「農業は閉鎖的」と言うのはアンフェア
新規就農について語るとき、よく「農業の閉鎖性」ということが言われる。農村社会の閉鎖性と言い換えてもいい。他の地域から来て就農した人が感じる、地域に溶け込む難しさのことだ。営農から近所付き合いまで、地域の一員として認めてもらうためのハードルの高さを感じる人は少なくない。
だがはたしてそれは、農業だけに言えることだろうか。
最近は、ある企業の従業員の多くが、ほかの会社で経験を積んだ転職組というケースも珍しくなくなった。とくにベンチャー企業などではごく当たり前のことだろう。雇用の流動化はかつてと比べ、着実に進みつつある。
だが「大手」と言われるような企業の多くは、中途採用ではなく、生え抜きが社員のほとんどを占める状態がずっと続いてきた。働き手の確保を、新卒の採用に頼ってきたのはその象徴だ。
「失われた30年」などと言われた平成時代を通して雇用慣行が変わり、ほかで専門的なスキルを積んだ人材が求められることが格段に増えた。背景には、これまでのやり方が通じなくなったことへの危機感がある。
農業に必要な人材がテーマの記事を、他産業の話から書き始めたのは、「農業は閉鎖的」という言い方はアンフェアだと思ってきたからだ。新卒ばかりで固めてきた企業組織も、生き残りをかけて変わろうとしている。同じように担い手不足に直面する農業も、新たな人材を求めている。そしていずれの場合も、別の組織や地域から新たに加わる人は、新天地の事情を理解するなど溶け込むための努力が必要になるだろう。
ここまでは、農業について公平に語るための前置きだ。それを踏まえて話を先に進めると、農業には解決しなければならない大きな課題がある。組織運営だ。事業規模を大きくするために従業員を雇い、法人化した農家は多くある。だがそれは、組織的な運営の第一歩に過ぎない。
農業法人の経営、なぜ引き継ぎがうまくいかないのか
知人の40代の農家で、数年前にやっと経営を切り盛りするようになった人がいる。それまでは祖父がすべてを決めていた。父親が農業にあまり熱心でないため、一代飛ばして彼が営農を采配するようになった。そうでなければ、彼が経営の前面に立つのはずっと先のことになっていただろう。
問題は家族の中で経営をバトンタッチする難しさを、法人化した後も抱え込んだままでいる例が多い点にある。農林水産省は法人化を後押ししてきたが、政策だけでは解決できない難題だ。
息子が一定の年齢になったので、農業法人の社長の座を譲って会長に退くケースがある。将来を考えれば、早く経営手腕を身につけてもらったほうがいいと考えるからだ。ここまでなら、理想的と言えなくもないだろう。
よくあるのは、自分は会長になったはずなのに、社長である息子をさしおいて社員に指示を出し続けてしまう例だ。いったいどちらの指示に従えばいいのか。社員たちは当然そう戸惑う。息子をサポートするため、よかれと思ってやっているのだろうが、長期的にはマイナスの影響のほうが大きい。