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【まるごと新規就農】借金なしの就農、その内幕は くらうんふぁーむ・渡邉泰典さんの場合

連載企画:まるごと新規就農

【まるごと新規就農】借金なしの就農、その内幕は くらうんふぁーむ・渡邉泰典さんの場合

就農までにかかる時間、作物選びに土地選び、初期投資にいくらかかるのかなど、何かと不安の多い新規就農。連載「まるごと新規就農」では、新規就農を経験した先輩方の就農体験を徹底分析、その全容を余す所なくお伝えします。今回は、大学を中退し、2015年に20万円を手に東京から宮崎県へと移住した渡邉泰典さん。当初から「無借金」を決めていたという渡邉さんの就農体験とは…?

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就農の経緯は

一年間の研修後、2016年に「くらうんふぁーむ」を設立して、イチゴ農家として現在3年目を迎える渡邉さん。大学3年の夏、サークル活動で出会った宮崎県日南市北郷町に一目ぼれし、東京の大学を中退して移住。「畑で自分を表現できる」という魅力から農業を始めました。

移住を決めてから、実際に移住するまでに半年、その後1年の研修を経て独立就農にこぎつけました。軍資金20万円のみで移住してきたという渡邉さんの就農体験には、経費をかけずに農業を始めるためのヒントが盛りだくさんです。

(参考)
軍資金20万円、無借金でIターン就農 若きイチゴ農家の名案とは

「借金なし」の就農 人当りの良さと地域の人脈生きる

1.半年かけ悩みぬいた作物選定

北郷町で農業をすると決めてから、作物の選定には半年をかけました。
当初は生産者のまだ少ない「ニッチな作物を作ろうと思っていた」という渡邉さん。贈答用になる果物を中心に幅広く考えたといいます。

まず思いついたのはアボカド。インターネット検索で栽培している農家を探し、和歌山まで見学に赴いたこともあるそうです。しかし実際に話を聞いてみると、自分には生計がたちそうにないという判断に。ブドウなど北郷町での栽培例があまりない作物も候補から外しました。

露地野菜も候補に入れ検討を重ねて悩みぬいた結果、イチゴを栽培する決め手は2つあるそうです。一つは、北郷町で最初に出会ったいちご農家さんの背中に一目惚れしたこと。もう一つは、イチゴの根茎部分の「クラウン」という呼び名が、バルーンアートや皿まわしが特技という渡邉さんにとって道化師を意味する「クラウン」という言葉と重なったから。
「『これはイチゴに呼ばれているな』と、直感です(笑)。作物をイチゴに決めたのは、移住の2か月前でした」。

移住後は、「北郷町で最初に出会った農家」でもある「師匠」の元で、一年間の研修を受けました。そもそも農業とは何かという基本から作物の健康状態の見方、栽培におけるスケジュール管理まで、一から学んだそうです。

2.人脈使って土地探し、周りに助けられた新生活

学生時代に北郷町には何度も通い、人との出会いも移住の決め手となった渡邉さんは、「不動産屋が存在しない」という北郷町での家探しも、先輩農家さんに依頼しました。
「月一万円で」という条件で見つかった一軒家はガスなし風呂なしでしたが、「家の前の川で水浴びでもすればいいか」と動じず契約。

実際生活を始めると、「隣のおじいちゃん」がお風呂を借してくれて、食事もおじいちゃんと一緒にとったり、近所の人がおかずをおすそ分けしてくれたり。周りの人に助けられました。研修中は、農業次世代人材投資資金(準備型)を受けつつこの家に住み続け、独立を機に家賃2万5千円のガス・風呂付き一軒家に引っ越しました。

3.移住3日前にプロポーズ 「地方のチャンス」を提示

移住を伴う新規就農で、外せないのが家族の説得。渡邉さんには、移住の3日前にプロポーズした相手がいました。今では妻となった茜さんが日南市に移住してきて2017年に結婚、翌年には子どもも誕生しました。

子供も誕生し、今は家族3人に

「『2年後に来てよ』という話はしていたものの、都会育ちで東京で就職していた彼女は友人たちや職場から離れる不安はあったと思います」。

渡邉さんはあえて「地方にはこんなチャンスもあるよ」といいことも大変なことも含めて伝えていたといいます。
「正直にいろんな話をして、判断材料をあげたという感じです。僕が呼び寄せたというより、『茜ちゃんが来たいって言ったんでしょ?』と言いたかったので(笑)」。

4.初期投資にはクラウドファンディングを活用

渡邉さんは就農を決めた時から、「借金はしない」と決めていたそうです。
「隣のおじいちゃん」など多くの人に生活を助けられ、農業次世代人材投資資金(準備型・150万円)を受けた1年の研修後には120万円が手元に残っていました。これに、クラウドファンディングで呼びかけた援助資金80万円を加え、イチゴ栽培のための設備を買いそろえました。

トラクターは「隣の隣のおじいちゃん」に借りている

大きな初期投資としては、中古の農業用ハウス(10aの4連棟と35mの単棟を一つずつ)と倉庫に25万円、修繕に70万円、電照設備の電気工事に30万円。約30アールの土地は借りました。また、畝立て機は師匠のイチゴ農家に、また、トラクターは「隣のおじいちゃん」に借りています。その他、くわやスコップ、インパクトドライバー、苗代などもかかりました。

5.初年度から直販に挑戦

「初年度は技術の習得に精一杯」と考え、全量市場出荷をしようと考えていました。しかし、実際に12月からイチゴの出荷が始まると、「自分の名前で売れないことが面白くなくて」。
日南市内のスーパーなどに販路を見つけ、翌1月から直売を開始しました。現在ではクラウドファンディングで支援してくれた人を中心に県外にも販売し、スーパー5割、軒先販売3割、県外2割の割合で販売しているそうです。

6.地域に馴染むために

農園開設の初日もピエロの格好で迎えた

持ち前の人当りの良さに加え、消防団など地域の活動にも積極的に関わってきた渡邉さん。バルーンアートや皿まわしといったパフォーマンスが得意と知れると、地域の敬老会や子供会などで引っ張りだこになったとか。

「様々なコミュニティに所属して『風船の子』『イチゴの渡邉くん』『消防の渡邉くん』などたくさんの名前をいただき、それによって地域に馴染んでいったように思います」。
さらに、渡邉さんがイチゴ作りの研修を受けた「師匠」が移住者だったことも大きいといいます。「作業スケジュールや作物の見方といった技術面だけでなく、地域の人との付き合い方も学ばせてもらいました」。

これから就農を考える方にアドバイス

渡邉さんから、新規就農を考える人にアドバイスが一つ。
「就農当初は栽培で手いっぱいになりますが、お金の流れの記録はちゃんととっておいた方がいいです。僕は手が回らなくて『後でやろう』と後回しにし、結局わからなくなって困ったので…」。

2019年春に3作目を迎え、一年の栽培スケジュール感が身に付いたという渡邉さんは、さらなる安定経営のために取り組んでいるそうです。
「農業次世代人材投資資金が切れるまであと2年。今年は、農業だけで十分な収入を得るための、基盤を作る一年にしたいと思っています」。
昨年度拡大した7アールのハウスに加え、今年度は30アールのハウスを買いました。パートさんも雇用して規模の拡大に取り組んでいく予定です。

▼妻・茜さんの4コマを掲載したブログも更新中。
\4コマ/宮崎に移住したイチゴ農家のヨメ日記

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