就農成功のカギは、地域との積極的なコミュニケーション
島根県浜田市の弥栄エリアは、信号機もコンビニエンスストアもない、山あいののどかな所です。株式会社小松ファームを経営する小松原 修さん(38)は、生まれ育った弥栄の地で有機農業による葉物野菜の生産に取り組んでいます。
小松原さんはいったん浜田市内の土木関係の会社に就職しましたが、「地元のことが大好きで、高齢化や過疎化が進む地元を何とかしたい」と弥栄で就農することにしました。島根県や旧弥栄村の支援を受けながら、地域の先輩農家のもとで2年半の農業研修を受け、2008年に自営就農します。
研修先も加盟していた『いわみ地方有機野菜の会 ※』に参加し、59棟の農業用ハウスでホウレンソウ、コマツナ、ミズナ、シュンギクなど葉物野菜を約10種類、更に原木シイタケなどを栽培し、主に首都圏を中心に全国へと出荷しています。
就農4年目からは研修生の受け入れを引き受けることになり、その中には小松ファームの従業員になった方もいるといいます。
「研修では自営就農か、雇用就農か、その方の就農希望に合わせ、実際に栽培や出荷作業を行いながら業務を覚えていただくのが基本です。研修期間は半年から1年程度なのですが、就農がうまくいくかどうかは1カ月もすれば、本人が主体的に動けるかどうかで見えてきます。もちろん栽培技術や経営ノウハウは重要なのですが、地域のコミュニティーに入っていけるかが、一番大切です。祭り、集会、草刈りなどの付き合いを通し、地域の人たちとしっかりコミュニケーションをとることが、就農を成功させる上ではとても重要なんです」と話す小松原さん。自身も地域との交流を大切にしています。
これからの目標について伺ったところ―「弥栄エリアで農業に取り組む方が一人でも増えてくれたら…Iターンの方も歓迎ですが、特にUターンで多くの方が弥栄に戻って来てくれることが一番の目標です。そのためにも、ここで、農業で稼げるんだ…子育てが出来るんだ…というモデルを私自身が示していきたいと思っています」と力強く語ってくれました。
※いわみ地方有機野菜の会=島根県西部の石見地方に位置する浜田市・江津市で有機農業に取り組む生産者グループ
丁寧なヒアリングと事前の現地見学で、ベストなマッチングを
「実は、地元の先進農家で研修を受ける『浜田市ふるさと農業研修育成事業』は、ここ弥栄エリアが発祥の就農支援制度なんです。1998年に旧弥栄村で研修制度がスタートし、2005年に浜田、金城、旭、三隅、弥栄の各市町村が合併したことにより、浜田市の制度となり、市内全域に広がっています」と教えてくれたのは、浜田市弥栄支所の曽我 彰さん。
弥栄エリアは農業が盛んで、高齢化や過疎化に対する危機感が高く、古くから圃場整備や集落営農に力を入れてきました。いち早く研修制度を整え、農地も農業がやりやすい環境に整えられているのも、その歩みの賜物です。
「今も時代に合わせた再圃場整備事業を進めています。これからの弥栄エリアの営農スタイルを模索し、水稲中心の集落営農と有機野菜農家の方々が地域の核として農地と地域を守っています。実際に弥栄エリアに来ていただき、ここで営まれている農業を見ていただくとともに、地域についてもしっかりと見てもらった上で、興味を持ってもらえればうれしいですね」と曽我さん。
浜田市では、弥栄エリアに限らず、現地見学と丁寧な相談活動で就農希望者と就農エリアのマッチングに力を入れています。
「まずは就農希望者のやりたい農業や考えをお聞きし、現地見学を通し、コメや野菜、果樹やシイタケなど、さまざまな作物に触れ、研修先の候補を絞った後、2~3日程度の短期研修を経て、本格的な研修に入るというステップを踏んでいただきます」と話すのは、浜田市農林業支援センターの川邊 純さんです。
