コロナ禍で試合ができない! 女子プロレスラーと農業との関わりは?

橋本選手インスタグラムより
新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)防止を目的とした全国的な緊急事態宣言が出されたのは2020年4月16日でした。全国各地でスポーツなどのイベントが中止になり、関係者たちが窮地に立たされる様子を報道で目にした人も多いでしょう。
宮城県仙台市を中心に活動する女子プロレス団体、センダイガールズプロレスリング(以下、仙女<せんじょ>)も、コロナ禍で大きな打撃を受けたスポーツ団体の一つです。
4・5月の興行(プロレスの試合)は全て中止になり、収入が完全に途絶えることになりました。
収入がなければ、所属しているプロレスラーの給料はもちろん、寮で暮らしている練習生の食費も賄うことができなくなります。そんな窮地を救った、女子プロレスラーと地元の農業に関わる人々の活動について取材しました。
センダイガールズプロレスリング(仙女)
2005年に設立、2006年に旗上げした宮城県仙台市を本拠地とする女子プロレス団体。2018年に法人化。
宮城県から世界に向けて「女性の強さ」を発信している。

橋本選手インスタグラムより
お話を伺った人

里村選手インスタグラムより
■里村明衣子(さとむら・めいこ)さん
センダイガールズプロレスリング株式会社代表取締役、現役レスラー。
■株式会社五十嵐商会
1909年設立、クボタ農業機械の販売等を手がける。
米の販売、レストランの経営なども含め、農業に関する総合的なサービスを行う。
以前から仙女をサポートしている。
窮地を救ったのは地元の農機具販売会社との関係
コロナ禍により、収入源と活動の場を失っていたセンダイガールズプロレスリング。代表の里村さんは、以前からとあるプロジェクトを通じて親交のあった地元の農機具販売会社の五十嵐商会に、自分たちが働けるところはないかと相談したのです。
まさに、半農半プロレス。
いきなりプロレス×農業ではない。布石があった!
実は、仙女が農業に取り組むのはこれが初めてではありませんでした。彼女たちは2018年から五十嵐商会と協力して彼女たち自身が米作りを行う「農姫米(のうひめまい)」プロジェクトを実施しています。

写真提供:株式会社五十嵐商会
この農姫米プロジェクトは「宮城県のお米のおいしさを伝えたい」「東日本大震災で塩害などの被害を受けた農地の復興を後押ししたい」と、仙女と歌手のティーナ・カリーナさんが発案し、五十嵐商会とその懇意にしている農家との協力の下でスタートした事業です。
農姫米はすでに仙台市のふるさと納税の返礼品にもなっていて、県内にとどまらず県外でも徐々に知名度を獲得しています。
「女子プロレスラーが生産に携わる」と聞くと、どういうイメージを持つでしょうか。
人によっては
「いやいや、田植えと収穫の時だけちょっと行って、機械に乗って終わりでしょ?」
と思うのではないでしょうか。しかし、仙女さんは違うんです。
苗運びやあぜ刈り、販促イベントまで全てこなします。

橋本選手インスタグラムより

センダイガールズプロレスリング公式ブログより
五十嵐商会の担当者は「大切なお客様と農業に真摯(しんし)に向き合ってくださるのがわかりました。力がすごいな、元気をもらえる、と農家さんも喜ばれていたのが印象的です」と話します。
結果として、耕作面積1.3ヘクタールで始めたプロジェクトは現在県内4カ所、約4ヘクタールまで広がっています。
ここで農家の人たちや五十嵐商会からの信頼を得、地元の農業の活性化に関わっていたことが、今回のコロナによる苦境のさなか、農業に活路を見出すことにつながったのです。
コロナ禍のなか仙女から相談を受けた五十嵐商会は、コメ農家だけではなく野菜・花卉(かき)農家なども紹介したそう。
「農姫米プロジェクトで、仙女さんの方々が失礼なくきちんとやってくださるということがわかっていたので、他の農家さんを不安なく紹介することができました」とのこと。

センダイガールズプロレスリング公式ブログより
なぜ農業を選んだ? 女子プロレスラーへの変化は?

橋本選手インスタグラムより
こうした経緯を受けて、コロナ禍で収入がほぼゼロになった仙女は農業に活路を見出しました。
しかし「収入を得る手段」は農業以外にもあったはずです。なぜあえて農業を選んだのか、そこにはプロレスラーならではの理由がありました。
プロレスラーの中には、中学を卒業してすぐに団体へ入門する人も少なくありません。入門後は毎日のように練習し、そして試合。生活は寮で共同生活、というケースも多いため「社会的な視野が狭くなってしまう」という危惧を里村さんは抱いていました。
これを踏まえると、農業は
- 多様な年齢の人との交流が生まれ、いろんな価値観に触れられる
- 他者との共同作業を通して社会性を培える
- 「体が資本」のレスラーが「食物を生産する」ことで食への感謝の気持ちを養える
という利点があると感じているそう。

橋本選手インスタグラムより
また「団体意識」という点では、2011年の東日本大震災当時のことを例に挙げて語ってくれました。

橋本選手インスタグラムより
また、仙女の選手を受け入れている農家の一人、岩佐さんは「力があるので力仕事は特に頼りになる。一生懸命で元気な姿を見ると自分も元気になる」と答えてくれました。
「同じ釜の飯を食った仲間」
という言葉がありますが、仙女にとっては
「同じコメを作った仲間」
が団体の絆を、レスラーを強くするキーワードなのかもしれません。
農業が地域を、プロレスラーを強くする

DASH・チサコ選手インスタグラムより
五十嵐商会、農家の人たちとタッグを組んだ仙女は双方の協力を得ながら、コロナ禍の最も大変な時期を農業で乗り切ることができました。
また、農姫米プロジェクトは順調に耕作面積を広げ復興支援の一助になっています。
さらには、農姫米と同様に関係者とタッグを組んでイチゴの生産・販売をする「農姫いちご」のプロジェクトも立ち上がっており、仙女の存在感がさらに高まっています。
インタビューでは、里村さんの「地域の方々に助けていただき、育てていただいている。恩返しの意味でも、農業は続けていきたい」という言葉が印象的でした。
レスラー達が農業を通して団体の絆を深め個人としての成長を実感する一方で、懸命なレスラーを見て刺激を受ける人、励みになる人、復興する田があります。
農業がただ食糧生産としてだけではなく、互いを支え、強め合う側面を垣間見ることができた取材でした。