鳥海山北山麓のまち、秋田県由利本荘市ってこんなところ
秋田県の南西部に位置する由利本荘市は南に秀峰・鳥海山、東に出羽丘陵がある山間地帯、子吉川流域地帯、日本海に面した海岸平野地帯の3地帯から構成されます。
気候を見ると、北国・秋田の中でも比較的温暖な地域ではあるものの、海岸部と山間部では気候条件が異なり、特に冬季においては積雪量に差があります。そのため、それぞれの気候条件を生かし、主力である米のほか、ブランド牛「秋田由利牛」、野菜、花き、果樹など多種多様な秀品農畜産物が育まれています。
そんな由利本荘市に農業の可能性を見出し、新たな特産品の創出を目指して奮闘する2人の若きファーマーがいます。彼らはなぜ、同市を就農場所に選んだのでしょう。その真意に迫ります。
全てはふるさとの風景を絶やさぬために。「ワイナリー」を由利本荘に!
勤務先の大阪からUターン就農をした豊島昴生(とよしま・こうせい)さんは高校まで米農家を営む由利本荘市矢島町の実家で過ごし、東京の大学に進学、就職をしました。ふるさとに戻ってきたのは2014年のことです。
「太陽の下で父の農作業を手伝っているうちに、心が晴々としていく感覚を覚えました。見渡す限りの田園風景は子供の頃から見てきたはずなのに、心からきれいだなって思いましたね」。
「米農家を継ごう」。そう決意した豊島さんは父に相談するも、「これからの時代は米だけでは食べていけないから新しいことをやれ」と思いがけない言葉をかけられたとのこと。米で収益を上げるには規模拡大が一般的な条件とされています。中山間地域にあたる矢島町では限界があることを見込んでの助言でした。
「近隣には高齢や後継者がいないことを理由に離農する人が増え、このままではふるさとの田園風景がいつか消えてしまうという不安にも駆られました。子供たちにこの景色を残し、つなげていく農業でなければならないと考えた末にたどり着いたのが『ブドウ』でした」。
ブドウを選んだ理由、それは「ワイナリー」という夢の実現のため。何を作るかを模索する中、新潟や長野のワイナリーによる地域活性化の事例にたどり着いたことが豊島さんの背中をさらに押すことになります。
「長野、山梨、北海道は今でこそ有名な国産ワインの産地ですが、最初は何もないところから始まっています。それなら秋田でもできるはず。何より、ワイナリーを中心に地域が賑わっていることに魅力を感じました」。
ワインには「六次産業化の可能性」があることも豊島さんの心を動かします。地元飲食店とのコラボ、交通機関やホテルなどと連携を図った観光ツーリズムの創出など、その多様性に光を見た豊島さんは、秋田県の果樹試験場で1年間研修を積んだ後、山梨県の醸造家に師事します。
「降水量が多く、日照時間も少ない、加えて豪雪地帯という矢島町はもしかすると日本一ワインづくりに向いていない土地かもしれません。でも、日本、世界を見ても矢島以上に過酷な条件下でワインを作り、成功している例がたくさんあります。夢の実現に向け、一歩一歩前進していくのみです」。
そう力強く話す豊島さんをバックアップするのは由利本荘市農業振興課をはじめとする関係機関です。由利本荘市では各種補助金の申請や給付事業などのワンストップ窓口となり、新規就農者を全力でサポートしています。
「秋田県由利本荘市にワイナリーを」。これこそが豊島さんが由利本荘で就農した理由。たわわに実ったブドウのように、その夢がかたちになるのは、もうまもなくです。
農家は“経営者”。経営感覚を身につけ、産地化を目指す
2020年に独立就農を果たした髙野直樹(たかの・なおき)さんもまた、Uターン就農したファーマーです。体を動かす仕事がしたいと神奈川県横浜市からふるさとへ出戻り、ネギの露地栽培を手掛けています。
「この地域は水稲栽培が主流ですが、農機の購入や保管先などの課題があります。そのため、初期投資が比較的かからず、なおかつ自分が好きな野菜を作ろうと思い、ネギを選びました」。
研修先の秋田県農業試験場では、ネギ栽培の技術や知識はもちろんのこと、「営農は経営者としての目線を持つことが大切」と学んだ髙野さんは、収益の安定を図るために露地栽培とハウス栽培による営農を決意します。
「もともと水田だった場所を畑に改良してネギを定植しました。水捌けが万全とは言えないので今年はほ場改良するための期間だと思っています。来年以降、しっかり収益に結び付けられるようデータを取り、経営の安定化を図ることが目標です」。
ハウスでは「パプリカ」と「スイスチャード」を栽培する予定という髙野さん。色鮮やかなこれらの西洋野菜を同市で栽培している農家はほとんどなく、オンリーワンを目指せることが選んだ理由です。
ハウスではパプリカ収穫後に冬苗ホウレンソウとスイスチャードを栽培。同じ施設で年間を通して栽培ができるため、費用、効率から見ても適していると、経営者としての頼もしい表情を見せてくれました。
「農家になることは経営者になることです。収益を上げるためには何が必要か、作物にはどんな土壌が適しているかを見極めることが重要。そのためにも実際に農地に足を運び、気候風土を肌で感じることが大切だと思います。作付け品目を決めたなら、やるべきタスクのチェックリストを作ってみるのもおすすめですよ」。
米農家が多い中、ネギ、パプリカ、スイスチャードという新たな品目で産地化を目指す髙野さん。その高い志はこれからの由利本荘市の農業をリードする存在になることでしょう。
目指す営農スタイルがきっと見つかる!由利本荘市「移住就農体験」とは
由利本荘市では職業として農業をやってみたい方を対象に、由利本荘市管内の紹介と農業を体験できる「移住就農体験」を行っています。由利本荘市管内の紹介や市内の代表的な農家等を訪問し、農作業の一部を体験することで営農に向け明確なビジョンを描くことを目指します。
「それぞれ特性が異なる1市7町が合併して誕生した由利本荘市には、さまざまな農作物や営農スタイルがあります。実際に体験し、自分に合った農業を見つけていただきたいと考えています」と、農林水産部農業振興課担い手支援班の松永俊幸(まつなが・としゆき)さん。豊島さん、髙野さん両名は、同市の手厚いサポート体制があったおかげで就農することができたと話します。
「研修中もこまめに気にかけていただき、さまざまな助言をいただきました。同期には県内外からの研修生がいましたが、由利本荘市の手厚さは軍を抜いていたと思います」(髙野さん)。
新規就農者が描くそれぞれの夢を全力でサポートする由利本荘市。まずは「移住就農体験」に参加し、目指す営農のビジョンを描いてみませんか?
《取材協力》
TOYOSHIMA FARM
『TOYOSHIMA FARM』HP
(現在、畑の見学は行っていません)
■問い合せ先■
秋田県由利本庄市 農林水産部 農業振興課
〒015-8501
秋田県由利本荘市尾崎17番地(本庁舎3階)電話:0184-24-6234
FAX:0184-22-5107
Email:nosui@city.yurihonjo.lg.jp
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