が段々と広がる仕組みができている。

他にも独自の方法ではあるが、ときにはドラァグクイーンとしてステージでパフォーマンスをする日に、見に来てくれたお客さんに野菜セットを販売することもある。応援するファンの半分くらいの人が野菜の方にもついてきてくれるそうだ。
「ファンからの感想以外にもSNSのハッシュタグで広がる口コミもあり、認知される機会も増えています」

ドラァグクイーンが就農したワケとは

石郷岡さんはドラァグクイーン「ルルデイジー」として衣装づくりや全国のイベント出演や司会業を行う。ドラァグクイーンとは、女性らしい派手な服装や化粧でパフォーマンスをする文化・人のこと。「ルルデイジー」には自身が作成したTシャツが即完売するほど熱烈なファンが多くいる。なぜドラァグクイーンの活動を続けながら、就農しようと考えたのだろうか。

もともと健康志向が強く農業への興味もあったが、就農はおじいちゃんになってからで良いかなくらいの感覚だったという。しかし都会のマンションでは大量の衣装や生地の保管が難しくなり、広い作業場が必要となったため引っ越し先を探すことになった。和歌山県紀の川市に畑付きの条件に合った物件を偶然見つけ、持ち主に「畑も使っていいよ」と言われた。「ドラァグクイーンはいつまでも現場に出なければならず、人より感性が優れていないといけない。そういったセンスはいつか枯れる」と考えていたこともあり、40歳という節目で農業を始めることにした。

いざ始めてみると想像以上に楽しく、自分のつくった野菜はおいしく感じられた。最初は自給自足分だったが、これは他の人にも共有せねば!と使命感が出た。

その後、 まず農薬について知りたいという思いから農業大学の社会人課程で1年間学んだ。なぜ農薬について勉強したいと思ったのだろうか。
「都会に住んでいるときから農薬に苦手意識のようなものがありました。けれど、なにも知らないのに苦手意識を持つのもどうなのかなと思って。それに、買ってくださる人から自分の育てる作物について聞かれたときにキチンと答えられるようにしたかったんです」

石郷岡さんの圃場(ほじょう)。30種類ほどの多品目栽培

石郷岡さんの圃場(ほじょう)。30種類ほどの多品目栽培

石郷岡さんは農業大学で学んだうえで、農薬をつかった農業は工業的に感じられて自分には合わないと考え、無農薬栽培を選択した。

ここで言えるのは、自然農法と慣行農法のどちらが優れているかという話ではない。自分に合った農法の見つけ方だ。主観で判断せずに苦手意識のあるものに対しても学ぼうとする事で自身にとって最善の方法を選択する。そうすることで、就農後も「本当にこれで良かったのだろうか」という壁にあたっても乗り越えられる力になる。

実際に石郷岡さんもすべてが順調だったわけではない。同業者の中で無農薬栽培が受け入れられなかったり、1年目は虫に悩まされたりした。五風縁は、太陽光を遮光ネットでシャットアウトして直射日光を和らげたり、支柱を使ったりするなど自然にプラスアルファの工夫をした栽培方法だ。こういった農業資材や最初に豚ぷん堆肥(たいひ)を使うものの、あとはほとんど自然農法に近い。

自分の決めた農法で、農業に真摯(しんし)に向き合ううちにテレビや新聞などで取り上げられるようになり、最初は否定的だった生産者も「良い土に変わったな」「これ、本当に薬使ってないんか!?」と声をかけてくれるようになった。病害虫につていも、工夫の甲斐あってか今ではほとんど被害が無い。

石郷岡さんが育てたオクラ

石郷岡さんが育てたオクラ

好きなことを2つ続けられるワケ

農業を始めて一番良かったと感じることを尋ねると、
自分がきれいになっていくことかなあ。お客さんにおいしいと言われるのもうれしいですが、やっぱり一番は自分がすごく健康できれいであること!やっぱりドラァグクイーンはきれいでいなきゃっていう意識があります。農業を始めて自分がきれいになっていくのが目に見えて分かる。10歳くらい若返ったと思いますね!」と石郷岡さんは目をキラキラとさせて答えてくれた。

これはドラァグクイーンの活動が続けられる理由でもある。
「自分でつくった野菜は、自分に合った野菜でもある。だからすごく健康でいられます。健康だと活動時間がその分長くなるから、同じ24時間でも有意義に過ごせるんです。だから続けられているというのは間違いなくあります」

食を支える社会貢献、自分の作った農産物を人に食べてもらいたい、地域の農業を守りたいなど農業を続ける理由は十人十色さまざまだろう。石郷岡さんのように「自分の美や健康を高めるため」という自分に向けた視点のある理由もまた、農業を続けられる揺るがない原動力になり得る。

衣装づくりを3時間で完成させることも

衣装づくりを3時間で完成させることも

農家としての石郷岡さんは現時点で新しい事を3つ始めようとしている。そのうち2つは加工品だ。

農園の野菜や自然農法の野菜を使った、アイスクリームと顆粒スープ。できれば2021年には生産を始めるという。生産者の中には、少しの虫食いもクレームの対象になってしまうと悩んでいる人たちも多い。虫食いが少しでもある野菜は土に戻すケースがほとんどだ。そういった野菜を五風縁で買い取り、加工する。

3つ目は東南アジアでサツマイモ栽培をすること。夏と冬は海外でサツマイモづくりをして、春と秋は日本で農業をして拠点を2つにすることが今の目標だ。今の形での経営を軌道に乗せて、55歳以降に実現できればと考えている。

新しいことに挑戦していく石郷岡さん。この根底にあるパワーの源は「自分を高める」ということがあるのかもしれない。

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