UIJターンとは?
UIJターンとは、Uターン、Iターン、Jターンの総称で、東京や大阪などの大都市圏から地方に移住することです。都市を離れた地方での生活に魅力を感じている人が増えているといわれるなか、注目されています。地方で暮らしたり、転職したりすることにどんなメリットがあるのでしょうか。自治体ではどんな支援策を行っているのでしょうか。UIJターンの魅力についてご紹介します。
Uターンとは
地方から進学や就職などで都市に移住した人が、再び生まれ育った地域に戻ることを指します。
Iターンとは
都市部に生まれ育った人が、地方に移住することを指します。
Jターンとは
進学や就職で地方から都市に移住した後、生まれ育った地域に近い地方都市に移住することを指します。
UIJターンのメリット
地方で暮らすことには都市の生活とは違う良さがあります。UIJターンならではのメリットと併せてまとめました。
さまざまな支援が利用できる
起業支援金と移住支援金
東京一極集中の是正と地方の担い手不足対策のため、UIJターンでの起業者や転職者を対象にした、自治体単位で支援する取り組みです。住んでいる地域で起業する人も対象です。
起業支援金は地域の課題に取り組む「社会的起業」を支援します。「社会性」「事業性」「必要性」などが求められ、最大200万円が支援されます。
移住支援金は地域の重要な中小企業等への就業や、社会的起業をする移住者を対象に支援します。支援金は最大100万円、単身の場合は最大60万円となります。
そのため、地方へ移住して社会的事業を起業した場合は、起業支援金と移住支援金のそれぞれの対象となり、最大で300万円、単身の場合は最大260万円の支援を受けることが可能です。
就職活動などのための交通費や宿泊費の支援
自治体によっては、県外の大学生・専門学校生、または転職希望者を対象に、就職活動等やインターンシップ参加のための交通費や宿泊費を助成する制度もあります。都市から地方への移住時にかかる費用の補助を行っている自治体もあります。ほかにも移住後の家賃の一部の補助や、住宅や空き家バンクの利用を優先的に紹介してくれるなど、さまざまな支援策があります。
物価や住居費が安い
地方は物価が安く、家賃などの住居費も都市部よりも低い傾向にあります。この点が地方移住の大きな魅力の一つです。
総務省の2018年の「小売物価統計調査(構造編)」によると、物価水準が最も高いのは東京都、次に神奈川県となっています。最も低いのは宮崎県で、東京都の物価水準に比べて8.8%低くなっています。都市別に見ると、特に高いのが神奈川県川崎市、東京都区部、横浜市の順でした。

総務省「小売物価統計調査(構造編)」(2018年)をもとに編集部作成
さらに差が大きいのが住居費です。最も高い東京都は、最も低い愛媛県の1.61倍になっています。地方に移住することで住居費が安くなることはもちろん、家賃補助などの支援の対象になればさらに負担が抑えられます。
通勤が快適
東京や大阪などの大都市圏で生活している人の多くが、通勤通学には電車を利用していますが、満員電車に揺られるのが日常です。国土交通省の2017年の調査によると、電車の混雑率の平均は東京圏が163%、名古屋圏が131%、大阪圏が125%といずれも100%を超えています。
一方、地方では大都市圏ほどの公共交通機関の混雑は見られません。都市に比べると、通勤に自動車を利用することも多いため、移住することで満員電車から解放され、快適な通勤ライフを手にすることができます。
子育ての環境が整っている
都市に比べて豊かな自然や、空気や水がきれいなことなど環境面でも子育て世代には大きな魅力です。
都市部で問題となっている保育園の待機児童の増加も、地方ではそれほど深刻ではありません。待機児童の増加は特に都市部でその傾向が顕著で、厚生労働省の2019年の調査によると、首都圏(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)と近畿圏(大阪府、京都府、兵庫県)の7都府県と、その他の指定都市や中核市で、全待機児童の63.3%を占めています。地方の方がより保育園に預けやすい環境が整っており、子育てと仕事の両立がしやすいといえるでしょう。
