坪枯れの被害をもたらすトビイロウンカとは
ウンカは体長5ミリほどの小さなセミのような形をした虫で、口吻(こうふん)と呼ばれる口針をイネの茎に刺し、師管液を吸い取って生きています。田んぼに発生するウンカは主に2種類、セジロウンカとトビイロウンカです。セジロウンカは夏に多く発生するため夏ウンカと呼ばれ、トビイロウンカは秋ごろに多く発生するため秋ウンカと呼ばれています。今回全国で坪枯れと呼ばれる被害を起こしているのは秋に発生するトビイロウンカ。今回はこのトビイロウンカの生態やその対策についてご紹介します。
トビイロウンカの生態と大量発生のメカニズム
トビイロウンカはイネだけをエサとしているため、冬にイネが無くなる日本では越冬できません。ではどこからやってくるかというと、毎年春先に、一年を通してイネを栽培しているベトナムから中国南部へウンカが移動し、その後の梅雨時期にジェット気流に乗って日本に飛来するようです。
梅雨時期にやってきたトビイロウンカはごくわずかですが、繁殖力が強く、1カ月で世代交代を繰り返しながら増殖していきます。3世代目となる秋ごろには爆発的に数が増えていることがあるため、数が増えたトビイロウンカがイネの養分を集中的に吸うことで、田んぼの一部が円形状にまとまって枯死、倒伏してしまう「坪枯れ」の被害が発生しやすくなります。
今年特にトビイロウンカによる被害が大きかった理由として、農研機構は「今年は例年に比べて、早い時期から飛来が始まったこと、飛来が複数回あったこと、飛来してくるウンカの量が多かったことが、多発生になった主な要因と考える」としています。
トビイロウンカの対処法
トビイロウンカへの対処方法に関して農研機構は、「ウンカの被害リスクが高い地域では、予防的防除として、トビイロウンカに効果の高い育苗箱施用剤を使用することがもっとも効果的」としています。
この育苗箱施用剤は苗の段階で使用し、有効成分をイネに吸わせ、その汁をウンカが吸うことで殺虫する仕組みで、ウンカ対策に最も効果的で労力のかからない方法として推奨されているそうです。しかし育苗箱施用剤の効果は移植から1~2カ月で、それ以降にトビイロウンカが増えた場合は、本田に殺虫剤を散布して防除する必要があるそう。育苗箱施用剤を使ってさえいれば防げるようなものではなく、場合によっては殺虫剤も併用が必要なようです。その際、「いくつかの殺虫剤に対してトビイロウンカが抵抗性を持っているので、効果の高い剤を適切に選択する必要がある」とのこと。
また、効果があるとされている殺虫剤でも、トビイロウンカの数が既にかなり増えてしまっている状態では、その被害を完全に抑えることはできないようです。特にトビイロウンカはイネの株元で多く発生するため、イネが成長して葉が茂った状態では、殺虫剤が株元に届きにくくなります。そのため早期にトビイロウンカの発生状況を把握することがウンカの被害を防ぐためにとても大切になっており、農研機構は「各県の病害虫防除所が提供する本田防除適期の情報に従って、早め早めの防除対策が必要」とコメントしています。
農家個人でできる効果的な対策法
農研機構からのコメントにもあるように、トビイロウンカへの対策は、田んぼでのウンカの発生状況を的確に把握し、早めに被害を予測して対応することが大切になります。
実は僕の父も鹿児島で4ヘクタールほどの米作りをしており、自分で田んぼの中に入ってウンカの発生状況を調べることで、トビイロウンカへの対策が必要かどうか、必要な場合いつ対策を行うかを判断しています。そうすることによって今まで坪枯れによる大きな被害はほとんどないそうです。県の病害虫防除所からの情報も参考にしていますが、自分でも実際に調査を行うことで的確な被害のタイミングや規模の予測ができるとのこと。そのポイントを聞いてきましたのでご紹介したいと思います。
飛来した日を記録しておく
まず大事なのが、田んぼにウンカが飛来した日を記録しておくことだそうです。地域によって異なりますが、6月下旬〜7月上旬ごろの飛来が多いようです。各県の病害虫防除所などでもその地域へのウンカの飛来情報を確かめることはできますが、田んぼごとに異なりますので自分で実際にイネを観察していつ飛来してきたかを確かめておくとより正確に対処できます。
3世代目の幼虫の数を調べる
トビイロウンカの被害が最も大きくなるのが3世代目の幼虫が発生する時期になります。成虫よりも幼虫の方が体を大きくする必要があるので、食べる量が多いのでしょう。そのためこの3世代目の幼虫の数が多いか少ないかを調べることが、坪枯れの被害が大きくなりそうかどうかを予見するためには大切になります。
トビイロウンカは気温によっても異なりますが、約30日で世代交代をします。そのため田んぼへの飛来日が分かればそこから計算することで、3世代目の幼虫の発生時期を予想できます。ウンカは飛来してすぐに産卵し、卵は約1週間でふ化するので、飛来日から2カ月と1週間経った頃にふ化したウンカがどれくらいいるかを調べます。
この調査をするために父は、虫見板と呼ばれる下敷きのようなものを使っています。イネの株元をパンパンパンとはたいてこの虫見板の上にウンカを落とします。これを田んぼの中で5カ所くらい行い、幼虫がどの程度増えているかを確かめます。1株あたり20〜30匹以上ウンカがいるようであれば要注意だそうです。収穫まで1週間ほどの段階であれば早めに収穫してしまいますが、まだ2週間以上かかりそうであれば早急に対策を行います。逆に1株あたり数匹程度であれば対策しなくても大丈夫なようです。
ちなみに父は無農薬でのウンカ対策をしていますので、これも合わせてご紹介したいと思います。まず用意するものが食用油の廃油です。この廃油を10アールあたり2リットルほどを目安に田んぼに満遍なく垂らしていきます。こうすることで田んぼ一面に薄い油膜を張るのです。新鮮な油だと油膜が広がらずにまとまってしまうため廃油が良いそうです。この後にブロアーという送風する機械を使ってイネについているウンカをはたき落としていきます。ブロアーがない場合は竹竿などでも良いようです。こうすることで油膜に落ちたウンカは呼吸できなくなり窒息する、という方法です。殺虫剤ではなく無農薬でウンカ対策を行う場合はぜひ参考にしてください。
ウンカの観察を行い、効果的な対策を
農研機構は「日本国内のトビイロウンカ発生を早い段階で予測することは極めて難しく、来年も同じように多く発生するかどうかは今の段階では分からない」としつつも、「最近の動向をみると、多発生する頻度が徐々に多くなっているといえるので、今後もリスクは高い」とコメントしています。ウンカ対策はこれさえしていれば大丈夫というものはないようですので、それぞれの現場で実際のウンカの発生状況や増加の仕方を観察し、的確に被害の予想や対処を行うことが求められていくのではないでしょうか。
取材協力:農研機構九州沖縄農業研究センター