市場ニーズに応えるコメ作りを支える
「科学的栽培」
現在、人口減少やライフスタイルの変化によりコメの消費量が下落傾向にある中で、消費形態も年々変化し続けています。この流れをいち早くつかみ対策を講じてきたのが、大手米卸である株式会社ヤマタネです。コメの生産基盤縮小と消費減少の同時進行を10年前から予測し、米卸として考えたのが、「求められるコメを産地と一緒に作っていこう」という思いでした。
近年、共働き世帯の増加や消費人口の高齢化などの要因から簡便な食生活が着目される中で、おコメに対するニーズの変化を捉えた同社は、家庭用ブランド米に固執せず、市場が求める食味のよい多収穫米の生産、市場ニーズに応える「マーケットイン型農業」に挑戦し、結果につなげています。
当初、ヤマタネから全量買取を前提とした栽培提案を受けた産地は、「JA秋田ふるさと」と「JA新みやぎ栗っこ営農部」です。選ばれた品種は、食味が良く多収性に優れた「萌えみのり」。しかし、多収栽培の知見が十分でなかったことから、栽培知見を体系的に集約することが急務となりました。
そこで、2016年に導入されたのが、ソフトバンクの農業IoTソリューション『e-kakashi(イーカカシ)』です。環境データ取得にとどまらず、栽培記録、気象データなどの情報とあわせて、生育段階ごとに必要な生長要因や生長の阻害要因をAIが分析し、直面するリスクや対応すべき最善策を『ekレシピ(栽培ナビゲーション)』が常時ナビゲートします。
「新しい品種を安心して生産してもらう上で、科学的な根拠に基づきながら、生産者と同じ目線でコミュニケーションできるパートナーだと実感しました」(株式会社ヤマタネ 芳賀俊親さん)
「見える化」の先へ。
データ解析し、改善策をフィードバック
JA新みやぎ栗っこ 米穀生産支援課 課長 佐藤和哉さんが特に評価しているのが、『e-kakashi』の温度管理機能です。「コメは一年一作ですから、秋の収穫期に向けて最大の成果を得るため、一年を通して地温・水温・気温の管理は大変重要なのですが、従来は肌感覚でやっていたのが実情です。
『e-kakashi』導入後は、自動的に計測した温度データをもとに、『ekレシピ』から水温管理の作業指示や病害虫発生リスクに対するアラートがリアルタイムで届きます。精度の高いデータ管理と利便性の両面を実感しています」
従来の農業IoTサービスがデータ取得にとどまっていた一方で、『e-kakashi』ユーザーは、収集した環境データをもとに、作業を進めたり、今後の対応策について検討できるのが大きな特長です。
「ソフトバンクが、こうしたデータ分析や改善策をユーザーにフィードバックできるのは、植物科学に関する深い知見を有し、農業現場の課題にも精通する農業情報学を専門とする博士が所属するからです。私たちが科学的にデータ分析をした上で、現場の生産者にも理解しやすい説明を加えながらフィードバックを行っています」
そう語るのは、『e-kakashi』事業責任者であり、博士号を有する戸上崇さんです。戸上さんをはじめとする専門家の存在は、まさに、ソフトバンクならではの強みと言えます。
開発速度の早さは、
農業課題解決に対する本気度の現れ
〝チーム萌えみのり〞の中核を成す複数のJA、ヤマタネ、ソフトバンクは、定期的にワークショップを開催し、生産現場からの要望や直面している課題を汲み上げて、情報共有する取り組みを継続しています。前回のワークショップで、JA秋田ふるさとの営農指導員 山脇康文さんから、特有の課題である、いもち病の発生時期予測の要望が出されました。これを受けてソフトバンクは、この機能を追加した『ekレシピ』のテスト版を早急に提示し、運用を開始する方向です。
「現場で本当に使えるものをスピーディに提示する迅速な対応こそ、何よりも重要です。ワークショップで出た課題を解決するために常に考えているのは、より使いやすく改善し、少しでも早くリリースすること。農業課題を解決したい。IoTの活用を社会貢献に結びつけたい。開発速度へのこだわりは、ソフトバンクの本気度の現れでもあります」(戸上さん)
「科学的栽培」は、
日本の農業課題解決への道標
「消費者の変化や市場ニーズを捉える〝チーム萌えみのり〞の取り組みは、単にブランド米を作って売ればよいというプロダクトアウトの意識を科学的に変革することにつながりました」と語るのは、JA秋田ふるさと営農経済部米穀課の高階崇之さんです。同時に、科学的な根拠に基づいた栽培技術は安定生産を確立し、マーケットイン型農業の実現に寄与しています。
「萌えみのり栽培の確立は、私たちと生産者だけでは難しかったと思います。日々の質問や要求に対し、常にアドバイスやサポートしてくれたソフトバンクの存在は大きいですね」(JA新みやぎ栗っこ 佐藤さん)
農業を取り巻く状況は刻々と変化しています。この状況変化に柔軟に対応する最適解は、現状を把握するデータを収集し、分析結果に基づいた改善サイクルを継続する中で導き出されるものかもしれません。科学的栽培の確立と相通じるところがあると言えます。
産地の垣根を越えて〝強い農業〞を目指すその時に、『e-kakashi』から得たデータや知見が共通言語となる。この姿こそ「農業とIoTの理想形」であり、日本の農業課題を解決する道標と言えるのではないでしょうか。
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農業IoTソリューション『e-kakashi』
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