より良いワークライフバランスが実現できる
ワークライフバランスとは「仕事と生活の調和」の意味で、生活の充実によって仕事の質と効率が良くなり、さらに生活の質が向上する好循環を指します。仕事と生活がそれぞれ良い影響を及ぼし合いながら相乗効果を生みだすことがワークライフバランスなのです。
たとえば通勤に要する時間。総務省が2016年に全国の通勤・通学時間(片道・10歳以上)を調査した結果によると、最も長いのが神奈川県で52.5分、次いで千葉県が51分、埼玉県が48分、東京都が47分で、首都圏の通勤・通学時間が長い傾向が顕著でした。一方最も短いのが大分県の28.5分、次いで鹿児島・島根・秋田・青森県がともに29分となっています。
大都市圏に比べて、地方は職住近接であることがわかります。通勤によるストレスが軽減されるのはもちろん、時間的なゆとりが生まれ、家族と過ごしたり、趣味などを充実させたりすることで生活の質を向上させながら、仕事に取り組めます。地方で暮らすことで、より良いワークライフバランスを実現しやすい環境を手にすることができるといえるでしょう。
UIJターンのデメリット
地方で暮らすことで、都市に比べて不便に感じることもあります。どんなデメリットがあるかをまとめました。
収入のダウン
東京や大阪などの大都市圏に比べると、地方は給与が少ない傾向にあります。厚生労働省の2019年の調査によると、平均月収が最も高かった都道府県は東京都の37.9万円で、全国平均の30.7万円を大きく上回っています。2位は神奈川県、3位は大阪府です。
一方で東北や九州・沖縄のほとんどが平均月収25万円前後と、関東に比べて低くなっています。ただしその分、物価や住居費などの生活コストが都市ほどかからないという利点もあります。
求人が少ない
都市部と比較すると、地方には会社の数が少なく、事業規模も小さく、職種も限られているのが現状です。これまで培ってきたキャリアを生かした就職先が必ずしも見つかるとは限りません。特に大企業は大都市に本社を置いていることが多いため、事業規模を優先にして職探しをしてしまうと就職先を決めるのがより困難になってしまいます。
地方の中小企業は人材を確保するために、移住者を積極的に受け入れていることも多くなっています。未経験の仕事でも前向きに取り組む意欲があるならばチャンスは広がっていくでしょう。
都会的な楽しみが少ない
地方では近隣に娯楽施設が少ない場合が多く、コンサートや演劇、美術館や映画館などの文化的な刺激も大都市に比べると少ないのが実情です。一方で豊かな自然環境に恵まれている地方であれば、アウトドアのレジャーを充実させることができます。都会的な娯楽だけにこだわらずに地方での楽しみ方を満喫することが大切です。
UIJターンの取り組み例
自治体で行われているさまざまなUIJターンの取り組みや支援をご紹介します。詳細については各自治体のホームページや問い合わせ窓口などで確認してください。
熊本県
求人・求職支援サイト「熊本仕事いいねっと」を運営。県内でUIJターン就職を希望する人に、UIJターン就職支援アドバイザーがマッチングのサポートをしてくれます。UIJターン登録を行うと、求人・求職情報をサイト上に公開している県内の企業やNPO法人などの団体とサイトを通じて自由に情報交換ができます。東京、大阪、福岡、熊本に窓口があります。
北海道
東京都、埼玉県、千葉県及び神奈川県に在住し(対象外地域あり)、一定の期間東京23区内に通勤していた実績がある人のうち、北海道が開設しているマッチングサイトに掲載されている移住支援金対象法人に就業した人に、移住支援金が支給されます。
大分県
県内企業へのUIJターン就職を希望している人や県内への就職を考えている人を対象とした「大分県UIJターン希望者面接支援補助金」があります。これは現在の住まいと最終面接予定地の最寄り駅との往復交通費の実費と、1泊分の宿泊費の実費のそれぞれ2分の1を上限とした額が支給されるものです。
