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100年先を見据えた農業者の育成を、コロナ禍で考える農業の未来

熊谷 拓也

ライター:

100年先を見据えた農業者の育成を、コロナ禍で考える農業の未来

新型コロナウイルスの感染拡大により、日常生活に大きな変化が見られた2020年。農業の現場においても、受け入れを予定していた外国人技能実習生が入国できなくなるなど、波紋が広がりました。政府は人手不足に悩む農業経営者などを支援しようと緊急支援策を打ち出しましたが、担い手不足の問題はコロナ以前からの日本の農業の懸案です。農業の裾野を広げ、未来を担う人材を育てるにはどうするべきか。「100年先を見据えた農業者の育成」を訴えているJA全青協(全国農協青年組織協議会)元会長の飯野芳彦(いいの・よしひこ)さんに話を聞きました。

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100年先を見据えて農業者を育てる

飯野芳彦さん

Zoomでのテレビ電話取材に応じる飯野芳彦さん

──新型コロナウイルスの農業への影響をどう見ていますか。

コロナで想像だにしなかったことが起きました。日本中の店先から一斉にマスクが消えましたよね。日本の使い捨てマスクの自給率はたったの一桁台で、ほとんどを輸入に頼っていました。今回、政府は予算を付けて慌てて増産しましたが、それは工業製品だったからできた話です。農産物だったらそうはいきません。

小麦や大豆は、国内消費の大半が輸入頼みです。もし仮に何らかの有事によって輸入がストップしたら一大事になるでしょう。せめて農地さえ維持していれば、転作することは可能です。野菜を作っていた場所で大豆を栽培するだとか。だからこそ、最低限守るべき農地は守っていかなければならないと、改めてそう感じました。

──飯野さんはコロナ以前から、100年先を見据えて農業者を育てる必要性を訴えています。

これから新たに農業を始める人たちへのメッセージというよりも、国の政策として100年先を見越して考えるべきだという提案です。そうでなければ、農業は確実に衰退していくでしょう。

100年というのは、農家で言うと、3世代に当たります。1代限りだと、向こう30年間をなんとか切り抜けようと、その場しのぎをしているうちに終わってしまいます。世代を超えて農地や技術をつないでいくことで、地域の農業を守るという価値観が生まれてくるわけです。

農業は一人ではできません。地域で協力する仕組みが必要だったからこそ、農協のような協同体組織が生まれてきたのだと思います。

──飯野さんは農場を経営していますが、研修生を受け入れていますか。

うちは研修生としてではなく、従業員として雇用しています。わたしの農場は埼玉県川越市にあり、広さ3.5ヘクタールの土地で野菜を育てています。自分と妻のほか、フルタイムの1人、パートタイムの7人で回しています。

未経験の人が農場で働き始めると、だいたい最初の3カ月はギャップに悩まされます。当然ですが、農業とは体を動かす仕事です。わたしたち農家にとっては当たり前のことですが、デスクワークに慣れた人には最初はこれがこたえます。

そしてそれだけではありません。体を動かすと同時に頭も使います。野菜は1個あたりの単価が安いので、人件費を回収できるだけの仕事をしてもらわなければ、赤字経営になってしまいます。生産性を向上させるために、生産の各工程には最適な機械を導入しています。しかし自然相手の農業においては、今でも人の感性と労働力が欠かせない工程があります。だからこそ農業の現場では労働生産性が問われます。

農に関わる選択肢はもっと多彩でいい

飯野さんと農園で働く従業員

飯野さんと農場で働く従業員たち

──フルタイムで働いている方は将来独立を考えているのでしょうか。

彼女は農業に興味を持ち、仕事をやめてうちに来ました。けれど独立するつもりはないようで、うちの農園で働き続けたいと言っています。わたしはそれでもいいと思っています。

国が支援する新規就農は、農業経営者を育てるという考えしかありません。だから新たに農業を始めようとした場合、全く違う職種への「転職」になってしまいます。これはかなり極端な選択肢だと思います。

さらには近年、農家の数が減少し、身内に農家がいるという人は少なくなってきました。農家についてよく知らない人が農業を始めようとすれば、余計にギャップは大きくなります。だから農業に関わるための選択肢がもっといろいろあっていいと思うんです。

たとえば、兼業農家も選択肢の一つです。おそらく水稲なら、夫婦2人で10町(約10ヘクタール)くらいはできるはずです。会社勤めをしていれば、十分食べていけるだけの稼ぎになるでしょう。果樹であれば、農繁期と農閑期がはっきり分かれています。この場合も、兼業なら収入が途切れることがないので、むしろその方が経営上のリスクが少なくなります。コロナにより大きく働き方が変化する中で、これからは兼業農家という選択肢も新規就農者に提案するべきだと思います。

現状の国の支援制度は専業農家になる場合を想定していて、白黒はっきりさせないといけません。でもそれでは、あまりに一足飛びすぎるんじゃないかと。大切なのは、農業に関わる人たちを少しずつでも確実に増やしていくことです。そのためには多様な選択肢を用意して、それらを支援する体制が必要だと思います。

──最後に、農業の魅力と今後の可能性について聞かせてください。

農業は「他力本願」ではなく、「自力本願」でないといけません。栽培技術が問われるだけに、自分を鍛錬することに面白さがあります。農業は覚えるものじゃなくて身につけるものですから。自分自身の成長を楽しみとして置き換えられるかどうかが大切です。

家族で三度三度食事を共にすることができるのも魅力だと思います。そして体を動かす仕事だから働ける時間は限られていて、定時に来て定時に帰る。それでも一日働けば、ヘロヘロですけどね。

農産物の需要に対する供給は不足している現状があります。これはつまり、作れば作っただけ売れるということです。気候変動による不作も関わっているので、経営者の手腕次第ではありますが、誰にでも成功のチャンスがあります。

農業労働力確保緊急支援事業 事業主支援情報

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