「1次産業をエンタメにしたい」、農家と消費者をつなぐ新たな物流

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「1次産業をエンタメにしたい」、農家と消費者をつなぐ新たな物流

連載企画:農業経営のヒント

「1次産業をエンタメにしたい」、農家と消費者をつなぐ新たな物流
最終更新日:2020年11月25日

スマートフォン(スマホ)のアプリなどを使い、消費者が生産者からじかに農産物を買う産直サイトが躍進している。両者が直接交流できる機能が評価されて利用が徐々に増えていたが、新型コロナウイルスの感染拡大のもとで一気に弾みがついた。産直サイトが今後さらに伸びるにはどんな課題があるのか。ポケットマルシェ(ポケマル、岩手県花巻市)社長の高橋博之(たかはし・ひろゆき)さんにインタビューした。

コロナで消費者は5倍以上に増加、さらに発展させるには

高橋さんは東日本大震災後に産地を回り、消費者が生産者の実情をあまりにも知らないことを痛感、食材付きの情報誌「東北食べる通信」を2013年に創刊した。農業や漁業の現場を取材した情報と生産物をセットで届けることで、消費者にとって生産者をより身近なものにするのが目的だ。その活動をさらに発展させるため、インターネットで両者をつなぐポケマルを設立した。
ポケマルのサービスの特徴は、アプリを使って両者が交流できる点にある。例えば生産者は栽培方法などの情報を伝え、消費者は「新鮮でおいしかったです」といった感謝の言葉を返す。こうしたやりとりを積み重ねた結果、消費者が産地を訪ねるなど交流が一段と深まるケースも珍しくない。
サイトを立ち上げる際に交流機能を重視したわけについて、高橋さんは「食品ロスが年に600万トン以上出る飽食の時代にあって、食材だけでスーパーやコンビニと張り合うのは難しい」と説明する。そこでスーパーなどが提供しにくい付加価値になると考えたのが、「生産者と消費者の人間関係」。「ぼくらは産直のSNS(交流サイト)を目指している」と強調する。

高橋さん

ポケマルを運営する高橋博之さん

こうした機能が評価され、サイトの利用は徐々に増えていたが、2020年の春過ぎから伸びがとくに急激になった。9月末の登録生産者数は3400人と前年同期比で2倍に増え、消費者の数は23万人と5倍以上になった。
背景にあるのが新型コロナの感染拡大だ。飲食店の休業などで売り先に困った生産者がネット販売に活路を求め、外食の機会が減った消費者が家に直接食材が届く便利さを歓迎した。生産者を応援するため、本来は消費者が払う送料を農林水産省が一部負担したこともこの流れに拍車をかけた。
「どこで何をどう食べるかといった食習慣を変えるのは難しいが、一度変わればなかなか元には戻らない」。高橋さんは先行きをこう展望する。たしかに、消費者が食品をネットで購入する習慣はある程度は定着するだろう。だがそれを確実なものにし、さらに発展させるにはサービスを提供する側と生産者ともにさらなる努力が必要になる。

野菜セット

人気商品の一つである野菜セット

生産者がファンを獲得する方法と送料を抑える工夫とは

生産者に求められるものは何か。この点について高橋さんは「これまで生産者はいかに手間をかけずに売るかを追求してきた。今後はどれだけ手間をかけ、一人の人間として買い手に向き合うかが重要になる」と話す。
高橋さんが「手間」の例として挙げるのが、消費者に送るメッセージの書き方だ。「大抵は他の消費者に送ったメッセージの冒頭の部分を変えるだけ。でもそれはすぐに相手に見透かされる」。自分だけにあてたメッセージではないということに、消費者は敏感に気づいてしまうのだ。
対照的に手間を惜しまない生産者は、買い手のことをしっかりイメージしながらメッセージを書く。例えば、相手に小さい子供がいることを覚えていて、「運動会シーズンなのにコロナで中止になって残念ですね」といった一言をそえる。そうした積み重ねを経て、生産者はファンを増やすことが可能になる。
背景にある消費者心理のことを、高橋さんは「健全な負債感」と表現する。「自分が払ったお金以上のものが生産者から届けられていると感じれば、消費者は何らかの形でお返しをしたくなる」。その結果、もう一度同じ生産者から買ったり、知人に紹介したりするといったことが起きる。

生産者が書いたメッセージやイラスト

生産者が記したメッセージやイラスト

一方、サービスを提供する側に求められるのは、配送コストを下げるための努力だ。ポケマルを含め、産直サイトの多くは宅配便を利用しており、送料を負担しているのは消費者だ。いまは農水省が一部を負担しているので消費者は負担を感じにくいが、支援はいずれ終わる。そのとき、送料を高いと感じた消費者はサービスを使わなくなる可能性がある。
この問題を解決するために高橋さんが考えているのが、複数の消費者が食品を受け取ることができる「ピッキングポイント」の設置だ。いまは宅配便で各家庭まで運んでいるため、送料がかさみがちになる。もし消費者がある場所まで取りに来てくれれば、送料を抑えることが可能になる。
ポケマルとJR東日本が10月24日に高輪ゲートウェイ駅で開いたマルシェは、その実験の場になった。農家が野菜や果物を売るブースの傍らで、ポケマルのスタッフが生産者に代わって消費者に卵を手渡すブースがあった。
輸送に使ったのは新幹線。生産者は福島県の郡山駅まで卵を運び、JRの職員が東京駅で受け取って高輪ゲートウェイ駅まで運んできた。マルシェは、ポケマルで卵を買った消費者が集まるピッキングポイントの役割を果たした。
高橋さんはこのほか、コンビニやレストランなどをピッキングポイントの例に挙げた。何人分まとまれば送料がどれだけ安くなるかなど、中身を詰めるのはこれからだが、実現すれば消費者の負担軽減に道が開く。

新幹線で届いた卵

新幹線で東京駅に届いた卵

消費者が「おいしい」だけではなく、「楽しい」と感じること

生産者と消費者の交流が農産物の新たな付加価値になる──。ポケマルのサービスのコンセプトについて高橋さんから話を聞きながら、筆者は自分がなぜ農業を取材しているのかを考えていた。
都会を離れ、田畑に囲まれて農家と話しているとき、いかに大きな解放感を味わっていることか。営農の考え方について聞いていると、発想の面白さにわくわくすることが度々ある。取材のためというより、活力を分けてもらうために農村を訪ねているというのが偽らざる実感だ。
この感覚を都市にいながら味わえるようにしてくれるのが「産直SNS」なのだろう。サービスの根底にあるのは「1次産業をエンターテインメント化する」(高橋さん)という発想。食材を購入した消費者が「おいしい」だけではなく、「楽しい」と感じることが増えれば、高橋さんの目標は実現へと近づく。
生産者と消費者を直接つなげるための取り組みは、1970年代の有機農業運動をはじめとしてさまざまにあった。だがその多くはスーパーを中心とする大量流通の効率性の前に広がりを持てず、主流にはなれなかった。
スマホという新たな武器を得て、生産者と消費者を結ぶ取り組みはもっと大きな存在になれるだろうか。そのための挑戦がこれから本格化する。

農家を訪ねる高橋博之さん

生産者を訪ねる高橋さん

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「食と農」の現場を日々取材する記者が、田畑、流通、スマート農業、人気レストランなどからこれからの農業経営のヒントを探ります。

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