収量4割減でも黒字、コストをおさえる効率経営と災害対策で挑む「次の進化」

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収量4割減でも黒字、コストをおさえる効率経営と災害対策で挑む「次の進化」

連載企画:農業経営のヒント

収量4割減でも黒字、コストをおさえる効率経営と災害対策で挑む「次の進化」
最終更新日:2020年11月18日

大きな自然災害が毎年のように襲うようになったことで、これまで合理的だと考えられていた農業経営も見直しを迫られている。茨城県龍ケ崎市で稲作を営む横田農場もその一つ。収穫期間を長く延ばすことで効率を高めているのが同社の特徴だが、その分、台風の被害を受けやすくなった。どうやって災害のリスクを減らそうとしているのか。横田修一(よこた・しゅういち)さんに聞いた。

田植え機もコンバインも1台で大規模経営をこなす

横田農場は現在、栽培面積が160ヘクタール。2019年と比べると10ヘクタール増えた。地域で数少ない稲作の担い手として、引退する高齢農家の田んぼの受け皿になっており、2021年も10ヘクタールほど増える見通しだ。
経営の最大の特徴は日本の稲作の平均をはるかに上回る大規模経営にもかかわらず、田植え機とコンバインを1台ずつでこなしている点にある。使う機械が1台なのでその分、スタッフの人数を絞ることもできる。
それを可能にしているのが作期の分散だ。10種類のコメを作ることで田植えと稲刈りの期間をそれぞれ2カ月に延ばし、機械の数を増やさずに規模を拡大し続けている。
年々増える田んぼのどこにどの品種を植え、どの田んぼから栽培を始めるかを決めるのは簡単なことではない。横田農場は品種特性や田んぼの条件などを見ながら綿密な計画を立てることでそれを実現し、効率を高めてきた。

コンバイン

コンバイン1台で160ヘクタールをこなす

2019年はこうして組み立ててきた栽培計画を、見直すためのきっかけの年になった。9月に関東各地を襲った台風15号をはじめとし、この年は大型の台風がいくつも日本に上陸し、栽培ハウスの損壊など農業に深刻な被害をもたらした。横田農場もその例外ではなかった。

稲作の場合、台風の被害は多岐にわたる。早い時期に風で倒されると、穂が十分に実らなくなる。実り始めてから倒伏すると、発芽してしまう恐れがある。茎が強い品種だと、倒伏は免れても強風でモミが田に落ちてしまうことがある。収穫にこぎ着けても、生育不良でモミの中が空っぽのケースもある。
横田さんによると、「2019年は台風で想定される被害のすべてが起きた」という。その結果、収穫量は予定していた分の6割にとどまった。横田農場は大面積をこなすために日々の作業計画がびっしり詰まっているため、一つの作業が遅れると、後に続く作業に次々に影響してしまうという側面もある。

かつてない被害の大きさを前に、横田さんは赤字を覚悟したという。ところが決算を締めてみると、十分に利益が出ていた。横田さんは「うちより面積が4割少ない農場と、同じコストで経営できているということだと思う」と話す。2019年は横田農場の効率の高さを確認できた年でもあったのだ。
だからと言って、もうやるべきことはないと満足しているわけでは当然ない。2020年は台風に備え、さまざまな新しいことにチャレンジした。

横田農場のライスセンター

横田農場のライスセンター

災害が起きても収量を確保する数々の工夫とは

台風の被害を防ぐため、2020年に横田さんが打った手の一つが、「できるだけ早く収穫すること」。コンバインは依然として1台のため、収穫期間を縮めるのは難しいが、前半に収穫する量を多くするよう工夫した。
そのために着目したのが、1枚の田んぼの大きさだ。横田農場は0.1ヘクタール強から1ヘクタール以上までさまざまな大きさの田んぼがある。区画が大きい田んぼほど作業効率が高く、1日に収穫できる量が多い。
収穫期間は8月下旬から10月下旬まで。これまでは、収穫時期が遅い品種ほど区画の大きい田んぼに植えるようにしていた。後になるほど日が短くなるため、素早く収穫する必要があるからだ。
これに対し、2020年は逆に早い時期に収穫する品種ほど広い田んぼに植えるようにした。台風が来る前にできるだけ多く収穫するためだ。「収穫の重心を前半に移す」(横田さん)という目的をさらに徹底するため、この時期の品種の面積を2019年よりも5ヘクタール多い45ヘクタールにした。

