災害にも負けない田んぼに大改造、収穫しやすくする独自の方法とは

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災害にも負けない田んぼに大改造、収穫しやすくする独自の方法とは

連載企画:農業経営のヒント

災害にも負けない田んぼに大改造、収穫しやすくする独自の方法とは
最終更新日:2020年11月13日

さまざまな自然災害で、農業が深刻な被害を受けることが多くなっている。大型台風もその一つ。とくに稲作は台風が上陸する時期と収穫期が重なるため、大きなリスクに直面している。台風にどう対処すべきなのか。沼南ファーム(千葉県柏市)の橋本英介(はしもと・えいすけ)さんに聞いた。

経営の効率化を実現するも、予期せぬ損害

沼南ファームは栽培面積が114ヘクタール。1年前と比べ、6ヘクタール増えた。稲作の有力な担い手と地域で認められており、規模は今後も大きくなり続ける見通しだ。200ヘクタールに達することも視野に入っている。
順調に規模を拡大する一方で、売り方はここ数年で大きく変わった。変化の一つは、農協への出荷が始まったことだ。以前は地元の飲食店や病院、直売所、コメ卸などに自ら売っていたため、農協とは疎遠だった。
ところが2、3年前に農協から「播種(はしゅ)前契約でコメを売ってほしい」という話が来た。買い入れるコメの量と値段を、その年の作付け前に決めておく取引方法だ。大型の農業法人から安定的に調達したいという農協のニーズが背景にある。沼南ファームの農協向け出荷は現在、1割近くを占める。
もう一つの変化は「フレコン」という袋を使い、1トン単位で出荷する設備を2019年に導入したことだ。以前は紙袋に30キロずつ入れて出荷していた。フレコンの導入により、コメを乾燥させ、袋詰めして出荷するまでを担当するスタッフの人数を、5人から2人に減らすことができた。

沼南ファームが販売しているコメ

沼南ファームが販売しているコメ

2019年は経営効率を抜本的に高める年になるはずだった。ところが収穫と出荷が中盤にさしかかっていたころに、予想していなかった規模の災害が効率化の効果を吹き飛ばした。9月に千葉県を直撃した台風15号だ。
千葉県各地に甚大な被害をもたらしたこの台風の影響で、沼南ファームにも「かつて経験したことのないことが起きた」(橋本さん)。とくに損害を被ったのが飼料米だ。飼料米は収量が多いため、主力のコメと比べて茎が太い。そこで台風が来ることを見越し、風で倒れにくい飼料米が収穫の後半に回るように作付けしていた。だが15号の影響は想定をはるかに上回った。
橋本さんは台風が去ってしばらくして、異変に気づいたという。本来は青々としているはずの茎が、くすんだ色に変わっていたのだ。海水を含んだ風による塩害だ。稲が枯れてしまったことはわかっていたが、コンバインで収穫しようとしてみた。すると、もみが脱粒して田んぼにぽろぽろ落ちた。
その結果、飼料米の収量ががくんと減った。多いときで0.1ヘクタール当たり700キロを超す多収品種の収量が、被害の深刻な田んぼでは半分に減った。橋本さんによると、損害額は200万円を超えたという。
同じことがこれからも起きる可能性は十分にある。2020年は台風被害をいかに防ぐかが課題になった。

フレコンにコメを入れる機械

フレコンにコメを入れるための機械

収穫しやすい田んぼにする方法とは

台風の被害を防ぐため、橋本さんが目指したのは、稲刈りの期間を短くすることだ。沼南ファームは例年、8月20日ごろに収穫を始め、10月上旬に終える。日数は約50日。2020年は40日に短縮することを目標にした。台風が頻繁に発生するようになる前に、収穫を終了させるのが狙いだ。
そのために取り組んだのが、できるだけ機械で作業しやすいような田んぼに作り変えておくことだった。重要なのは、田んぼの区画を大きくすることだ。例えば隣接している0.2ヘクタールの2枚の田んぼの間のあぜをなくし、0.4ヘクタールの1枚の田んぼにする。「合筆」と呼ばれる作業だ。
田んぼの区画が大きくなれば、コンバインが直線で走ることのできる距離が伸び、効率が高まる。その積み重ねは、収穫期間を短くすることにつながる。2020年は、5ヘクタール分の田んぼを合筆して作付けに臨んだ。