曽我さんと川邊さんは、「十分なやる気とある程度のビジョンがあれば、全力でサポートします」と就農希望者に心強いメッセージを送ります。
本気で独立を目指すなら、単作作物だと3年間の研修がお勧め
次に、金城エリアの株式会社藤若農産を訪ねました。標高が高い金城エリアは、昼夜の寒暖差が大きいことからブドウ作りなどに適しています。
同地で栽培と農業機械の作業受託を行う藤若将浩さん(46)は、22haの水稲を中心に、37aの農業用ハウスでブドウや野菜を栽培しています。建設業に2年ほど携わった後、「人間が食べるものを作っていれば、間違いない」という先輩の声に背中を押されて家業でもあった農業の道へ。現在、就農19年目で、これまでに受け入れた農業研修生は4人、うち2人が独立を果たしています。
「研修を希望される方には『独立するなら3年間は頑張って』と話しています。水稲やブドウのように1年に1回しか収穫できない作物の場合、私自身の経験では、1年目は無我夢中で、2年目から『去年はこうだったな』ということが、だんだんと分かってきます。3年目になるとやっと余裕ができて、自分なりに応用ができるようになるんです」と、優しく微笑む藤若さん。
『浜田市ふるさと農業研修育成事業』による1年間の研修期間を終えても、条件によっては国の農業次世代人材投資事業の準備型(年間150万円・最長2年間)や、経営開始型(年間150万円・最長5年間)を活用することで助成を受けることが可能です。
藤若さんは、農業の新しい担い手育成に今後も力を入れ、地域をともに支えてくれる仲間作りをサポートしたい、と抱負を語ります―「そうしないと農業は続かないし、地域も存続ができないと思います。うちで田んぼアートなどの米作りの体験交流を行っているのも、若い世代の方に農業に関心を持ってもらうための一環です。これからは機械化やIT化なども視野に入れながら、もっと楽しい農業を目指していきたいですね」
大阪からIターン。浜田市でブドウ農家に
藤若さんの所で研修を受け、金城エリアで自営就農を果たした西川 正恒さん(41)にも話を聞きました。
「働きすぎて35歳のときに体を壊し、サラリーマンを辞めました。私は大阪府の出身なのですが、母方の実家が鳥取県で、田んぼや畑などは帰省する際に目にしており、農業には漠然とした憧れがありました。療養中に就農関係のイベントに参加したところ、どのブースよりも熱意が伝わってきたのが浜田市だったんです」とIターン就農の経緯を話す西川さん。
2日間で15軒の農家を回った現地見学で、最もひかれたのが藤若農産でのブドウ作りだった、と振り返ります。
「最初に社長から『地域を好きになってもらわないと就農は難しいよ』とアドバイスをいただけたのも、とても良かったと思います。町内会の集まりや運動会など、自分にできることは全部手伝うようにしました」と西川さん。
師匠と仰ぐ藤若さんの言葉通り、3年かけて独立までの準備を行い、金城エリアの農業団地に圃場を確保して独立。待望の初収穫に喜びを感じながら、今はとても健やかな毎日を過ごしている、といい笑顔。
「本音で話せる師匠をはじめ、人にもとても恵まれたので、これからはその恩返しをしていきたいですね」と西川さん。ブドウ生産者の協議会では、仲間づくりのリーダーとして産地ツアーを企画するなど、金城エリアの認知拡大や人を呼び込む活動にも積極的に取り組んでいます。
浜田市では、このような研修先農家を整備し、熱意のある方を地域が一体となって応援する体制を作っています。
就農支援策はもちろん、定住や子育てなどでもさまざまな支援制度が設けられているので、「農業を仕事にしたい」と本気で考えている方は、島根県浜田市の情報をチェックし、現地を訪ねてみてはいかがでしょうか?
お問い合わせ
浜田市農林業支援センター
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