再生エネルギーで描く農業の持続的発展モデル
化石燃料や原子力に代わるエネルギーの自給自足に向けて、日本の農村部では再生可能エネルギーの利用促進に活路が見出そうとしています。一方、地域経済を支える農業は担い手不足による耕作放棄地の増加、台風や地震などの自然災害によって継続の危機にさらされています。
「営農型太陽光発電は、現在使用されていない耕作放棄地を再生させ、農業が抱える問題を一挙両得に解決する手段です」と話すのは、ノウチエナジー代表理事の酒本道雄さんです。営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)は、耕作地の上部に太陽光パネルを設置し、その下で農業を継続しながら発電した電力を自家消費する仕組み。同法人では、これを全国に普及させることを目的に活動しています。
自然災害による非常時、地域を救う電力になる
茨城県笠間市の株式会社田中鶏卵では、近年頻発する台風など非常時の対策として営農型太陽光発電の導入を決めました。きっかけは2019年7月に関東地方を襲った台風15号。これによる停電で、同業者が甚大な被害に遭ったのを目の当たりにしました。

株式会社田中養鶏での設置図
成鶏12万羽を飼育し、毎日約7tの卵を出荷する同社では、鶏舎の換気扇、給餌、給水などに1日97kwhの安定的な電力が必要。特に夏場の停電となった場合は致命的で、空調が止まると鶏舎内は70℃近い高温に達し、成鶏は熱中症で全滅します。
東日本大震災後、自家発電設備として小型発電機を導入しましたが、換気扇、給水、給餌を同時に行うには電力が足りません。また、燃料の軽油を買おうにもガソリンスタンドには長蛇の列ができ、すぐには買えない状態が長く続きました。

導入を決めたきっかけを話す田中さん
「燃料を必要とせずに永久的に電力を作り続けられるだけでなく、営農型は地域を包括した複合的なメリットがあります」と代表取締役の田中紘一さん。ノウチエナジーの酒本さんにコンサルティングを依頼して計画を進めています。鶏舎と隣接した耕作放棄地を取得して太陽光パネルを設置して発電した電力はすべて鶏舎の電気設備へ供給。年間の光熱費約450万円を削減し、パネルの下で育てた野菜を鶏の餌にして卵の品質向上とブランド化を目指します。
このシステムには、田中さんのたっての希望で非常用電源が繋がれます。停電時、近隣住民に携帯電話などの充電に利用してもらうためです。
「多少なりとも地域に恩返しができたら」と田中さん。設計は株式会社マッキンエナジージャパン(大阪市)が担当。本件は、営農型再生可能エネルギー発電自家利用モデル構築事業に応募、環境・エネルギー、自然災害、農業の高次化などの課題に取り組み、地域の持続的発展に貢献するモデルケースになると期待されています。
【問い合わせ先】
一般社団法人 ノウチエナジー
岡山市南区新保1318-1
TEL:086-239-0015 FAX:086-243-3086
E-MAIL:info@nochi-energy.org
【取材協力】
株式会社 田中鶏卵
茨城県笠間市池野辺637
TEL:0296-72-8657
このほか、太陽光発電に関しては以下のような商材も。
株式会社マッキンエナジージャパンが開発した太陽光発電付き農業ハウス(スマートハウス)。作物に必要な太陽光を妨げることのない透過型のモジュールを採用しており、非常時のレジリエンス対応で完全自家消費型パワコン、遠隔監視システムなどがパッケージ化されています。
自家消費や余剰売電によって「スマートハウス」のコストを早めに償却し、本来の農業収入で安定した経営を目指す上でも有用。環境的、経済的な観点からも導入のメリットは大きいと言えるでしょう。