合筆で区画を大きくするのが課題

合筆で田んぼの区画を大きくするのが課題

もう一つ手がけたのが、細かい穴の開いたパイプを田んぼの下に通し、排水性を高めることだ。地下に埋めてあり見えないため、ふつう「暗渠(あんきょ)」と呼ばれている。とくに湿田で必要な設備だ。
もし水が十分に抜けきらず、ぬかるんだ田んぼで稲刈りをすれば、機械が泥にはまって動けなくなる恐れがある。沼南ファームは大型の機械を使っているため、そのリスクはいっそう大きくなる。2020年に新たに敷いた暗渠は3キロメートルで、約2ヘクタールの田んぼの水はけを改善した。
合筆も暗渠の敷設も、ここ数年進めてきたことだ。2020年はその成果を踏まえ、9月いっぱいで稲刈りを終えることを目指した。だが、この年も天候不順が収穫期間を短くすることを阻んだ。7月の長雨による日照不足だ。
十分に光合成できなかったことの影響は、茎が十分に太くならないまま伸びてしまうという形で表れた。茎が細い状態で穂をつけると、重さに耐えきれずに倒伏する。その面積は主力の品種のコシヒカリで30ヘクタールに及んだ。
倒れていても機械で収穫することはできるが、効率は当然落ちる。穂が倒れた方向からしか、収穫することができないからだ。通常と比べ、ペースは半分以下。全体の収穫を終えたのは、前年と同じ10月上旬だった。

田んぼに埋めて暗渠を作るためのパイプ

田んぼに埋めて暗渠を作るためのパイプ

きめ細かな気遣いで田んぼを拡大

稲刈りの期間を縮めることができなかったことで、収穫しやすい田んぼに変えるという目標には近づけなかったように見えるかもしれない。だが、田んぼを使いやすいようにする努力はけして無駄にはなっていない。
沼南ファームは面積が80ヘクタールだった5、6年前も収穫に50日かかっていた。面積が30ヘクタール以上増えた今も収穫期間が延びずにすんでいるのは、田んぼの整備を着実に進めてきた結果だ。天候不順が常態化しているとはいえ、もしもう少し気象条件が良ければ短縮は可能だっただろう。
最後に、橋本さんが自分のやっている仕事を何と呼んでいるかに触れておこう。答えは稲作ではなく、「ライスセンター業」。ライスセンターは収穫したコメを乾燥させ、もみ殻を取り、袋に詰め、貯蔵しておく施設を指す。この施設を地権者の要望に応える形で運用することで、規模を拡大してきた。
例えば、地権者たちに地代として渡すコメは、機械の中で他のコメと混ざらないように配慮する。自分の所有する田んぼで取れたコメを食べることを、地権者が望んでいるからだ。それを自社のトラックを使い、個別に配送する。

ライスセンターにあるコメの乾燥機

ライスセンターにあるコメの乾燥機

現金を振り込むのと比べ、当然コストはかさむ。だが、そうしたきめ細かい気遣いをすることで、沼南ファームは田んぼを集めてきた。橋本さんの言葉を借りれば、「ライスセンター業は地権者のためのサービス業」でもある。
だが沼南ファームはいまや面積が100ヘクタールを超え、さらに200ヘクタールを視野に入れようとしている。同じ品種のコメなのに田んぼを地権者ごとに区別し、個別に地代のコメを運ぶようなやり方をいつまでも続けるのは難しい。
このことは、地権者がかつて自分でコメを作っていたことへのこだわりと関係がある。農作業の経験がない人へと世代が変わり、こだわりが薄れれば、現金を振り込むことへの理解も得やすくなる。そうなれば、収穫期間の短縮にも弾みがつく。地権者の異なる田んぼでも合筆しやすくなるからだ。
高齢農家の引退による農地の流動化と、担い手への集約が農業の構造変化のきっかけだとすれば、地権者の世代交代はそれを加速させるための起爆剤になる。それがどんなペースで進むかが、自然災害への備えも左右するだろう。

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「食と農」の現場を日々取材する記者が、田畑、流通、スマート農業、人気レストランなどからこれからの農業経営のヒントを探ります。
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