県内企業のインターンシップに参加する大分県外の学生を対象にした「大分県内企業インターンシップ支援補助金」もあります。現在の住まいとインターンシップ実施企業の最寄り駅との往復交通費の実費と、最大5泊分の宿泊費の実費のそれぞれ2分の1を上限とした額が支給されます。
大阪府
大都市である大阪にも、東京など他の大都市圏からのUIJターンはあります。年齢や状況を問わず、仕事を探しているすべての人が利用できる就業支援拠点「OSAKAしごとフィールド」が2013年にオープン。大阪へのUIJターンの情報も充実しています。
宮崎県
宮崎県への移住を考えている県外の人を対象に、無料会員制度「宮崎ひなた移住倶楽部」を開設。レンタカー、引っ越し料金、賃貸住宅仲介手数料などが割り引かれるほか、移住に便利な特典サービスも受けられます。
富山県
社会人採用に意欲的な県内企業が集う「とやま移住・転職フェア」の開催や、UIJターン就職情報サイト「とやまUターンガイド」による県内企業とのマッチングや就職関連イベントの情報提供、就職セミナーや就活女子応援カフェなど就職関連イベントの開催などを行っています。
また、UIJターン就職を促進するため、早稲田大学をはじめとする複数の大学と就職支援協定を締結しました。理工系・薬学部生を対象に学生時代に借りた奨学金を返還するための助成制度にも取り組んでいます。
青森県
青森県東京事務所内の「あおもりUIJターン就職支援センター」で就職相談を行っています。さらに、移住・就業で最大100万円を支給する「あおもり移住支援事業」や、県外の大学生や転職希望者に県内での就職活動やインターンシップ参加の交通費や宿泊費が助成される「青森県UIJターン還流促進交通費助成事業」などの支援策も充実しています。
交通費と宿泊費が一体となったパック型旅行商品も助成の対象です。
UIJターン歓迎の就職先の探し方
地方での就職先はどのように探せばいいのかをまとめました。
求人サイトやハローワークをチェック
最も一般的な就職先の探し方として、求人サイトや自治体の移住専用サイトにある求人情報がおすすめです。最近は大都市のハローワークもUIJターンの求人情報に力を入れていますので、こまめにチェックするといいでしょう。
リモートワーク中心の働き方を模索する
ビデオ通話やチャットなどのリモートワークの普及により、自宅やレンタルオフィスなど会社以外でも働きやすい時代になりました。企業もオフィス以外での勤務に一定の理解を示しています。もし勤務先にそういった制度があれば、キャリアをそのまま生かして、働くことができます。地方に移住してリモートワーク中心で仕事をし、必要に応じて都心に出向くといった働き方が可能かどうかを相談してみるのもよいでしょう。
地域おこし協力隊で働く
1年以上3年以下の期間、地方自治体の委嘱を受け都市部から来た人たちが「地域おこし協力隊員」として地方に移住し、地域の問題解決や発展のための活動を行う制度です。期間中は一定の給与が支払われます。任期終了後にその地域に定住する人も少なくありません。職種は農業や水産業、林業、観光業、保育、教育、食品加工などのほかに、空き家コーディネーター、重要文化財を守る活動や地域活性化を行うスタッフなど多種多様な人材が求められています。
UIJターンで新しいライフスタイルを模索しよう
少し前までは、地方に移住することは都市でのすべての生活をリセットしてゼロから始めるというイメージがありました。しかしインターネットが発達した今、リモートワークなどを利用することで、職種によっては地方に拠点を置きながら都市部の企業で働くことも可能です。
また、地方の側も“人材の奪い合いになっている”という指摘があるほど、担い手としての新しい人材を求めています。そのために、移住前の体験ツアーをオーダーメード型にして各個人のニーズに合わせて組み立てたり、移住を考えている人がお試し的に移住体験できるようにしたりと、さまざまな試みも行われています。
自身の培ってきたスキルを生かしながら、どんなUIJターンが可能なのか、そして移住先でどんな生活をしたいのか、理想のライフスタイルをUIJターンで実現しましょう。
取材協力:TURNS(ターンズ)