収穫したコメ

2020年に収穫したコメを入れた袋

一方、後半に収穫する品種は日が短いうえ、狭い田んぼが多くなるので作業効率は落ちる。そこで台風の被害をある程度受けることも念頭に置き、単位面積当たりに植える苗を増やすことで、収量を確保することにした。
苗の本数を増やせば、その分、肥料も多く投入することが必要になる。ただし、一度にたくさんの肥料を入れると、稲が高く伸びすぎて、倒れやすくなる恐れがある。そこで追肥のタイミングを2回に分けることで、稲が高くなりすぎるのを防ぎながら、穂がしっかり実るよう工夫した。
2020年は幸い、台風の被害を受けることなく、収穫を終えることができた。後半に植える苗の数を増やしたことも手伝い、全体の収量は過去5年の平均を2割以上上回った。台風被害を防ぐ努力が収量の向上にも貢献した。

計画通りに実行できなかった試みもある。日本の稲作は、お盆の時期にゆっくり休んでから収穫を始める慣行がある。だが横田農場は収穫期間を前倒しするため、8月12日か13日あたりに稲刈りを始めることを計画した。
7月の長雨の影響で生育が遅れたため、この計画は実現できなかったが、2021年には改めて収穫期間の前倒しを試してみる予定という。

収穫を目前に控えた田んぼ

収穫を目前に控えた田んぼ

新たに求められる稲の品種の特性とは

横田さんは稲の性質に対してさまざまな疑問を持っている。

早い時期に収穫するある品種は、7月の日照不足が響いてモミの数が少なかった。だが中の米粒は2019年より大きく、全体の収量も上回った。これはどんな品種特性によるものなのか。もしモミ数が少ないために一つ一つの粒が充実したのなら、天候不順への何らかの耐性を示しているのではないか。

風で稲が倒されても、粒が飛ばされてもどちらも収量に影響する。ただ倒伏しても一部は収穫できるのに対し、モミが穂から落ちると収穫そのものができなくなる。そこで、ある程度の風速までなら倒伏を防ぎ、あまりに風が強くなったらモミが落ちる前に倒れるといったような品種は開発できないのだろうか。

災害に立ち向かう

災害に立ち向かえる経営を目指す

稲は茎のてっぺんに穂を実らせるのが一般的。だが中には穂よりもはるかに高く葉っぱを伸ばす品種がある。この葉っぱは、穂が風の直撃を受けてコメの品質が落ちたり、モミが穂から落ちたりするのを防ぐ効果はあるのだろうか。

横田さんはこのような疑問を挙げたうえで、「研究機関は今までとは違う品種特性に注目してほしい」と強調した。これまでは「収量が多い」「倒れにくい」「病害虫に強い」といった特性が品種開発のポイントだった。だが、自然災害が頻発する中で、品種に求められる性質も変化する。
横田農場は災害で収量が大きく落ち込んでも利益を出せるような効率経営を実現し、災害のリスクを減らすためにさらなる進化を模索している。だが新たな観点からの品種開発は、経営者の努力の範囲を超える。
農業者と研究機関が緊密に連携して意見交換し、お互いの取り組みがかみ合ってはじめて災害に備える態勢が整う。経営環境が激変しつつある稲作の未来をその成否が左右するだろう。

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「食と農」の現場を日々取材する記者が、田畑、流通、スマート農業、人気レストランなどからこれからの農業経営のヒントを探ります。

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